余裕の魔王さま
「これならばどうだ!」
ダリルがそう叫びながらアインへ左手を突き出す。
その腕に装備されていたパルスレーザー発振装置が、小さな光弾状のレーザーを三つの銃口から大量に吐き出し始めた。
「なんだこれは?」
本来ならば、ロクに防御装備も持っていないように見えるアインは、無数の光弾に焼き貫かれてぼろ雑巾のようになって倒れるはずであった。
しかし現実は、訝し気に目を細めるアインまで光弾が届くことはなく、何もない空中で何か壁のようなものにぶつかったかのように砕けてただ消えていく。
「馬鹿な! どれだけ強力なシールドを装備しているというんだ!?」
「ただまぶしいだけの玩具が通用しなかったからと言って、そんなに驚くようなことではないだろうに?」
「ふざけるなっ!」
頭に血が上りつつもレーザーがまるで役に立たないと言うことは分かったらしく、ダリルは射撃を中止してまたアイン目掛けて切りかかるのだが、先刻同様にそれらの攻撃がアインの体を傷つけることはない。
一方のアインはダリルが必死に自分へ攻撃を加え続けているのを、やや呆れながらもたた見守っている。
確かに何の対策もしていなければ、それなりに痛そうだなとアインが思うような攻撃ではあった。
しかしそれらの攻撃はあくまでも物理的なものでしかなく、防御をかいくぐったり破壊したりするための仕掛けや属性の付与。
或いは呪いや汚染と言った厄介な付帯効果がまるで施されていないのだ。
こうなるとアインとしては物理的な攻撃力のみ意識していればいいだけで、防御は非常に容易であった。
大量の光弾を撃って来た時には少しばかり驚いたものの、この光弾にも特に仕掛けらしい仕掛けは施されておらず、ただ強い熱線のようなものが飛んできているだけだったので、同じく対物理の魔術障壁で防げてしまっている。
「何と言うか……最近の魔族は芸が無くなってしまったのだなぁ」
「ほざけっ!」
呆れるアインに怒りをあらわにしたダリルが、腰に装備していた焼夷弾をアインの足元へと放り投げ、全力で飛びのいた。
それはやり過ぎなのではないかとシオンが警告するより早く、アインの足元から生じた炎がアインの体を包み込み、周囲に爆発的な熱波をまき散らす。
それは観客の間からもいくつか悲鳴が上がる程の強烈さで、最も近くにいたダリルが装着しているパワードスーツにも、操作盤上でいくつかの警告が出るくらいのもので、ダリルは勝利を確信して高笑いを上げた。
「馬鹿が! まともに受けたな!」
「窒息でも狙ったのか?」
嘲るダリルの声に淡々と応じたのは炎に巻かれたはずのアインの声であった。
自分の耳で聞いたものが信じられないとばかりに後ずさるダリルの視線の先で、消えた炎の中から無傷のアインがぱたぱたと手で煙やら何やらをあおぎながら、ゆっくりと進み出てくる。
「今の攻撃はまぁまぁだったが……もっと限定された空間で使わないと窒息を狙うのは無理だと思うぞ?」
「そんな……馬鹿な」
「俺も息ができないと苦しいからな。ただ窒息を狙うのはやはりお勧めできないぞ。なんせ俺は八時間くらいなら息を止めていられるからな」
「化け物かっ!?」
「たまに言われる。似たようなものなのかもしれないな」
つまらなそうにそう言って無造作に間合いを詰めてくるアインに対し、ダリルは再びパルスレーザーを撃ち込むのだが、光弾はやはりアインに届くことなく散らされ、その歩みを遅らせることすらできない。
それでも尚、撃ち方を止めないダリルに対し至近距離まで近づいていったアインは、掴みかかって来たダリルの腕を軽く払いのけるとその左肩へぽんと手を置いた。
「まずは左腕」
攻撃されてなるものかと慌てて逃げを打ったダリルだったが、アインとの間に多少の距離を取ったところで自分の左腕が動かなくなっていることに気が付く。
攻撃らしい攻撃を受けてはいない。
ただ左肩をそっと触られただけだ。
それだけのことで、肩から先の腕一本が全く使い物にならなくなっていることに、ダリルは恐怖を覚えた。
一方のアインはダリルが力の入らなくなった左腕をだらりと垂らした姿に自分でしたことでありながらも、意外だなという表情を見せる。
「何を……俺の腕に何をしたっ!?」
「軽く呪ってやっただけなんだが、まさか素通しとはなぁ」
簡単なことのように言っているアインなのだが、それを聞いていた者の中でその意味をきちんと理解していたのはシオン一人だけである。
魔王たるアインが軽くとは言え自ら呪いをかけたのだ。
ダリルの左腕は腐れて溶け崩れていたとしても不思議ではない。
医者と葬儀屋とどちらをここへ呼んでおくべきだろうかと検討を始めたシオンの視線の先でアインが動く。
近寄って来るなとばかりにめちゃくちゃに振り回されたダリルの右腕を軽く弾いてから、するりと懐へと潜り込んだアインがダリルの胸の辺りを扉をノックするかのように一度だけ叩いた。
途端にダリルが発したのは呻きなのか悲鳴なのかよくわからない音。
叩かれた所を右手で押えながら、ダリルはその場に膝をつく。
「何故だ!? 装甲の上から叩かれているだけのはずだというのに……」
「俺から言わせれば玩具の域を出ていない代物でしかないんだがなぁ」
苦し紛れに突き出してきた右腕を掴み、ナイフの刃を指でつまんでぺきりと圧し折る。
さらについでとばかりに動いていない左腕に装着されている銃も無理やりむしり取って握りつぶす。
「な、なにっ!?」
どちらも生身の力で破壊できるようなものではなく、驚くダリルへアインはダリルの腰に装備されている焼夷弾をぽんぽんと叩く。
「これ、俺には効かないがお前にはどうなんだ? 試しに俺と一緒に食らってみるか?」
「こ、このスーツならば……」
耐え切れるはずだと続けようとしたダリル。
しかしアインが無言のまま素手でべりべりとパワードスーツの装甲を力任せに引っぺがすのを見て、即座に自分の負けを認めてシオンに助けを求めたのであった。
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