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まるで平気な魔王さま

「荷電粒子砲ですか!」


 電荷を持った粒子を大量に収束させ、加速器で加速させて撃ち出すこの兵器は航宙艦同士の戦いにおいては大体の場合、航宙艦の持つ最大火力である。

 射程が長く、弾速も亜光速と速い。

 もちろん通常、見てから回避することなど間に合うわけもなく、撃たれたら狙いが外れていることを祈るか、航宙艦の持つ防御フィールドと装甲とがこれを受け止めてくれることを期待するしかないのだ。

 欠点としては荷電粒子の都合上、弾数に限りがあることと、一発撃つごとに大量のエネルギーを消費してしまうので、連射がきかない。

 シオンが驚いたのはこの荷電粒子砲を男爵側の航宙艦のかなりの数が装備していたと言うことであった。

 男爵側の航宙艦はミドルシップ級以下の艦ばかりなのだが、この武装は大量のエネルギーを消費するため、それを供給するジェネレーターも容量の関係からかなり大型の物を載せる必要がある。

 自然と装備させる艦はそれ相応に大型の物となり、現在ではラージシップ級以上の艦に装備させるというのが普通であった。


「意外と男爵様方、お金持ちだったのでしょうか?」


「ただの見栄、な気がしますが」


 サーヤのつぶやきにそう答えつつ、さすがに今回の攻撃は魔王城にそれなりのダメージを与えたことだろうと考えるシオンは、コンソールから診断用のプログラムを走らせた。

 そしてしばらくしてからモニター上に表序された情報を目にして、目が点になる。


「どうしましたシオン様? およそ貴族のご令嬢がしてはいけないお顔をなさっておられますが」


「どんな顔ですかそれは」


「すぐに鏡をお持ちします」


「いりません、不要です。やめてください」


 本気でしっかりと止めなければ本当にここに手鏡なり姿見なりを持ち込んできそうな気がして、シオンはしっかりとサーヤを止める。

 止められたサーヤはあまり本気ではなかったのか、あっさりと引き下がると別なことを口にした。


「ではシオン様が何を気にされたのかをお尋ねしても?」


「魔王城が無傷なんです」


 男爵達が召し抱えている兵がどの程度の実力を持った兵なのかをシオンは知らない。

 ただ兵の中には他種族の者もいるだろうが、基本的には一定以上の階級の者は魔族で占められているはずであった。

 そして魔族の能力は高い。

 魔族一人で人族数人分の能力を持っていると言われるくらいだ。

 そんな魔族が乗っている航宙艦が、少なくとも三桁に届くくらいの数、一斉に砲撃を行えば命中する弾はかなりの数だったはずである。

 だと言うのに魔王城の状況をモニターしている画面には、魔王城の船体にダメージらしいダメージが入っていないということを表していた。

 荷電粒子砲を回避した、とは考えにくい。

 何せ亜光速の弾なのだ。

 小型の戦闘機並みの機動力があれば、もしかしたらということもあるのかもしれないが、魔王城はラージシップ級以上の航宙艦であり、その動きは鈍い。

 全弾外れ、と言う可能性も低かった。

 人族辺りの新兵ばかりが乗っているのならばともかく、魔族が乗っている艦が、しかも三桁近い隻数が一斉に砲撃したのだ。

 全弾命中していてもおかしくはないというのに、魔王城は無傷なのである。


「防御フィールドで受けきった? いえそれでも多少のダメージは存在するはず? この艦の出力が異常に高いとか……?」


 つぶやきながら艦外モニターを見るシオンは、進路を変えることなく直進し続けている魔王城と男爵達の艦隊との距離が徐々に詰まってきていることを知り、こっちへ来るなとばかりに男爵側からの砲撃が白い輝きとなって魔王城へと降り注ぐのを見た。

 確実に十数発から数十発くらいは直撃しているはずなのになと思うシオンは、その白い輝きが魔王城からかなり離れたところで何か目に見えない物に当たったかのように四散するのを目の当たりにする。


「なんですか今の?」


「何って……対物理用結界のことか?」


「けっかい……?」


 聞きなれない言葉をオウム返しにするシオンにアインが頷く。


「元々、魔王城というものは動かない」


「それはまぁ……城ですからね」


 自力で移動することができる建物は今でこそ存在するものの、二千年も前には存在していなかっただろうなとシオンは思う。

 仮にあったとしても、城は住むところであって、そんなものが四六時中あっちこっちに動き回られてしまっては心の休まる暇がない。


「魔王が住むと言っても城はただの城だ。敵からしてみればいい的に過ぎない」


 攻撃しようとする側から見れば、動くことのないそれは確かに的だ。

 魔王本人をどうこうすることはできなかったとしても、城を攻撃することは嫌がらせくらいにはなるはずであった。


「攻撃されれば壊れるが、壊れるたびに直していたのではいくら手があっても足りない。ならばどうすればいいかと言われると、生半可では破壊できなくなればいい」


「なるほど」


「こうして開発されたのが、魔王城用対物理防御結界だ」


 使用されている術とそれが開発されるに至った経緯についてはシオンも理解した。

 しかし、元の魔王城についてシオンは知らないが、現在の魔王城は全長一キロメートルにも及ぶ巨大な航宙艦なのだ。

 それをすっぽりと覆うような防御フィールドを、さらに数十発もの荷電粒子砲を受けて平気な状態で構築する技術など、並大抵のものではない。

 通常のラージシップ級航宙艦にも防御フィールドの発生装置はついているが、これは艦の一部に防御フィールドを発生させてダメージを和らげる代物で、余程の出力差がない限りはノーダメージにするとはいかないものでしかなかった。

 先ほど魔王城が受けたような集中砲火を食らってしまえば、すぐに防御フィールドが飽和状態となり、突破されて即撃沈ということになっていてもおかしくないのである。

 つまり、アインの言う魔王城用対物理防御結界というものの性能はおかしい。

 そんな結論をシオンがアインへ伝えると、アインは困ったように頭をかいた。


「無制限に使えるわけじゃない。大量に魔力を消費する代物だ」


「はぁ……魔力……」


「魔王城に貯蓄してあった分はこれまでのやりとりであっさりと空になりかけているんだが、補充の当てがあるから大盤振る舞いしてみた」


 魔王城の魔力はノワール領内からかき集められた死刑囚達から搾り取ったものだ。

 そんなものの補充の当てとやらが一体どこにあるのだろうかと考えたシオンは、すぐに視線を艦外モニターへと向ける。


「さて、先手は譲ってやったのだし。そろそろ蹂躙してみても構わないよな」


 これから実行されることを想像して顔を強張らせるシオンに対し、アインはそう宣言しながら魔王らしく、禍々しい笑みを見せたのであった。

ブクマや評価の方、よろしくお願いします。


残りストックが少なくなってきたので、次のシナリオを考えつつ一日一更新にしようと思います。


いきなりバズッたら残りも放出してしまいますが、一日一更新でもえらいよね? ね?

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