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訪問される魔王さま

 航宙艦は基本的に大気圏外の無重力帯、いわゆる宇宙空間というものに浮かべられて係留されている。

 地表との行き来は連絡船、もしくは連絡艇と呼ばれる小型の機体を使用して行われるというのが普通だ。

 これは巨大な航宙艦を地表付近に係留しようとすれば、広大な空間を使用しなければならないことに加えて、宇宙空間で運用される代物を大気圏内の重力影響下におくことについて、メリットが何一つとしてないからである。

 そもそもそんな巨大な代物を出撃のたびに重力を振り切れるだけの推進力を与えて飛ばしていたのでは、コストをどれだけ無駄に支払わなければならないのか分かったものではない。

 そう言った事情がありながら、貴族や王族が一定数の大気圏内でも活動可能な航宙艦を造りたがるのは、自分はそれだけのコストを支払うことができますよというコトを周囲へ見せるためのいわば見栄だ。

 無駄だと言うことは重々承知しているシオンではあるのだが、見栄も張れない貴族は周囲からそんなものかと舐められてしまう。

 だから仕方なく建造するのだが、船体の強さや推進力の強さ等が他の艦に比べると群を抜いて強力なため、自然とシオンの私軍における旗艦に指定され易い。

 そして旗艦ともなれば改修の類は何度となく繰り返され、ある程度旧型になれば代替艦が建造される。

 アインに提供されたのはその旧型の方の航宙艦であった。

 本来は、解体して資材としてリサイクルされる予定だったものを急遽中止し、最低限の装備と設備を残した状態となっている。

 アインに提供するにあたり、シオンはこれをきっちり整備しなおすつもりだったのだが、余計なものは必要ないからとアイン本人に止められていた。

 故にまともな装甲もついていない、かなりみすぼらしい姿となっていたはずなのだが、シオンが急ぎで用意させた連絡艇のブリッジで、モニターに映し出されている航宙艦の姿を見て、シオンは首を傾げる。

 情報の拡散を防ぐため、その艦が係留されているドックに他の艦はなく、周囲に他のドック設備もない。

 つまり、モニターに映し出されている艦こそが目的地である、アインに提供した艦であるはずなのだ。

 しかし、とシオンは目を凝らす。

 自分が所有していた艦のことは大体把握しているつもりのシオンで、特に自分が旗艦として乗艦していた艦なのだから、その姿はよく知っているものであるはずだった。

 だが、モニターに映し出されている艦の姿は、シオンが知るものとはかなり様子が違っているように思えたのだ。


「あの艦のカタログデータをモニターに出力できますか?」


 連絡艇の乗員にシオンが尋ねると、すぐに軍のデータベースから必要な情報がピックアップされて、シオンが見ていたモニターの一部に表示される。

 その中の艦の外見情報を表示させたシオンは小さく声を上げてしまった。

 そもそも航宙艦の外見はメーカーによって多少の違いはあっても、それ程大きな違いはないものである。

 外見に差をつけても性能の方には大して反映されないからで、胴体に艦橋が一つから三つついているというのが基本的な形だ。

 これに武装がつくと多少の差異が生まれるのだが、今回の目的地であるアインの艦は大した武装もないはずなのに、カタログデータ内の形状と比較すると、妙に厳ついように見えた。

 元々、廃艦にする予定だった代物である。

 当然シオンはそれに何の手も加えていない。

 それはつまり、何か変化が起きているのであれば、それはアインの仕業だということだ。

 しかし、シオンはアインの下に技師や作業員の類は送っていない。

 そしてアイン自身は二千年も前の魔王であるので、航宙艦に関する知識を持っているはずがないのだ。

 シオンがアインに渡したのは、使用人として十数人の中年の男女と多少の食料に資材。

 それにアインから求められた数百人の死刑囚だけなのだ。


「閣下、目的地はあの艦で間違いないのでしょうか?」


 やや不安そうな声で尋ねて来たのは連絡艇の艇長であった。

 予め目的地に関する説明は行ってはいたものの、そこに説明とは違うものが浮いていれば不安になるのも無理はない。


「進路そのまま。着艦許可を取ってください」


 努めて平静にシオンが言うと、艇長は頷いてからすぐにアインが乗っているであろう艦へ連絡を取り始めた。

 連絡艇からの通信要求に対し、航宙艦側がすぐに反応を示す。


「こちら魔王城管制室」


「ま、魔王城?」


 元々シオンの旗艦であったその艦にはちゃんと艦名がついていたのだが、廃艦予定に入ったことでその艦名は抹消され<シング01>と言う味気ない名前が付けられていた。

 これをアインに提供されたことで新しく艦名をつけなおしたのだろうが、さすがに魔王城を名乗られてしまえば、魔族ならば誰もが驚いてしまう。


「何か問題が?」


 通信は音声のみのものだったが、声の主は若い女性のように聞こえた。

 出発前に話をしたサーヤとはまた違う声に、そこで一体何が起きているのかと声を大きくして問い質したくなるシオンだったが、取り乱したところをみせてしまえば部下の不安も強いものになってしまうだろうからと自制する。


「閣下……」


「気にしなくていいです。予定通り着艦許可を求めてください」


「了解致しました。魔王城、こちら連絡艇マーチ。ノワール子爵閣下乗艦中。貴艦への着艦許可を願う」


「魔王城了解。連絡艇マーチへ。三番ハッチを解放します。接舷を許可します」


「待ってくれ。貴艦はドックに係留中なんだよな?」


 魔王城はドック施設に係留中であり、わざわざハッチにエアチューブを接続する接舷状態で乗り移らなくとも係留ドックに着艦し、ドック経由で魔王城へと乗り込むことが可能であるはずだった。

 この場合、本来はドック側に着艦許可を取ることになるのだが、魔王城が係留されているドックには人員が配備されていないので、魔王城へ許可を取ることになっている。


「連絡艇マーチ。お勧めはしませんがドック経由で乗艦されますか?」


「いや指示に従う。指定ハッチへの接舷を開始する」


「賢明です。お待ちしております。以上」


 嫌な予感がする。

 指示に反した動きをすれば、何かしら後悔するような気がした艇長は、管制の指示に従うことを選択すると航宙艦へ接舷するための指示を部下達へ出し始めるのであった。

ブクマや評価の方、よろしくお願いします。

四桁が見え始めてきました、すごいな。

日曜日なので、今日は更新1回です。

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― 新着の感想 ―
[一言] いいですね。とても好きな展開です!お願いします。。。たくさん続いてください。そしてもっと読ませてください。。。!
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