過激な魔王さま
「とりあえず、私の領地に関する評価はどうでもいいです。問題はそこではありません」
本当にどうでもいいという訳ではなかったが、今はそれどころではないからとシオンはアインへ尋ねる。
「準備の方はどうなのですか? もうそろそろダリルをなんとかできそうですか?」
「なんとか、の度合いによるな」
「具体的にどうぞ」
「殺していいのか、半殺しまでなら許されるのか、或いは無傷で返せと言われるのかということだな」
それによって難易度が変わってくるからなとアインはとても面倒そうに言う。
生死を問わないと言うならば、その時点で自分が扱うことのできる最大威力を叩きつけてやればいい。
結果、ダリルが死のうが生きようが、話しに決着はつくだろう。
面倒なのは決着に匙加減を求められてしまった場合だ。
「無傷も可能なんですか?」
ダリルは特にシオンにとって重要な人物と言うわけではなかったのだが、それでもれっきとした貴族の血筋に連なる人物だ。
これを適当に殺してしまったり、再起不能に追い込んでしまえば、これ幸いとばかりに息子を害されたと言う旗を立ててダリルの生家である男爵家が乗り込んでくるかもしれない。
「家ごと潰せ」
「無茶です。下手なことをすると国が出てきます」
サタニエル王国は貴族同士の争いについてはどちらかと言うとあまり規制をかけていない国であった。
これは魔族の種としての性質によるところが大きい。
完全に禁止してみたとしても、それと知られないように裏で動く者が多いだろうと予測されていたのだ。
そんなものをいちいち取り締まっていたのでは人手がいくらあっても足りないと言うところから隠れてやるくらいならばある程度は容認するので分かり易いところでやってくれと言う方針になったのである。
とは言え、無制限に潰しあいを認めてしまったのでは国として成り立たなくなってしまうので、一族郎党皆殺しと言うところまでは認められていないのだとシオンは言う。
「中途半端で生ぬるいな」
「二千年前の感覚で言われましても……相手が一族郎党全員でかかってきたりするなら話は別なんですが……」
「争いごとに二千年前も今もあるものか。いいか? 最も効率的に争いを決着させる方法は敵の全滅だ。一人も残さずきれいさっぱりと始末し尽くしてしまえば後腐れがない」
きっぱりと言い切るアインの言葉にメイド達の中から小さくではあるのだが拍手が起きた。
それも一人二人からではなく、大半のメイド達がアインの主張に賛同を示して拍手をしていたのである。
「本当に洗脳とかしていませんこれ?」
「魔王が洗脳で賛同者を作るとか、やり方がせこすぎるだろう」
「まぁそうですが」
「二千年前に勇者パーティにいる聖女や女戦士、女騎士と言った連中を洗脳しまくったことはあるんだがな」
「参考までに、ナニしたんですか?」
「今のイントネーション、どこかおかしくなかったか?」
「気のせいかと。それで?」
「大したことはしていない。暇潰しみたいなものだったからな。せいぜい、パーティの中で二股かけさせたり、誰か一人に難癖つけて追放してみたり、勇者の夜の方を痛烈に罵らせてみたりしたくらいだ」
アインにとって洗脳や催眠は全く得意ではない分野の技術だったのだが、それでも簡単に多くの勇者パーティが崩壊や仲間割れ、再起不能へと追い込まれた。
その結果を見てアインとしてはこれは特に面白いことでもないと判断し、この手の魔術を半封印状態にしてしまっている。
「好意を寄せていた聖女に、男性機能に関してめちゃくちゃ言われた勇者がショックのあまり廃人になったのを見てな。魔王としてもちょっと悪いことをしたかなと哀れに思ってしまって……」
「アインって、どれだけの勇者を葬って来たんですか?」
「さぁ? あいつら魔王がいると倒しても倒しても次から次へと湧いてくるからな」
「今も勇者っているのでしょうか?」
「いないと思うぞ」
割とはっきりとアインが否定したのを聞いてシオンが興味を抱く。
「根拠をお聞きしても?」
「魔力がないからだな。魔王と勇者は力の均衡を保つための対で存在するんだが、魔王の魔力を負とすると、勇者の正の力が存在して力が均衡する」
人々が魔術を忘れ、科学技術等に傾倒することで世界から魔力が失われた今となってはその均衡を保つ必要が無くなってしまっており、その結果として勇者は生まれていないだろうとアインは言う。
「均衡を保つためなら……何故アインが一方的に勇者達を蹂躙できてしまっているんでしょう?」
「勇者が一人ではない。勇者が生まれた時点で俺の力がもっと上を行っている。神は万能ではない。力はともかく戦闘経験が違いすぎる。理由はいろいろだな」
「なるほど」
「俺が復活しても、世界に魔力が満ちている状態ではないだろうから均衡をとる意味がない。とは言えいずれは分からないが……それは考えても仕方ない」
魔力のなくなった世界など想像したこともなかったからなとアインは言う。
「まぁ分からないことをあれこれ推測してみても仕方がない。今は目の前の問題を始末するのが先だ」
「ダリルに関してはできるだけ無傷でなんとかして欲しいかなと」
「理由は?」
「ダリルの生家であるコープメイン男爵家が少々厄介でして」
男爵家単体ならば、ノワール家は子爵家であるので負ける要素というものはとても少ない。
しかし、コープメイン家はいくつかの男爵家と手を結び、それなりの勢力を作っているのだとシオンは言う。
対するノワール家はアインという秘密にしておきたい存在を代々守り続けて来た結果、他家との交流はほとんどなく、有事に手を貸してくれそうな家がないのだとシオンは肩を落とす。
「ですのでダリルの処遇を口実に実家の方が介入してきますと、かなり面倒です」
「許容範囲は?」
「最悪でも殺さないで頂ければ、かなり痛い出費になりますがお金で解決できるかと」
コープメイン家も勝ち目はあるとは言っても子爵家とやりあうというのはリスクが大きいはずで、金額次第では黙らせることができるだろうとシオンは考える。
「もう少し時間と、死刑囚の追加をくれるなら考えよう」
「任せておけ、とは言ってくれないんですね」
「二千年ぶりに戦うんだぞ? 何がどうなるかは俺にも分からん」
それでも対外的には何でもないように見せるのが魔王というものだとアインがぼやくと、自分はその対外的なものに含まれていないのだなと少し嬉しくなるシオンであった。
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