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慣れない魔王さま

 ノワール子爵家がノワール騎士爵家を任命した翌日。

 アインはシオンに連れられて、とある場所を訪れていた。


「アイン、ここが我が子爵領が有する航宙艦を建造、修理するヤードです」


 少し古びた電気式自動車を自ら運転し、颯爽と車から降りたシオンだったのだが、助手席に座っていたはずのアインがいつまでも下りてこないのを見て、訝しそうに車内を覗き込む。

 アインの姿はまだ助手席にあった。

 魔王らしからぬぐったりとした表情と、少々青くなっている顔色からシオンはアインの身に起きたことをなんとなく察する。


「車酔いですか?」


 考えてみれば、アインはこの自動車という代物については初体験であるはずだった。

 揺れや速度はアインが起きていた頃に存在していたどの乗り物ともまるで違うはずである。


「シオン……これは……」


「大丈夫です。少し大人しくしていればすぐに治りますから」


 魔王って車酔いするんだ、と新しい発見をしつつ車内のアインを介抱することしばし。

 どうにか動き得るようになるまで回復したアインを連れて、シオンは入り口で自分の身分を証明するIDカードを機械へ通し、カードの説明は受けていたもののすっかりその存在を忘れていたアインが警備のチェックにひっかかったりしたのに慌てたりしながらヤードの中へと入る。


「どうですかアイン。これが我々が宇宙を航海するために使っている航宙艦という物です」


 どこか自慢げにシオンが手で指し示した物を見て、アインは小さく呻いてしまう。

 それは本当に巨大な物体であった。

 上は首が痛くなるくらいに見上げなければ見えず、長さは目を凝らさないと先の方が見えないくらいだ。

 その働きとしては船のようなものなのだと予め聞かされていたアインなのだが、アインの知る船と目の前の巨大な物体とでは、あまりにも物が違いすぎる。


「ミドルシップ級の特殊戦艦です。普通の戦艦は大気圏外のヤードで建造する物なのですが、これは大気圏突入能力があるのでコストが高いんです」


 通常の航宙艦は大気圏外の無重力下で建造されるものであった。

 その方が建造コストも下がり、建造期間も短くて済む。

 航宙艦は宇宙空間にて行動するものであり、わざわざ大気圏内を飛ぶようにはできていないのだ。

 大気という巨大な抵抗の中ではそう大きな船体を作ることができないし、何より建造した後でわざわざ重力を振り切って大気圏外まで飛ばす必要が出てくる。

 地表と航宙艦までの行き来は小型の飛行艇を使うのが普通で、大気圏内を航行できる航宙艦を持つ者はとても稀なのだとシオンは言う。


「何故そんなものを造っている?」


 手間もコストも余計にかかる上に、普通では使われていないというものをわざわざ造るメリットが分からず、尋ねてくるアインにシオンは堂々と答えた。


「かっこいいからです!」


「あぁ、お前やっぱりあの初代の血筋なんだなぁ」


「お褒めに与り恐悦至極です」


「褒めてねぇよ。馬鹿にしてんだよ」


「何故!?」


 心底驚いたと言う表情のシオンを放置して、アインは改めて建造中の艦を見上げてみる。

 実情は実に無駄で、馬鹿げている代物のようなのだが、見ているだけならばその威容は圧倒的だ。

 こんな馬鹿でかい物を今の世界は空を越えて星々の空間にまで飛ばしてしまうと言うのである。

 シオンから何度か説明を受けはしたものの、未だに信じることができずにいるアインであった。


「宇宙とやらには何度か行ったことがあるんだがなぁ」


「二千年も前にですか!?」


「あぁ。空を越えたら神々が住まう天界があるという話があってな。それなら一発殴りに行ってやろうかと」


「何故……?」


「坊主共が言うように、神が万能な存在なんだとしたら。もう少し考えて世界を創れと説教したくてな」


「あー……」


「特に魔王と勇者のシステムなんか最悪だぞ。俺が何人の勇者を始末してきたと思ってるんだ」


「一人、じゃないんですか?」


 シオンに実感は全くないのだが、勇者とわざわざ呼ばれる存在がそうぽこぽこと頻繁に生み出されるわけがないだろうと考えていた。

 しかし、アインの答えはシオンの予想外のものだったのである。


「勇者だけで三百は始末したぞ。これに聖女だの剣聖だの大魔術師だのがついてくるのだからキリがない」


「ず、随分とポピュラーな存在だったんですね勇者って」


「あいつら一人死ぬとすぐ次のが現れるんだ。大体成年くらいの人族が次から次へと勇者認定されて俺を討伐しに来るんだぞ」


「撃退も簡単だったのでは?」


「俺はな。ただそいつらが俺の所に来るまでに相当数の部下がやられる。一時期はあんまり殺されすぎて人手不足になり、俺が門番やってた時期もあるんだからな」


 魔王城に入るには必ず門番を倒す必要があり、門番とは魔王城に仕える者達の中では最も入れ替わりが激しい役割であった。

 あまりに門番がしょっちゅう倒されてしまうので、人員不足に陥った時に苦肉の策としてアインが行ったのが魔王が門番をやるというものである。

 これならば魔王城に入ろうとする勇者一行が一番最初に出会うのが魔王ということになり、人的被害は激減したのであった。

 これはいいことを思いついたと自画自賛したアインだったのだが、魔王に門番をやらせておいていいのだろうかという論争が起き、アインは渋々元の玉座に戻ることになってしまったのである。


「いい考えだと思ったんだがなぁ。魔王城が壊れる頻度も下がったし」


「入り口で魔王とエンカウントとか、無理ゲーすぎてクレーム殺到案件です」


「魔王城に魔王を倒しに来ているのだから、お互いに手間も時間も省けるというものだろうが」


「段取りも心構えも不十分過ぎるタイミングです」


「そういう物はちゃんと備えてから来いよなぁ」


 何故だか勇者側に同情を示すシオンに呆れた表情を見せたアインだったが、その視線が不意にシオンの顔から外れる。


「何やら勇ましい話をされておりますな」


 二人の会話に割り込んでくる若い男性の声が聞こえてきたのは、その直後のことであった。

ブクマや評価の方、よろしくお願いします。

サブタイトルってつけるの難しくありません?

でもちゃんとつけてるボクを誰か褒めて。


誤字報告ありがとうございます。

とても助かります。

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