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割り込まれる魔王さま

 若い男の声に対し、アインは値踏みするような視線をそちらへと向け、シオンは露骨に渋い顔をする。

 声がした方向に立っていたのは黒を基調とした、おそらく軍服の類と思われる上下をきっちりと着こなし、くすみのない金髪をオールバックにまとめた男だ。

 何か人を小馬鹿にしたような笑みを見せているその顔は、整っていると形容してもそれほど文句が出ないだろうなと思われる程度には整っている。

 シオンから支給されたラフな平服を着ているアインやシオンとは、漂わせている雰囲気が違った。


「誰だこれ?」


 つい先日、二千年ぶりに目覚めたばかりのアインにはシオンしか知っている者がおらず、当然その男の顔に見覚えなどあるわけがない。

 シオンの方も知らない相手である可能性はあったが、その若い男を見て渋い顔をしたところからして、全く知らない相手ではないのだろうと推測された。


「アイン、こちらは私の部下のダリスン・コープメイン男爵家子息。ダリル・コープメイン殿」


 渋い顔をしつつもシオンはアインに対して金髪の男の紹介を行い、金髪の男へアインの紹介を行う。


「ダリル。彼は私の婚約者であるアイン・ノワールです」


「シオン様にそのような者がいたとは初耳ですな。一体いつからそのような御関係に?」


 アインの方を見ようともせずに、シオンに尋ねるダリルに対しシオンは気持ちを落ち着けるかのように一度咳払いをする。


「つい最近です。私の一目惚れですよ」


 正直に答える必要はなかったかもしれないなと思いつつ、シオンはきっぱりとそう言い切った。


「彼は私の求めに応じてくれただけです。話があるのならば私が聞きましょう」


 人前で自分からコナをかけたと言い切ることに多少の恥ずかしさを感じるシオンだったが、この場合は必要な措置なのだと割り切って、シオンは頬やら首筋やらに火照りを感じながらもそう付け加える。

 そうしなければ、ダリルがアインに対して何らかの行動を起こすであろうことが目に見えていたからだ。


「由緒あるノワール家の御当主が、こんなどこの馬の骨とも分からぬ輩を一族に迎え入れると言われるのか」


 ダリルの言い分を面倒だなと思いながら、シオンは表情を変えずに頷く。

 ダリルのような反応をする者が出てくるだろうことは、シオンには予想の範囲内であった。

 彼のような者が今回のような反応をする理由は二つある。

 一つはシオンが属しているノワール家と言うものが、サタニエル王国内でも他に類を見ない程に古くから受け継がれてきている家柄だと言うことだ。

 なにせはっきりと二千年前から途切れることなく続いているということが分かる家柄である。

 魔族は長命であるので、代替わりの回数だけならばせいぜい七回程度だが、家柄としては実はサタニエル王家よりも古かったりするのだ。

 そのような家に、訳の分からない輩の血が混じろうとしていることを知れば、大体の貴族は強弱の違いはあれど、何かしらの反対意見を口にするはずである。

 もう一つは、ダリルはコープメイン男爵家の長男ではない、ということだ。

 家を継ぐ長男であれば、他家に仕えるような仕事はせず、自分の家で何かしらの役割を担っているはずである。

 ちなみに次男は長男に何かあった場合の為に飼い殺されることが普通なので、ダリルは少なくとも三男以降の男爵家子息であるはずだ。

 こういった者は延々と兵士や役人として働かされ、貴族社会の底辺として扱われるのだが、そこから逃げ出す方法として手っ取り早いのがシオンのような女性当主の家に働きに出て、そこの当主と結婚に漕ぎつけることである。

 婿を取るしかない女性当主に見初められれば、扱いはどうあれその家の当主に匹敵する立ち位置に上がることができるのだ。

 それ故に女性が当主をやっている家には士官希望者が殺到したりする。

 その辺りの事情を知るシオンとしては、ダリルや他の男性の部下達が今回の件に関して面白くないと思うことはよく理解していた。

 しかし、大っぴらに言うことはできないのだが、血筋と言う話だけならば、アインの持つそれはシオンのそれとは比べ物にならない。

 シオンのノワール家がいくら古い血筋であったとしても、二千年前からずっとアインが持っている魔王の血筋には、格も古さも及ばないのだ。

 もし比べること自体が不敬であると言われても反論できない。

 そう行った事情が説明できれば楽なのだが、現在一応は魔王の座にいるサタニエル王家がアインの復活を知れば、どんな手を打ってくるか分からず、公表することなどシオンにはできなかった。


「ノワール子爵としての決定です。不服ですか?」


 効果的に言いくるめてしまう方法が見つからない以上、あまりいい手ではないと分かっていてもシオンには地位に付随する権力の行使という方法を選択した。

 子爵家と男爵家とでは子爵家の方が地位が高く、さらにシオンは当主であるがダリルは当主でも嫡男でもない。

 手にしている権力はシオンの方が圧倒的に強いはずだった。

 後々に色々としこりを残しそうではあるのだが、地位を盾に強く言えば、ダリルは引き下がるしかないはずで、実際シオンが強い口調で問うとダリルは口惜しげにしつつ言葉を失う。

 これで終わってくれればと一瞬シオンが油断した隙を突いて、ダリルは懐から取り出した物をアイン目掛けて投げつけた。


「ふむ?」


 呆然とシオンが見つめる先で、避ける素振りさえ見せなかったアインの胸に当たって落ちたのは白い手袋だ。

 相手に向かって手袋を投げつけると言う行為が何を意味するのか。

 その意味を知ってシオンが青ざめる中、それに気付かないダリルが床に落ちた手袋を興味深そうに見つめるアインに向かって言い放った。


「貴様! シオン様をたぶらかした件についてこのダリル・コープメインが決闘を申し込む!」


 こういう作法は二千年経っても変わっていないんだなと思いつつ、アインはダリルの宣言に対して無言のまま口の端を歪めたのだった。

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[一言] 好きな設定なので、これから魔王様の活躍楽しみにしています
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