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ちょっと不満な魔王さま

 決闘の内容は瞬く間に情報としてノワール領全体に広まるようなことはなく、ただアインがダリルの挑戦を退け、正式にシオンの婚約者となったという情報だけが驚く程速やかに拡散される。


「なんで?」


 詳細なことはすっぱりと省略され、結果と婚約に関する祝いの言葉だけがずらずらと並ぶ新聞をシオンの執務室で読んでいたアインは紙面から顔を上げて首を傾げる。

 今時、紙を媒体とした代物はほとんど使われておらず、大概の物は電子化されているとはシオンの弁であったが、何故か新聞については一部の熱狂的な読者が紙媒体による発行を強く求めたことで、それなりの規模で紙の新聞が出回っていた。


「何か不満でも?」


 執務机の上に立体的に投影されている情報を、次々と処理しながらシオンが尋ねると、アインはシオンと向かい合うように座っているソファーの上で新聞の紙面を指で弾く。


「決闘の詳細が全く記載されていない」


 二千年前、決闘と言えばちょっとした娯楽扱いであった。

 決闘があると訊けば、それなりの数の観衆が集まって来たものであるし、その情報は口コミで広く広められたりしたものである。

 今回も特に声はかけていないと言うのに決闘を行った練兵場にはそこそこの数の観客がいたので、アインはてっきり決闘の話は広まるものだとばかり思っていたのだ。


「奴を助命したのがいけなかったか? やはり敗者の末路として凄惨な最期をきっちりと迎えさせてやるべきだったか?」


 あれだけ圧倒してやれば、後に続こうと考えるような馬鹿は出てこないはずであるし、元々できるだけ殺さない方がいいという話しであったので、アインはダリルを始末していない。


「いえ、そちらは助かったのですが……」


 子息を殺されれば、経過はどうであれ遺族は恨みを持つことになる。

 シオンより爵位が下の貴族だとしても単独ではなく徒党を組まれればそれなりに面倒なことになりかねない。

 故にダリルが殺されなかったことはシオンからすれば大助かりであった。


「決闘の内容に関しては、私が口外を禁じましたのでこのようになっています」


 この処理にはアインによって若返らされたサーヤ達が活躍してくれた。

 彼女らからしてみれば、あの決闘騒ぎを実際に目にした者達の口を封じ、嘘ではないものの大事なところが抜け落ちた情報を拡散させることなど造作もないことだったのである。

 彼女らの忠誠はアインに捧げられてはいたのだが、その妃予定となっているシオンにもある程度は向けられていて、それがシオンの助けとなった。


「何故?」


「あれを広く知らしめてしまうことは非常に拙いと判断しました」


 納得がいかない様子のアインに、シオンがきっぱりと応じる。


「体に刃物が通らない。生身でレーザーを弾く。テルミット反応にも耐えてしまうってどんな存在なんですか」


「どんなって……魔王だが?」


「それはそうなんですが……」


「二千年前ならあれくらい、その辺を歩いている魔族でもできたぞ?」


「それはさすがに嘘でしょう?」


 信じられないと頭を振るシオンなのだが、アインとしては何一つ嘘を言っているつもりはなかった。

 自分が受けた攻撃に多少なりとも魔術の要素が加わっていれば難しかったのかもしれない。

 しかしそうでなければ完全に無傷で切り抜けるとまではいかないかもしれなかったが、命を落とすことになるような魔族などいなかっただろうなとアインは思う。


「二千年前って……どんな戦いが繰り広げられていたんですか?」


「個人の力で地形が変わるなんてことは、よくある話だなってレベルだな」


「逆に言うとそのくらいの威力の攻撃ならばアインにも通用すると?」


「単なる物理攻撃だとしても、山が吹き飛ぶくらいならちょっとは痛いかもな」


 そう言われたシオンは魔王と勇者との戦いなんてものが起きてしまったら、星の一つくらいは軽く消し飛ぶようなことになってしまうのではないかと思ってしまった。

 実際は、魔術的な要素が含まれていなければそこまで派手なことになるようなことはなく、シオンが想像しているような事態になることは稀ではあったのだが、特に訂正する必要も感じなかったのでアインは黙っておく。


「と、とにかく。そんな存在を有しているなんてことを広める気はないです」


 どう考えてもただのほら吹きと笑われてしまうか、或いはとてつもない脅威として周辺の領主達から目をつけられてしまう未来しか想像できず、シオンは思わず身震いする。


「中央に知られれば、絶対に厄介なことになるでしょうし」


「サタニエル王家か?」


 現在、魔王の呼称を持っているのはサタニエル王家だけである。

 ただこの魔王の称号は、アインのように自分の力でもって奪い取ったものではなく、政治的に王家という立ち位置にいるので自然とつけられたものであり、アインの持つ称号とはかなり異なる代物だ。


「潰される前に……」


「やめてください。王家の所有戦力って戦闘用航宙艦だけでも大小問わずなら数千隻に及ぶんですから」


 地表上の地形が変わるどころか星系一つ丸ごと消し去られかねない戦力である。

 正面切って戦おうなどと考えたくもない戦力であるが、これは王家単体が持つ戦力に限った話で、付き従う貴族の戦力を足せばすぐに数万隻にまで膨れ上がるのだ。


「戦力差は歴然です」


「そうか。それならば魔王城シリーズの完成を急ぐべきだな」


 至極真面目な顔でそんなことを言うアインにシオンが尋ねる。


「シリーズって……何隻作るつもりなんですか?」


「五隻は欲しいな」


 それは五隻もあれば満足するという意味なのか。

 或いは五隻もあれば数万隻に及ぶであろうサタニエル王家の戦力を相手にできるという意味なのか。

 どちらの意味で言っているのか計りかねてシオンは頭を抱える。


「と、とにかくあまり悪目立ちしたくないんです。分かってもらえますよね?」


「シオンがそういうのであれば、その考えに従おう」


「素直ですね?」


「王とは大体、妃には弱いものだ」


 冗談めかした口調でアインがそう言うと、シオンは溜息を吐き出しながらもほんの少しだけ頬を赤らめたのであった。

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