戦う魔王さま
戦闘艇の機体からレーザーが放たれる。
文字通り光速のそれは、回避する時間など全く与えずにアインへ直撃。
しかし、その体を焼くはずの光はただアインの体をまぶしく照らし出しただけで体はおろか、身に着けている服の端すら焼くことなく消える。
次の攻撃を戦闘艇が準備するより先に、アインが航宙艦の床を蹴った。
アインにとってはただ跳ぶためだけの行動だったのだろうが、その蹴り一つで半壊していた航宙艦のアインがいた周辺の構造材が一気に崩壊。
少し強く蹴りすぎたかとアインが内心で反省し始めた時には、敵の戦闘艇がもう目の前へと迫ってきていた。
「せーのっ!」
タイミングを見計らって、アインは戦闘艇の舳先に力任せに前蹴りを入れる。
アイン一人と戦闘艇とでは、質量と言う点で圧倒的にアインの方が負けていた。
この状態でアインが戦闘艇に蹴りを入れたのならば、撃ち負けるのはアインの方であるはずだ。
しかし現実は蹴られた戦闘艇の方が、アインが蹴った方向へとその機体をずらされてしまったのである。
さらに蹴られた舳先にはくっきりとアインの足跡が残ってしまっていた。
「少しは驚けっ!」
さらに追撃としてアインが戦闘艇の舳先を蹴り上げると、機体全体が仰け反るように上を向き、腹が丸見えになる。
このままたたみかけようかとさらなる追撃を仕掛けようとしたアインだったが、戦闘艇は突如として機体のあちこちにある姿勢制御用のスラスターを吹かし、アインから距離を取りつつ、近寄らせないようにするためか機体とアインとの間に大量の機雷をまき散らす。
これに対してアインが邪魔だとばかりに手を一振りすると、散らばろうとしていた機雷が一斉に起爆する。
その爆炎を突っ切って戦闘艇へと肉薄したアインは逃げる暇も与えずに戦闘艇の舳先に指を食い込ませると、鷲掴みにしてあろうことかそこから先程まで自分が乗っていた航宙艦へ振り回してから叩きつけたのだ。
航宙艦と比べれば、かなり小さいとはいっても戦闘艇は人一人の力で振り回せるような代物ではない。
そんな代物を軽々と振り回し、航宙艦の残骸へたたきつけたアインはもちろん異常なのだが、叩きつけられる側であった戦闘艇の反応もまた異常であった。
なすすべなく振り回されていたのかと思いきや、航宙艦に叩きつけられそうになった瞬間に周囲が白く輝く程の強力なシールドを展開し、ダメージを防いで見せたのだ。
しかもこのシールドは舳先を掴んでいたアインの手を弾き飛ばし、戦闘艇は自由を得ることで壊れかけの航宙艦から離れようとする。
「駄目だ。魔王が叩きつけようとしたんだぞ? 大人しく叩きつけられておけ」
その戦闘艇の真上から、航宙艦へと叩きつける方向に不可視の圧がかかった。
戦闘艇の推力を上回る圧によって、逃げ出そうとしていた戦闘艇がゆっくりと航宙艦へと押し付けられ、そこからさらにゆっくりと航宙艦の船体へめり込まされていく。
このまま磨り潰してやろうと力を込めかけたアインは、攻撃の気配を感じて魔力の盾を形成し、その盾に航宙艦の副砲による一撃が突き刺さった。
「そう言えば残っていたな」
全くダメージを受けていない状態で呟くアインの目には、帝国軍の航宙艦が捉えられていた。
ほぼ無傷の敵艦が六隻。
戦闘艇が不利な状況と見たのか加勢に入ってきたのだ。
「こいつを始末している間に逃げておけば、むざむざ死ぬこともなかったというのに、馬鹿なことを」
アインの呟きはもちろん、誰の耳に届くこともなく消え去り、五隻の敵艦がアインめがけて連続した砲撃を開始する。
副砲としては十分なエネルギーを与えられた砲撃がアインの周辺に降り注ぐことになったのだが、そこそこ発生する命中弾はアインの体まで届くことはなく、ただ虚空で四散して消滅するのみで、アインへの攻撃として成立していない。
「ただ受けるのも芸がないか?」
航宙艦の残骸に押し付けられていた戦闘艇の機体がひょいとばかりに持ち上げられると、テニスのラケットの様にアインの周囲で振り回され、敵艦からの砲撃を打ち返し始めた。
実弾ではなくエネルギー弾であるはずの攻撃は、どういう理屈でなのか戦闘艇の機体で打ち返されるとその軌道を変え、打ち返される前の弾速の倍の速度でもって砲撃を行った航宙艦へと吸い込まれていくのだ。
これにより、砲撃を行っていた敵艦は瞬く間にシールドを削りきられて無防備となり、それでも砲撃を止めなかったせいで船体を穴だらけにされてしまう。
「あっちはもろいが……こっちはやたらと頑丈だな」
船体のあちこちから火の手を上げ、小さな爆発をいくつも起こし、そのまま沈んでいきそうな帝国軍の航宙艦に対し、アインが軽々と振り回していた戦闘艇は何発もの砲撃を受けているはずだというのにそのことごとくを弾き返した上でほとんど無傷だ。
機能が違い過ぎることは明らかであり、一見しておもちゃにしか見えないこの戦闘艇が特殊、もしくは異常な個体であるということが分かる。
「何なんだろうな、こいつは」
手首のスナップだけで、アインは戦闘艇を放り投げる。
でたらめな回転をしながら跳んでいった戦闘艇は帝国軍の航宙艦に激突するとこれをあっさりと貫通。
アインが手招きをすると戦闘艇は回転を続けながら弧を描いて別の航宙艦を次々に貫通していき、最終的にはアインの目の前でぴたりと止まった。
六隻もの航宙艦を貫通した戦闘艇の機体は、さすがに武装や機体の端が焼けたり欠けたり潰れたりしていたのだが、機体本体は多少でこぼこしたり塗装が剥げたりしていたものの、およそ大丈夫なように見える。
もちろん、アインはこの戦闘艇に特別な何かを施してはいない。
航宙艦にぶつけるように軌道の操作はしたものの、機体自体を守るようなことは一切していないのだ。
「機体も特別な物というわけではなさそうだし……となると、異常なのは中身か?」
機体を割ったら中から何が出てくるというのか。
楽しみなような、そうでもないような。
そんな気持ちを抱えたアインの周囲で、完全に破壊された帝国軍の航宙艦六隻が、ほぼ同時に全隻、爆発四散したのであった。
面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。
書き手への燃料と言う名のブクマ・評価・励ましの感想などお願いします。




