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粘る魔王さま

 その後、アイン達の航宙艦は後退しつつ距離を取ろうとした所を、そうはさせじとばかりに追いかけてきた敵艦の内、先頭の二隻を一番最初に叩いた航宙艦の爆発に巻き込む形で、二隻をまとめて戦闘不能へと追い込んだ。

 その過程でアイン達の艦も無傷と言うわけにはいかなかったのだが、アンデッドが操艦し、艦内の空気をほぼ抜いてあるという特殊な状況であるその艦は、着々と受けたダメージを積み重ねていきながらもどうにか致命的な領域には足を踏み入れずに済んでいる。


「いやこれ、相当拙いですよ。装甲の六割は損傷していますし、船体は穴だらけで、シールドの残量はほぼゼロです」


「再チャージは?」


「ジェネレーターの出力が……半分以下まで落ちています」


 ジェネレーターが吐き出すエネルギーは艦の稼働やシールドのエネルギーなどに用いられているのだが、その出力が半分に満たないとなれば、シールドに回せる分もそれだけ少ないものになってしまう。


「砲門は?」


「残り三門です」


「リペアユニットは?」


 艦の破損を応急修理する自立型の小型ボットのことである。

 当然、使えばそれだけ減っていく代物だ。


「消耗率八割です」


「なるほど、本当に拙いな」


 通常ならば撃沈判定を受けて、退艦命令がとっくに出されていてもおかしくない状態である。

 もっともアイン達には現状、退去できる先がないので退艦してしまうわけにもいかない。


「あと一、二隻くらいなんとかならんもんかな」


「ここからですか!?」


 また無茶なことを言い出したとシオンがげんなりとした顔を見せるが、アインは腕組みをしつつ真面目な顔で頷く。


「砲門一門と引き換えに、一隻落とせれば……」


「砲にオーバーロードでもさせるのですか? ですがそもそも回すエネルギーの方がないですよ」


 無茶な過負荷をかけて、砲が駄目になるような砲撃を行えば、敵艦のシールドを飽和させて撃沈まで持っていけるかもしれないが、それを実行するためには大量のエネルギーが必要となる。

 だが、ジェネレーターの出力が半分以下になっている状態では、過負荷状態まで持っていくことも難しい。

 仮に、過負荷状態での砲撃ができたとしても、使った砲はそれ以上は使い物にならず、残り二門では奇跡的に戦えたとしても二隻落とすのが限度。

 これを本当に奇跡的な確率で成功させたとしても、武装とエネルギーとを完全に失った状態でほぼ無傷の六隻の敵艦を相手にしなければならなくなってしまう。


「やはり、単艦での戦闘には限界があるな」


「三隻落とせただけでも、普通は大戦果だと称賛されると思いますが」


「それでは物足りない、とはいっても無理なものは無理だな」


 撃ちたくとも撃てる砲門がなく、撃つための弾も燃料もないのだ。

 艦は一応、艦としての姿を保ってはいるものの、その継戦能力はほとんど失われてしまっていると言える。

 だが、アイン達の側が継戦能力を失っているからといって、敵側が手心を加えてくれるわけもない。


「捕まえるという考えはなさそうだな」


 味方を三隻も沈められているのだから、帝国軍側は怒り心頭のはずである。

 まして性能差のある艦との戦いであったのならばまだしも、同じ性能の艦同士の戦いで、数的有利までありながらの単艦相手にこのざまだ。

 もちろん、アイン側にはアンデッドが操艦しているせいで、普通の人間ならば耐えられないような環境や挙動が可能になっているという強みがあるのだが、そんなことは帝国軍側には分からない。

 メンツが立たないと考えれば、せめてアイン達を血祭りにあげて、いくらかでも留飲を下げなければやっていられないだろう。


「私達を捕まえてみても、彼らの行動が表に出せない代物ですから、何の功績にもなりません」


「それなら憂さ晴らしに殺してやろうということか? 気持ちは分からなくもない」


「どうします?」


「俺は憂さ晴らしの的になる気はないな。残存エネルギーを副砲一門に集中」


「本当に使い潰す気ですね」


 アインが魔術を使えば、一隻の航宙艦で他十一隻の敵艦を蹂躙することはそう難しいことではなかった。

 では何故それをしないのかと言えば、アインが魔術抜きの場合でならばどこまでやれるものなのかというのを確認したかったからである。

 もっともアンデッドを使役している時点で完全に魔術抜きというわけではないのだが、理不尽なまでの高い火力や、とんでもない防御力の盾や結界を使わなくとも、それなりにやれるものなのだろうかということを確認しておきたかったのだ。

 これを自分の財布でやろうとすると大変な出費になるのだが、帝国軍の人命と帝国軍の機材とを使用して行えば、全くコストをかけずに検証することができる。


「エネルギーの装填が完了し次第。最も近くにいる一隻へ全力前進」


「また至近攻撃でしょうか?」


「それは効率的だが芸がない。照準は二番目に本艦から近い敵艦に合わせろ」


 魔王の意図など全く理解していなくとも、アンデッドは忠実に魔王の命令を実行する。

 これまでどうにか距離を取ろうとしていた航宙艦が、最期のひと踏ん張りとばかりに追ってくる敵艦目掛けて前進し始めた。


「照準固定。トリガーをそちらに」


「分かった。さて死にかけた艦一隻相手に逃げなどうってくれるなよ」


 アイン達が舳先を向けた敵艦が、慌てて方向転換しようとしたのだが、アイン達は構わずに現状出せる全速でもって突っ込んでいく。

 衝突による相打ち狙いかと、これを助けに行こうとした敵艦目掛けて、アイン達の艦が副砲を過負荷状態でぶっ放す。

 副砲は負荷に耐え切れずに砲撃終了と同時に自爆してしまったが、そんな砲撃をまともに受けてしまった敵艦のシールドはあっさり飽和して崩壊。

 打ち消しきれなかった光弾がシールドを突き抜けて船体に穴を開け、艦のあちこちで誘爆が起きた。

 これを確認している間もなく、アイン達の艦は標的にしていた艦のシールドへ舳先から突っ込み、わずかなシールドと船体そのものの質量で敵艦のシールドを破壊。

 ほとんど勢いを殺されることなく、回避しようとしていた敵艦へ、ひしゃげて焼け焦げた舳先を全く遠慮することなく叩き込んだのであった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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