不幸な航宙艦さま
超銀河聖皇帝国宇宙軍所属の特別任務についていた合計十二隻の航宙艦。
彼らの中で最も不幸だったのは魔王に目をつけられ、乗組員の一部をアンデッド化され、残りは窒息と言う形で始末されてしまった艦だったのだが、他の艦も似たり寄ったりの不幸に襲われることになる。
その発端は、航宙艦の隠密性を高く保つために、各艦が通信を制限しており、かつ艦同士の距離をかなり大きく離して待機していたことだった。
密集していれば発見されやすくなるのは当然で、それを避けるためにかなり広い範囲に散らばって待機していたのだが、そういった要素のせいで十二隻の艦隊というよりは、ただ十二隻の航宙艦がばらばらに待機しているだけという状況になっていたのだ。
そんな状況の中、十二隻の中の一隻が突如として機関を始動させ、隠密行動中であるということを忘れてしまったかのうように動き出したのである。
これには周囲に展開していた味方の航宙艦も驚いたし、焦った。
一体何を考えているのかと問いただしたくとも通信を制限しているために連絡を取ることができず、ただ見守ることしかできない航宙艦達の中で、動き出した一隻の航宙艦のブリッジでは、アインが艦長隻にあるモニターに映し出される文字の列を前に、渋い顔をしている。
「この航宙艦、対艦装備が貧弱すぎやしないか? まともに通用しそうな火器がまるで搭載されていないぞ」
アインが目を通しているのは、アイン達が占領した航宙艦の情報とマニュアルだ。
操艦自体はアンデッド達に任せていればどうとでもなるのだが、この航宙艦にどのような武装と設備があるのかを知っておかなくては攻撃の指示一つも出すことができない。
そう思って慌てて情報を探したのだが、そこに記されていた情報はアインが言葉にした通り、かなり貧弱な代物であった。
「主砲がない。副砲もカタログデータの半分しか装備されていない」
「爆撃装備になっているのと、レーダーのジャマーへのエネルギー供給を優先にしてあるわけですね」
元々、自国内での都市爆撃が任務であり、艦隊戦を行うことなど想定されていない。
故に砲の数を減らし、隠密性を高める対レーダー用の装備に換装されているのだが、これはアイン達にとっては良くない話であった。
何せこれから敵艦に殴りこみに行こうと言うのに、殴るための武器がほとんどないのだ。
もちろん、全くないというわけでもない。
宙賊などに偶発的に遭遇してしまった時に、武装がないので戦えませんなどとは言っていられないのだ。
「副砲で航宙艦が沈むか?」
「当たり所がよくて、沢山当たれば……なんとかなるのではないかと」
「副砲って何のためについているんだ?」
「小型艇を落としたり、敵艦のシールドを削ったりするためです」
「他に使えそうな装備は……おい、この艦。いまだに投下用の爆弾が残っているぞ。こんなもの捨ててしまえ」
アインの命令を受けて、アンデッド達が倉庫のハッチを開き、残っていた爆弾を航宙艦の外へと捨ててしまう。
それらの爆弾はしばらくは宇宙空間を浮遊し続けるのであろうが、いずれは最も近い重力圏である惑星ゲルドに落ちることになる。
そのことをアイン達は全く気にしていなかったのだが、周囲の帝国軍は揃って顔を青ざめさせることになった。
何故なら、警告付きの地表への爆撃ですら法の下ではグレーな行為なのだ。
だと言うのに、いつ落ちるのか分からないものの確実に落ちるであろう爆弾を放置しようものならば、今度は完全にアウトだと判断されかねない。
そうならないようにするためにはどうしたらいいかと言えば、放棄された爆弾を回収してしまう他なく、アイン達の乗る艦から離れていく爆弾へ、一隻の航宙艦が接近していく。
「爆弾を捨てられるのは困るようだな。仕方がない、処分してやれ。副砲発射」
爆弾から距離を取るように動いていたアイン達の航宙艦が副砲の照準を、浮遊する爆弾へと向ける。
そして副砲が斉射された。
的としては小さいが回避など全くしない爆弾は、それを回収しに来ていた航宙艦の間近で撃ち抜かれて爆発を起こす。
その爆発の影響をまともに受けることになった帝国軍の航宙艦はシールドを展開し、爆弾を貫通してきた副砲の斉射と、その斉射によって撃ち抜かれて起きた爆弾の爆発とを受け止める。
「敵艦のシールド、大幅に減衰」
「さらに斉射……って受け止められそうだな」
爆発と副砲の斉射を受けて、減衰はしたものの破られていない敵艦のシールドが、さらにもう一度の斉射を受けてもそれに耐えきったのを見て、アインは舌打ちする。
シールドは攻撃などを受け止めて減衰してしまったとしても、艦からのエネルギー供給を受けることによって減衰分を回復することができる。
つまりシールドを撃ち抜くためには航宙艦が持つシールド用のエネルギーが空になるまで攻撃し続けるか、元々シールドが持っている耐久力に加えて瞬時に回復することができる分の耐久力。
これらを上回るだけの攻撃を与えなくてはならない。
だが今回、アイン達の航宙艦が行った爆発と副砲二回の斉射では、敵艦のシールドを撃ち抜くことができず。
しかもアイン達の航宙艦には、それ以上の攻撃手段が搭載されておらず、まともな方法では敵艦のシールドを抜いて敵艦本体にダメージを与えることができないということを証明してしまったのである。
「これは良くないですね」
それくらいのことはシオンにもすぐに分かる。
ここから副砲によるシールドの削りあいのような戦いになれば、一隻しかいないアイン達の不利は間違いない。
奇襲の効果もなく、ただ磨り潰されるだけの結果になることをシオンは危ぶむ。
「本艦前進」
「え? ちょっとアイン?」
ここは逃げの一手で魔王城の参戦を待つしかないのではないかと思うシオンは、アインが逆に指示を出したのに驚く。
「距離を取っての砲撃戦で相手をやれないのなら。戦い方は一つしかない」
「それは……?」
にやりと笑いながら言うアインに、聞きたくないなと思いつつも聞かざるを得ないのだろうと尋ねるシオン。
「至近距離での戦闘だ。こちらのシールドを相手のシールドにぶつけて相殺し、砲口をつきつけて副砲の一撃をくれてやる」
それだけ接近すれば、誤射を恐れて他の艦からの攻撃も来ないだろうしなと笑うアインに、大変なことになりそうだなと思いながらシオンは、座席の肘置きをしっかりと握りしめるのであった。
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