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良くない知らせを聞く魔王さま

 色々と不安めいたものはあるものの。

 この分であれば魔王城の維持管理については問題がなさそうだ。

 そう考えたシオンは相変わらずブリッジの艦長席で前後に船を漕いでいるアインを起こさないようにそっとその場を離れようとした。

 それを見送ろうと足音も、服の衣擦れの音も立てないままに後に続こうとしたサーヤが足を止める。


「シオン様」


「ん?」


 魔王城の艦内は相変わらず人工重力が働いておらず、謎の力で床に足をつけているサーヤ達とは違い、シオンの体はふわふわと浮いているような状態である。

 そんな状態でサーヤから呼び止められたシオンは大きく態勢を崩したのだが、あらかじめそうなると分かっていれば立て直すのも早い。

 適当な壁の凹凸に手をかけて、ぴたりと体の動きを止めて見せたシオンにサーヤが小さく拍手する。


「芸じゃないんですけど……」


 少々むっとした表情でシオンがそう言うと、サーヤはそれに取り合おうとはせずにブリッジの入り口を指さした。


「では、次も上手に回避してみてください」


「次って?」


 シオンが聞き返そうとするより先にサーヤが指さしていた扉が勢いよく開く。

 それだけならばなんということもなかったのだろうが、続いて飛び込んできた黒い影がブリッジ内の空気をかき回した。


「何事ですか?」


 乱れが空気が服や体を揺らし、シオンは壁に凹凸を強めに掴むことでそれにどうにか耐えたのだが、どこも掴んでおらず、ただ立っているだけのサーヤはその場から微動だにせず、メイド服もまるで揺らぐことがない。

 物理法則とは一体何なのかと問いただしたくなるくらいに超然とした佇まいのサーヤの前に着地した黒い影は、そのまま掴みかかるようにサーヤへ近づこうとしてサーヤが何気なく振りぬいた平手に頬を張られてその場でくるりと一回転。

 ぺたりと床にしりもちをついてしまったそれの胸倉をサーヤは掴み、片手でぐいと持ち上げてから顔を近づけた。


「もっと静かに入って来れませんか?」


 声を荒げるでもなく、淡々と静かに問いかけられて身を震わせたのは、サーヤと同じくメイド服に身を包んだ少女だ。

 余程急いでやってきたのか髪は乱れ、額や首筋にうっすらと汗をかいていたのだが、至近距離からサーヤに一言声をかけられただけでかなり荒かった息がぴたりと止まる。

 相当な恐怖政治でも敷いているのだろうかと背中に嫌な汗が浮かぶのを感じるシオンは、目を白黒させつつもサーヤに叱られないように背筋を伸ばし、直立不動の姿勢を取る少女をいくらか哀れに思う。


「それで? 魔王城のメイドにあるまじき振る舞いをしてまで、何を急いでいたのか報告をしなさい」


 少女の背丈はサーヤに比べるとかなり低く、胸倉を掴まれると足が床から離れてしまう。

 そのためスカートの裾や足をぷらぷらと揺らす状態で持ち上げられている少女は、なるべく見苦しかったり聞き苦しかったりしないように注意しながら口を開いた。


「ま、魔王陛下にご報告を」


 サーヤとシオンがほぼ同時に艦長席の方へと目をやったが、そこに座っているアインは深く背もたれに体を預けた姿勢で、顔は天井を仰いでいた。

 これは完全に寝たままだなとシオンは溜息を吐き、サーヤは内心の感情をまるで外へは見せずに吊り上げている少女の方へ目を向ける。


「シオン様と私が代わりに聞きます」


 わざわざ主人を起こすまでもないことだろうとサーヤは考える。

 サーヤ自身、魔王城内ではかなりの裁量を任されている身分であるし、ここにはノワール領内で最も強い権力を持っていることになっているシオンまでいるのだ。

 大概のことはこの二人がいれば、処理できるはずであった。

 自分達だけでは処理できないスケールの話になった場合は、改めてアインを起こすことを検討すればいい。


「は、はい。えっとその……下ろして頂いてもよろしいでしょうか?」


 人工重力が働いていないような状況なので、胸倉を掴まれて持ち上げられていたとしても特に苦しいようなことはない。

 だがその状態のままでは、何かを報告するような雰囲気にはならず、少女がおそるおそるといった感じでそう言うと、サーヤはあっさり少女から手を放した。

 すると何故か少女の体は床へと下り立ち、少女はそのまま流れるような動きでその場に膝をついた。


「報告致します。ノワール領境界線付近に多数の艦影を確認致しました」


「それは……どこの領ですか?」


 シオンの領地はサタニエル王国領の中では端の方にある領地だが、その境界線はほかの国とは接していない。

 つまり隣の領地は全てサタニエル王国の貴族のものなのだ。

 味方の領地内で戦力の集中が見られたからといって、すぐに何かしらの危険と結びつくというわけではない。

 しかしシオンは少女の報告を耳にした時、何かしら嫌な予感というものを覚えていた。


「コープメイン男爵家です」


「どこかで聞いたような名前ですよね? シオン様」


「魔王陛下と決闘騒ぎを起こした冷や飯食いの実家ですよ」


 嫌な予感が強くなるのを感じつつ、シオンは重ねて問いかける。


「集結している規模は分かりますか?」


「現在調査中でありますが、ミドルシップ級が既に五百はいるようです」


 少女が告げた情報に、シオンは小さくだがはっきりと舌打ちした。


「シオン様?」


「それだけの数ならば、コープメイン男爵家だけの戦力ではありません」


 家柄や領地の広さなどにもよるが、サタニエル王国で男爵家が用意できる戦力はミドルシップ級ならば百隻前後というのが普通であった。

 その五倍もの戦力が既に集結しているというのであれば、コープメイン男爵家の単独行動であるとは到底思えない。


「味方の艦が集まっているのが何か問題なのか?」


 三人の話声で目が覚めたのか、アインがそう問いかけながら艦長席の上で身を起こす。

 サーヤと少女が目を伏せ、小さく頭を下げるのを横目で見ながらシオンは言った。


「えぇまぁ。王家の目も手もそれ程長くはないということですね」


「説明してくれ」


 よくないことが起こりつつあるのだろうなと察しながら姿勢を正すアインに対し、シオンは苦笑しながらも頷いたのであった。

ブクマや評価の方、よろしくお願いします。


日曜日なので一回更新。


十万字ちょっとまではストックがあるのですが、その先はまたちょっと

時間をいただかないとなぁ、となるやもしれません。


ジャンル別二位キープ、やはり一位はどこも高い……

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[一言] 餌が来たのかな?
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