表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/126

おかしいと思う魔王さま

「何をしているんですか……?」


 サーヤに案内され、航宙艦魔王城の中を半ば体を浮かすようにして移動しながら、状況の説明を受けたシオンは思わず頭を抱えてしまう。

 死刑囚の命を魔力に転化させ、その魔力をもって魔術を行使した魔王の手によってサーヤは数十年分の若返りを果たした。

 これを目の当たりにした他の使用人達も次々に魔王への忠誠を誓って若返り、全員が魔王自らによる魔術の手ほどきを受けたことで本来の魔族としての力に覚醒。

 さらに魔力を集めるために、内部に術式を描き込まれた航宙艦も、名もなき廃棄予定艦から魔王城へと進化し、内部に積まれていた資材を使って自己強化を始めたと言うのだ。


「たった数日、目を離しただけのはずなんですが」


「陛下には十分すぎる時間だったのだろうと愚考致します」


「貴方も見た目も中身も変わりすぎじゃないですか?」


 人当たりのよさそうな中年女性が、数十年分若返っただけで抜き身の刃のような雰囲気を漂わせているのだ。

 洗脳に近いことをやらかしたのではないかと危惧するシオンに、先導していたサーヤが肩越しに言う。


「第百一特殊作戦群、ネームレスワン」


「はい?」


「私の軍人時代のコードです。主任務は要人の暗殺でした」


「は、はい?」


「年を取り、引退してからこちらに厄介になっておりましたが、昔の力どころかそれ以上の物を手にする日が来ようとは思っておりませんでした」


 無重力に身を任せ、ふわりと身を翻して見せたサーヤであったがやはりそのスカートの裾は乱れることはなく、その中を窺うことはできない。


「あの、初耳なんですが」


「守秘義務がありましたので」


「今は?」


「私の忠誠は軍にではなく、魔王陛下に捧げました」


 何やら自分の知らないうちに、知らない所でやばいことになっているのではないかと青ざめるシオンは、先を行くサーヤが壁の凹凸に手をかけて止まったのを見て、同じ方法で制動をかける。

 それまで通って来た道順と、以前この艦を旗艦として使っていた頃の記憶からどうやらブリッジへの入り口に到着したらしいと察したシオンは、サーヤが扉の横のコンソールを操作し、開いた扉から流れ出してきた空気に触れて思わずその場から逃げ出したくなる衝動に駆られた。

 それくらいに空気が重く冷たい。

 サーヤが開いた扉はブリッジの船首側の出入り口で、入ってすぐ横はモニターになっており、モニターと向かい合うようにしてオペレーター席があり、奥が一段高くなっていてそこに艦長席がある。

 艦は稼働中でもないと言うのに、オペレーター席にはサーヤと同じメイド服姿の少女達が直立不動の状態で待機しており、その中央には艦長席まで続く通路があった。


「どういう理屈なんですかあれ」


 ブリッジ内に足を踏み入れてみても、疑似重力が働いているような気配はない。

 つまり直立不動の少女達は無重力状態だというのに、床に足をつけた状態をキープし続けているのだ。


「各員、傾注!」


 訳が分からないと言ったシオンを放置してサーヤが声を上げると、少女達の視線が一斉にシオン達へと注がれる。

 物理的な圧力を持っているのではないかと思ってしまうくらいのそれを受けて、びくりと体を震わせたシオンなのだが、よく考えてみれば自分は貴族であり、メイド達は使用人であり、シオンがびくびくしなければならない理由はどこにもないはずだった。

 しかしそれでも、怖いものは怖い。


「シオン・ノワール子爵閣下が魔王陛下に拝謁の栄を賜る! 各員、敬意を!」


 サーヤの言葉でメイド達が一斉に一糸乱れぬ動きで左手を胸へ当て、右手を腰の後ろへと回す。

 魔族式に敬礼に答礼を返してから、おっかなびっくりといった感じでサーヤに連れられて少女達の間を進んだ先に待っていたのは、艦長席に深く腰掛けて疲れた顔をしているアインであった。

 魔王らしからぬ表情ではあるのだが、周囲のメイド達の仮面のような無表情か、いかにも歴戦の兵士といった厳しい表情をしている環境下ではかなり心安らぐ顔である。

 ただ、対応は慎重にしなければなとシオンは思う。

 周囲のメイド達の反応を見るに、かなり高い忠誠をアインは受けているとみるべきで、下手なことをしてしまえば彼女達の敵意の矛先が自分の方を向きそうな気がしてならなかったのだ。

 しかし、そんな心配はアインの一言で霧散してしまう。


「あぁシオンか。なんかほっとするわ」


「どうかしましたか?」


 とんでもない雰囲気のメイド達に囲まれて、悪の魔王然としたムーブでもかましているのではないかと言うシオンの予想は、アイン本人の様子によって否定された。


「お前のとこのメイド、おかしいぞ。元々人のよさそうなおば……女性ばかりだったから若返らせたら華やかになるかと思ったんだが……」


 途中、何かしら穏やかではない気配を感じ取ったのか、慌てて言い直したアインは本当に疲れたように言う。


「見た目こそ華やかだが、雰囲気は抜き身のナイフを陳列してる気分だ。これはもしかして俺に対する精神的ないじめか何かか?」


「そんなわけないですよ。そもそも若返りなんて魔術があるなんて想像もしていませんでしたし」


 使用人達の素性に関してもこれが初見ですとシオンが言い張ると、アインは驚いた表情を見せる。


「素性の分からない奴らを雇い入れしてたのか? 不用心にもほどがあるだろう」


「表向きの素性は知っているんですが……裏があるとは思いませんでしたよ」


 そう答えつつシオンはあることに気が付く。

 サーヤについては確かにそうなのだが、これと似たような状況がこの場にいるメイド達全員にあるのだとすれば、自分の領地にはどれだけの裏の顔を持った者が住みついているというのか。

 何せかなり無作為に選んだつもりの使用人が、軒並みの状態なのだ。


「うちの領地って一体……?」


「古くから続いている家系で、目立ったことも特にしていないようだから安定しているということで隠居先にちょうどいいとか思われたんじゃないのか?」


 そういって他人事のようにへらへらと笑うアインに、もしかしたら本当にその通りなのかもしれず、ちょっと調べてみる必要があるかもしれないなとシオンは仏頂面を見せるのであった。

ブクマや評価の方、よろしくお願いします。

流れとしては大体折り返しを過ぎたくらいになります。

ストックはあと二十話くらい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ