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誘う魔王さま

 敵艦からの攻撃を蹴飛ばすことで防ぐ。

 そんな非常識な行為も一回目は確かに声を失い、思考を放棄しかけるくらいに驚かされはしたのだが、三度四度と繰り返されれば、あぁそういうものなのかとクロワールも慣れてしまう。

 だが、慣れて平気な顔になっていくクロワールと反比例するように、アインの顔には次第に訝しがるような色が浮かんできていた。

 その変化は抱えられているクロワールにも伝わり、何度目かの防御を行った後でそのクロワールが口を開いた。


「陛下、どうかされマシたか?」


「この攻撃、何か妙だぞ」


 半壊した航宙艦の中を跳ね回りながら移動しつつ、アインはそう評した。


「攻撃力が妙に高いのがある。航宙艦の装備は記録ではどれも似たようなものだったはずだよな?」


 クロワールは頷く。

 この宙域にいる航宙艦は惑星ゲルドを爆撃するために運用されており、主砲は取り払われて爆撃装備と対レーダー用のジャミング装備となっていた。

 これは全艦共通で、強力な対艦火器を装備している艦などいないはずだったのである。

 しかし、アインが先程から防いでいる攻撃の中には通常出力の副砲によるものだとは思えない威力のものがあった。

 さらに言うならば、狙いがおかしい。

 アイン達はかなりの高速で航宙艦内を移動していると言うのに、それは本当にきちんと狙ったかのようにアイン達を捉えているのだ。

 とてもまぐれ当たりだとは思えないその精度に、アインが防御に回らされる時間も徐々に増えてきている。


「この射手は拙い」


 今は何故だか自分を狙うことに固執しているようだが、少し頭を働かせればアインを直接狙うより脱出用の連絡艇を狙って破壊する方がずっと痛手になると気づかれかねない。

 下手に格納庫に近づき、無理やり連絡艇で脱出するのも難しそうだ。

 連絡艇が目的であることがバレる動きになるし、流れ弾で連絡艇が破壊される可能性も高まる。


「困ったもんだな」


「二手に分かれてみてはどうでしょう?」


 急に声を上げたのはシオンであった。

 げっそりとした声ではあるものの、アインの腕の中からそれなりにしっかりとした目でアインを見上げている。


「現状、妙に精度の高い攻撃が加えられていて、うかつに連絡艇に近づけないという状況なんですよね?」


「その通りだ」


「その妙に精度の高い攻撃ですが、何らかの方法で大まかにでもアインの位置を探査できると仮定します」


 確かに何かあるのだろうなとアインは思う。

 何もなく、ただ当てずっぽうでこうも至近弾を撃ち込んでくるのであれば、射手はどこかで余程の善行を積んだ徳の高い人物なのだろう。

 そう考えなければやっていられないくらいの幸運でなければ、これまでの攻撃について説明がつかない。


「ここで二手に分かれれば、おそらく私達の方は攻撃されなくなります。個人を完全に識別して航宙艦の外板越しに狙える火器センサーなど聞いたことがありませんし」


 航宙艦内に生存者が何人いて、艦のどの辺りにいるのかを調べるセンサーというものは存在している。

 だがそれは航宙艦内にあるセンサーから情報を取得するタイプのもので、艦外から走査して情報を得られるような強力かつ精密なセンサーの存在をシオンは聞いたことがない。

 まして火器管制と連動するようなセンサーが開発されていれば、結構大きなニュースになりそうではあるが、わざわざ航宙艦内にいる個人を狙い撃つためのシステムなど使いどころがさっぱり分からないのでどこかがそんな代物を開発していたのだとすれば、壮大な無駄遣いだなとシオンは思う。


「アインを囮にするのは気が引けるのですが、敵の注意がアインに向いている間に私とクロワールとで連絡艇を奪取します」


「よし、それでいこう」


「いえ、確かに敬愛すべき魔王陛下を囮に使うだなんて、魔族としてどうなのかと責められても仕方のない……って決断が早いですね」


 多少はもめるなりたしなめられたりするだろうことを予想していたシオンは、アインが即決で囮役を買って出たことを驚く。


「筋は通っているし、成功率も高そうだ。唯一失敗しそうな状況は敵の狙いが俺でなかった場合くらいだが、その可能性は低そうだと判断すればこれ以上何を迷う?」


「王を囮に使うとは何事だ、とか?」


「目的のために王すら囮にするところは実に魔族らしくて評価が高いぞ?」


 にっこりと朗らかにアインから笑いかけられて、シオンは喜ぶべきところなのか恐縮すべきところなのか迷って曖昧に笑う。


「さて、それならさっさと二手に分かれよう。格納庫の位置と道順は分かるな?」


「問題ないデス」


「連絡艇の操縦は?」


「私にお任せください」


 クロワールとシオンの返答に対して、アインは満足そうに頷く。


「艦外活動については心配するな。俺が死ぬまでは問題ない」


「連絡艇奪取後、陛下とはどのように合流すればいいデスか?」


「それは……俺がどこにいるかはすぐ分かると思うが、分からなければそちらで何か派手な行動をとれ。こちらから出向いて合流する」


「了解デス」


 連絡艇にも武装はある。

 適当にぶっ放していれば、アインの方で見つけてくれるのだろうとクロワールは考えた。


「方針が決まれば行動だ。二人とも速やかに俺から離れろ。巻き添えを喰う前にな」


 何がと問い返すこともなく、シオンとクロワールが揃って抱えられていたアインの両脇から、アインの体を手で押すことによって離れる。

 その二人の姿を見送る暇もなく、アインが壁を蹴って跳べば、一拍前までアインがいた位置をアインの体よりずっと太い、白い輝きが貫いた。

 命中こそしなかったものの、強力なエネルギーの奔流の余波を受けて、くるくると木の葉のように回るアインは、航宙艦の構造材を鷲掴みにし、腕力と握力との両方を強化して強引に体の動きを止める。


「やはり狙いは俺の方か」


 撃ち込まれた一撃はシオン達のことなど眼中にないかのように、はっきりとアインを狙ったものだった。


「俺が狙いなのだと分かれば、それなりに応えてやらなければなるまいな」


 押し殺した声でアインがそう呟き、腕へ力が込められて、鷲掴みにされていた構造材がゆっくりと、しかし確実にアインの手の中でその形を変えられていく。


「さて、どんな奴が俺に喧嘩を売りに来たのか、見に行ってやろうか」


 手の中で形を変えた構造材を力任せに壁からむしり取りながら、アインは誰に言うでもなくそう呟いたのであった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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