説明される魔王さま
魔族とは基本的に好戦的で利己的な種族であると言われている。
自分さえ良ければ他がどうなろうが知ったことではないと考える傾向にあり、自分の利益のためならば力をもってそれを邪魔しようとする要素を消し去ることなど、日常茶飯事であると言っていい。
この種族の傾向は二千年という月日の中で様々な出来事などを経ることにより多少は弱まってきている。
それでも元々持っていた気性というものは治りにくく、今でも同族間での争いや他種族へのちょっかいが後を絶たなかった。
魔族という種族を統治しているサタニエル王国も、最初の内はかなり頑張ってトラブルを引き起こす者達を取り締まり、法の下に罰したりしていたのだが、やがてとても手が回らないと判断するに至る。
つまり、早い話が諦めたのだ。
サタニエル王国領内全てを法で統治しようとすることを諦めた王家は、王都周辺と王家直轄領にのみ範囲を絞り、その他の地域についてはそこを治めている各貴族の裁量に一任することとしたのである。
これにより、貴族達の自領内における権力が大きく強化され、サタニエル王国は小さな国が乱立しているような状態となり、余程大きなトラブルを引き起こそうとしない限り、各貴族達の動向は野放し状態になってしまったのだ。
「王家に大した力がないせいだな。逆らったら殺す。何かしでかしたら殺す。疑わしきは殺す。くらい徹底していればそんなことにはならないぞ」
「アインの統治時代ってそんな感じだったんですか?」
「魔王ならば当然の統治だ。文句があるならば俺を殺して魔王となればいい」
「私、二千年前に生まれてなくて本当によかったなって思います」
さぞや生きにくい時代だったのではないかと考えるシオンに、アインは小さく鼻を鳴らす。
「勘違いするなよ? まつろわぬならそうなるというだけのことで、普通に生活をし、疑われるようなことをせず、身の潔白を常に証明できるのならば何の問題もない」
「本物の暴君だった魔王、と言う存在は案外少なかったそうですよ」
サーヤがフォローらしきものを入れては来るのだが、シオンとしては鵜呑みにできない。
「本当ですかそれ?」
「記録に残っている限りで、魔王を名乗られた方は二十五人おられます。その内五人は今のサタニエル王家になりますが」
「俺って何人目だった?」
「十八人目だったかと。在位は確か千年ほどだったでしょうか」
「在位期間はよく分からん。何せ寝る前の二百年程はひたすら勇者潰しをしていたしな」
その頃のことを思い出したのか、アインが非常に嫌そうな顔をする。
「そんなに勇者って数がいたんですか?」
「アイン様は勇者パーティを一人で潰した数ランキング第一位という記録保持者ですから」
「よくそんなこと調べましたねサーヤ」
「メイド部隊の力を結集致しました」
王都の古い書庫まで徹底的に調査しましたと鼻息荒く語るサーヤに苦笑しつつ、シオンは脱線してしまった話の軌道を修正する。
「王家の力云々は考えないことにして。現在の王国はそんな感じなんです」
「つまり、貴族同士の争いはある程度、見過ごされているということか」
「王家への反乱でも企てていれば別ですが、男爵や子爵同士の争い程度であれば放っておかれますね」
「相手の意図は? ノワール領に攻め込んでくる気か?」
ノワール領は子爵領としてはとても狭いということはアインも承知している。
境界線近くに集結しているらしい艦隊が、一体いくつの家から戦力を出し合ったものなのかは不明だが、仮にノワール領へ攻め込み、これを占領することができたとしてもそれぞれが手にできるであろう物はそれほど多くない。
「攻め込んで占領するというよりは、私の身柄を押さえて属領化したいのではないかと」
シオンの身柄を何らかの方法で押さえ、その領地から利益だけを吸い上げる。
余計な手間を増やすことなくただ旨みだけを手にしようとするならば、それはありなのかもしれないと思うアインはすぐにそれを否定した。
領地が小さいということは、上がってくるであろう利益もまた小さいということなのだ。
これを何人かで分ければ、さらに利益は小さなものとなる。
少しでも頭が回る者であれば、受けるかもしれない損害やら艦を動かす手間やらを考えて実行に移すことはないだろうと考えた。
「考えられる理由は三つです」
おそらくコープメイン男爵家を主体とした貴族達が動いた理由が分からず、頭を悩ませるアインにシオンが言う。
「一つは理由として最も弱いですが……私、これでもサタニエル王国内では美女として名が通っています」
訪れる沈黙。
言うんじゃなかったと顔を真っ赤にするシオンをフォローするように、サーヤがアインへ耳打ちをする。
「複数の貴族がシオン様を狙っていた、というのは一応事実です」
「美女云々というのは?」
「王国で五本の指に入る、と評されていることも事実です」
「人妻になる前に食い散らかそうという魂胆か? まぁ魔族らしいと言えばらしいか」
採算度外視というのもまた魔族っぽいなと思うアインに、シオンは二つ目の理由を告げる。
「二つ目はアインの存在ですね。私の領内に強力な魔族が現れたからと」
「戦力が増強される前に叩いて潰しておけということか? 手遅れ感が否めないが考えとしてはありなのかもな」
決闘騒ぎの時に、妙な考えを起こせないよう相手を惨たらしく殺しておくべきだったかとアインは少し後悔する。
殺せば面倒なことになりかねないからとシオンから言われてはいたが、生かしておいても結局面倒なことになるならば、見せしめ的にやっておくべきであった。
「反省は次に生かすか。それで三つ目は?」
「ノワール領には昔から貴重な宝が眠っているという噂がありまして……まぁ実際はアインのことだったりするんですが」
「それを知らなければ、その宝で採算が合うかもしれないと皮算用もするか。とりあえずその理由とやらの内二つが俺に起因すると言うならば仕方がない」
「陛下。どうぞご下命を」
「サーヤ。メイド達に指示しろ。魔王城を出す。シオンは……その辺で見てろ。後始末だけ頼む」
「後始末って……出すってこの艦だけですか!?」
「過剰戦力だとは思うが、相手が建材と命をタダでくれるというのだ。こいつにたらふく食わせてやらなければなるまい」
数の差など全く意味がない。
そう言わんばかりにアインは、心配そうな顔をしているシオンとは対照的に、とても楽しいことが待ち構えているかのように笑うのであった。
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