お金儲けと魔王さま
アインから話を聞いたシオンがまず考えた資金繰り案は、年配の金持ちを標的とした若返りであった。
何せその辺でいろいろとうたっている美容関連の様々な代物とは一線を画し、本人が本当に若返ってしまうのだ。
話が話であるだけに信じてもらえるまでが大変そうではあるものの、一度実際に施術さえしてしまえばこれに金を出ししぶるような者はいないだろうと思われた。
さらに客もより取り見取りであるはずで、とてつもない利益を生むのではないかと思われたが、冷静になって考えてみるとメリットは確かに大きいものの、デメリットもかなりなものになりそうで、シオンはこの案を却下する。
「ダメか」
「社会に対する影響力が大きすぎますし、確実に王家やら別種族達なんかも目をつけてくるでしょうから」
話があまりにも大きくなりすぎてしまえばシオンの手には負えなくなる。
アインならばどうにでもしてしまえそうではあるのだが、シオンとしては魔王の力による大鉈を振るうのは、あまりよろしくないだろうと考えた。
若返りがダメなのと同じ理由で難病に治療というものに手を出すのも止めておく。
いかに魔王の力が強大であるとしても、この世に存在しているすべての病人を癒しつくしてしまえるわけではない。
つまり、治せた者と治せなかった者とが存在することになり、それが不必要な恨みを買うようなことになりかねないと考えたのだ。
「意外と難しい」
「まぁゆっくり考えろ。協力はしてやろう」
執務室で頭を悩ませるシオンの横で、アインはたどたどしい指使いでタブレット型の端末を操作していた。
一般常識の教育であるとか、二千年に及ぶ歴史の学習であるとか、機械の操作というものに慣れてもらうためにシオンはアインに端末を渡しており、時間があればアインはそれをいじるようになっている。
「ちなみに今は何を?」
「魔王城の状況をモニターしている」
いつのまにやら結構使いこなしているなと思いながら、執務室の机を離れてアインが腰かけているソファに腰を下ろしたシオンは、アインが操作している端末を横から覗き込んだ。
「なんだか妙な数値が見えます」
見間違いだろうかと何度か目をこすりながら、改めて端末を覗き込んだシオンはそこに表示されている数値を目にして首を傾げた。
「アイン、私の目がおかしなことになっていないのだとすれば。航宙艦のデータ表示の全長が一キロを超えているように見えるのですが?」
ミドルシップ級は全長五百メートル前後の航宙艦で、アインに渡した航宙艦はちょうど五百メートルの大きさであるはずだった。
これが全長一キロメートル以上となるとラージシップ級からメガシップ級と呼ばれる巨大艦となり、サタニエル王国内でもこれを所持している者は少ない。
「育ったよな。サーヤ達が頑張ってくれたおかげだな」
魔王城が自己強化をする艦だということは聞かされていたシオンなのだが、まさかそれが元の倍の大きさにまで成長しているとは思ってもみなかった。
「資材、足りているんですか?」
「資材は現地調達している」
「現地って……」
魔王城がいる辺りは係留用のドックがあるだけで、資材を調達できるような場所は特に設けられていない。
それにそもそも資金難になりかけているような状況で、アインがどのようにして資材を調達しているのかがさっぱりわからなかった。
「近く……もしかして」
「係留ドックを食った」
さらりと言うアインの胸倉を、シオンは両手で掴む。
「職員達は!? まさか魔力の糧に……」
死刑囚では数が足りないからと係留ドック内にいた職員達を使い潰したのではないかと危惧したシオン。
「魔王は時として非道も行うが、意味もなく仕える者を処したりはしないものだぞ?」
「ではどこに!?」
「勤務地が魔王城内係留ドックに変更になっただけだ」
心配ならば後でサーヤに確認してみればいいと言われて、どうやらこれは大丈夫そうだなとシオンはアインの胸倉から手を離す。
「申し訳ありません。早とちりしました」
「かまわない。勝手にドックをつぶした負い目と相殺してやろう」
そう言われてシオンは自分の額に手を当てて天井を仰ぐ。
人的被害は出ていないものの、シオンからしてみれば係留用ドックという設備が一つ、なくなってしまったということになる。
優先度は低いとしても、いずれ改めて用意しなければならないとなれば、ドック建造の費用が懐に痛い。
「うちって、あんまり収入がないんですよ……」
王国中央から離れ、特産物の類も特にないノワール子爵領は収入がそれほど高くない。
代々こつこつと貯蓄してきた資金はあるものの、有事のことを考えればそれが目減りしてしまうというのはとても痛いことであった。
これは早急に魔王の力を何らかの形で収入に変える方法を考え付かなくてはとシオンは決意を新たにする。
「ノワール家当主として、破産の挙句の領地没収なんてことになってしまっては、ご先祖様に顔向けができません」
「金の話か? それならばこれをやろう」
そう言えば足りないなどと言っていたなと呟きながらアインが端末を操作して一つの画像を呼び出した。
何をくれるつもりなのかと画面へと目をやったシオンはそこに表示されている物が何なのか、一瞬理解ができずに目をぱちくりとする。
どこかの室内を映し出している画像。
そこにはサーヤの姿が映っている。
問題はそのサーヤの隣に、彼女の背丈を超えるほどに積み上げられている代物だ。
金色に光るブロック状の物。
それがサーヤの背丈を超える高さで部屋いっぱいに積み上げられていたのである。
「アイン、私には金のインゴットに見えるのですが?」
「金のインゴットだぞ?」
「一体どこから!?」
「近くの小惑星帯から。片っ端から魔王城に積み込んで素材ごとに分別している。他のメタル類は魔王城の強化素材として使うんだが、これはあまり使わなくてな」
全く使わないというわけではないのだが、少量で済んでしまうので貯まる一方なんだとぼやくアインをよそに、これだけ貯めこまれた金塊を現金に換えた場合にどのくらいになるのやらとシオンは思わずその画面を食い入るように見つめてしまうのであった。
ブクマや評価の方、よろしくお願いします。
SF系統だと意外と金って価値がないんですよねぇ。




