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大金稼ぐ魔王さま

 金は工業製品の材料の一つとして優秀な物であると同時に、その輝きの美しさから貴金属としても重宝されている。

 金属としては非常に柔らかい部類に入るので、構造材や装甲には向いていない。


「市場に流したらあっさりと値崩れしてしまいそうな量ですね」


 好きに使ったらいいとアインから渡された情報を目にしたシオンは低く唸った。

 金の価値は見た目や素材としての優秀さの他に、採掘量があまり多くないという点が挙げられる。

 アインがシオンに渡した量は人々が生活している圏内全体からしてみれば微々たる量でしかなかったのだが、限られた一部の圏内で一気に放出してしまうには、少しばかり多すぎる量であった。


「値崩れしない程度に少しずつ売り抜けたい所ですが……そうするとまとまった資金を手に入れるのにそれなりに時間がかかってしまうんですよね」


 ある程度の損は覚悟の上で一気に流してしまうという方法はある。

 しかしそれをやってしまうと損をする金額が、シオンの懐事情からすると無視できないくらいの金額で、シオンとしてはできればたたき売りのような真似はしたくない。

 しかしそうなってくると、売値が下がってしまわないように相場の状況を見極めつつ、金を処分していかなければならなくなる。

 これはとても面倒くさい。

 誰かに任せてしまうという案も考えてはみたシオンなのだが、任せっきりにしてしまうにはあまりにも取引の規模が大きすぎた。


「御用商人のようなものはいないのか?」


 また違った問題で頭を悩ませ始めたシオンにアインが問いかける。


「いますけど。うちみたいな小さな領地にいる商人の規模なんてたかが知れているんですよ」


 ノワール家領内でしか活動していないような商人では、いくら頑張ってみたところで大量の金の大半を領内で流通させてしまう。

 それでは任せる意味がない。

 だが複数の領地を渡り歩いて商いをしているような規模を持つ商人と付き合おうと考えると、ノワール領は少しばかり小さかった。


「そもそも俺が渡した金なんだが、いくらくらいの物なんだ?」


 現世における通貨というものをアインは全く知らない。

 いい機会なので聞いてみようと尋ねたアインにシオンは宙をにらんでしばし沈黙。


「ざっとした計算になりますが、五十億クレジットくらいになるのではないかと」


 大金のように聞こえる響きの言葉ではあるのだが、それが具体的にどのくらいの価値になるものなのかアインには分からない。


「合成のパンが一つ百クレジットくらいです。これに合成コーヒーとサラダめいたものをつけた軽食で、大体五百クレジットというところでしょうか」


「一千万人分の軽食か」


「そう言われるとなんだか大した金額じゃないような気がしてきました」


 アインが口にした人数は、ノワール家領内にあるそこそこ大きな都市の人口と同じくらいでしかない。


「そもそも一気に放出したとして、どのくらい損をするものだと考えているんだ?」


「そうですね。何も考えずに一気に全部放出したとして……半分くらいになってしまうのではないかと」


 相当買い叩かれるだろうことを前提にシオンが予想を口にすると、それを聞いたアインが渋い顔をする。


「半分はきついな」


「保管やら輸送のコストを考えますと、仕方ないのかなと」


「ふむ」


 面白くない話だなとアインは考える。

 魔王城における副産物であるとは言え、魔王が魔王妃に渡した物の価値が半分になってしまうというのだ。

 これはアインからしてみれば、酷く面白くない話である。

 魔王たる自分のことは知れ渡っていないので、価値が上がるということはないにしても、だからと言って半分になってしまうというのはあまりにも買い叩かれすぎであろう。


「サーヤ」


「はい。ここに」


 執務室の中にはいないはずの人物の名前をアインが呼ぶと、誰もおらず何もなかったはずの空間からぬるりとばかりにメイド服姿のサーヤが姿を現した。

 彼女はてっきり宇宙空間内の魔王城にいるものだとばかり思っていたシオンは、それに加えてサーヤが何もない空間からふいに姿を現したことに、表情を取り繕う余裕すらないくらいに驚く。


「どこから!?」


「この身は常に魔王様のお傍に」


「魔王城にいたのでは!?」


「アイン様の帰還に併せてこちらに戻りました」


「扉から入ってこなかったですよね!?」


「最近、短距離テレポートの魔術を覚えましたので、折角ですから」


「何なんですかそのチート的な能力は!?」


 防犯関連の設備や情報が根こそぎ無意味になる技能である。

 しかも魔術という現代では理解不能な技能であるので、対策の立てようがない。

 思わず頭を抱えるシオンを放置して、サーヤはアインに尋ねる。


「アイン様。ご用向きは?」


「何人か使って、こいつをなるたけ高額で処分してきてくれ」


 アインが積まれている金塊の画像を指さすと、サーヤは小首を傾げた。


「承知いたしましたが、どの程度を?」


「一トンくらいあっただろ」


「魔王城にあります在庫のお話でしたら。十トンくらいになりますが」


 さらりとサーヤが言い放った数値にシオンが思わず噴き出すが、主従はそれを見ることもなく会話を進めていく。


「手元に少し残しておくか?」


「領内で手つかずの小惑星はまだまだありますので、日々増えていく一方ですが」


「金が必ず含まれているわけでもないだろうから、際限なく増えることもないだろうがまぁいいか。面倒だから今ある分は全部放出しろ」


「承知いたしました。魔術の使用制限と、どの程度の成果をお求めでしょうか」


「使用制限は無しとする。ただし絶対にバレるなよ。成果は最低で五百億。上限は設けないが多ければ多い分だけ評価する」


「ご下命確かに。すぐに取り掛かります」


 スカートの両サイドを小さく持ち上げ、きれいなカーテシーを行ったサーヤの姿が瞬時に消える。

 それは姿を現した時と同様の唐突さで、呆気に取られてしまったシオンはアインとサーヤの会話の中にあった危険な要素に気づけないままに、ただ呆然とサーヤが姿を消した場所を見つめるだけであった。

ブクマや評価の方、よろしくお願いします。


一見すごそうに見えますが、食いつぶしている物も相当なんですよね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 10トンですか? >サーヤの背丈を超える高さで部屋いっぱいに積み上げられていた これを日本の1kgインゴットで計算すると、2m×2mちょっとに150cmほど積み上げてあったとして、12…
[一言] ふんだんに使えるなら、装甲に薄く貼り付けて対化学兵器用皮膜に……ならんか、やっぱり。酸をぶちまけられると、武装は無事でも中身が大ダメージを受けちゃうとかかなあ。
[一言] そう言えば、物価が高いのに現魔王の人気が高いのは何故なのだろう? 貧乏貴族がシオンのとこだけなのか、貧乏貴族が少数居るけど、現魔王の支持者が多すぎて飲まれてるのか、既に話の中で出てきていたら…
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