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開き直る魔王さま

「疑問があるとすれば、距離ですが……」


 サタニエル王国内でアインが主に魔力を使用している場所はノワール子爵領である。

 そのノワール子爵領から帝国までは、光の速さで移動したとしてもアインが寝ていた以上の年月を消費しなければ到着しないくらいのへだたりがあるのだ。


「そっちは問題にならないな。何せ航宙艦を使ってもっと短い時間でここまで来れるわけだからな」


「なんだか感染症の病原体みたいですね」


 人やら物やらの行き来があるのであれば、それに付随して広がっていくとアインは言うのだ。

 それは確かに人の行き来や物の交易によって広がっていく病原体のようであった。


「魔力と言うよりは広がっていくのは魔素だな。確かにノワール領内で景気よくばらまきまくったし、ばらまき続けてるな」


 魔力は使用されると魔素という状態になるのだが、この魔素が再び集まると魔力という状態に戻る。

 おそらくは魔素の状態で帝国に持ち込まれたものが、どこかに集まって魔力となり、その魔力にたまたま勇者の資質がある者が反応したのだろう。


「俺のせいか……」


 魔力を生産すること自体は、アインにとっては避けることのできない話だった。

 何をどうするにしても、魔王であるアインにとって魔力のない生活というものは考えられない話だったからだ。

 では使用した魔力が魔素として拡散していくことを予め防げなかったのかと考えれば、それは無理だっただろうなとアインは思う。

 魔素自体をどうこうするということはできない。

 魔力の扱いについては自分の右に出る者はいないだろうと言えるアインだが、魔素は魔力に転じない限りは何の力もない代物であるので、扱う術がないのだ。

 物流などを完全に止めてしまえば拡散速度を遅らせることはできたのかもしれないが、それは単に遅くなるというだけで広がっていくこと自体を止めることはできない。


「どうしようもなかった、か」


 魔力の生産を止めることはできないし、物流や人の流れというものを完全に遮断することもやはりできない話である。

 つまり、アインが目覚めた以上は魔力の拡散は不可避であり、それが不可避であった以上は勇者の出現は遅いか早いかだけの問題であるようにアインには思えた。

 だから、気にしないことにする。

 二千年前に煩わしい思いをさせられた代物に、また似たような思いをさせられるかもしれないといった点に関しては、多少不快感を覚えなくもない。

 しかし、これに関しては本当にどうしようもないのだ。

 これをなんとかしようと考えるのであれば、魔族以外の全ての種を根絶やしにしてしまう必要がある。

 何せ勇者の類は魔族以外の種族に、特に法則性もなく生まれるものだからだ。

 実はアインも過去に一度だけ、魔族以外の全てを絶滅させる計画を立てたことがあるのだが、計画の段階で無理が過ぎると判断して放り投げている。

 これもアインが不貞寝を決め込んだ理由の一つであった。


「まぁあれから二千年も経っているわけだしな」


 それだけの年月、勇者などから離れて休むことができたのである。

 今一度、魔王としてこの勇者問題に手をつけるくらいの精神的な回復はできたはずだ。

 そう考えてアインは気持ちを切り替える。


「クロワール、通信状況は?」


「もうしばらくかかりそうデス」


「シオン、軍人としてのお前に尋ねるが。今回の件が世情に与える影響はどの程度のものだと考える?」


「特にないかと」


 しれっとした顔でシオンが答える。


「話を聞く限り、今回の件は特殊な組織の非合法、とまでは行かなくてもあまり表に出したくないような行動の一環だと思いますので」


「どういうことだ?」


「要は世間に公表したくない話だ、ということです」


 考えをまとめながら話しているかのように、シオンは宙に視線を彷徨わせながら続ける。


「どこまで合法でどこから非合法になるのかは、帝国法に詳しくはないのでなんとも言えないのですが、今回の件はこれを表に出したくない組織の手で、おそらくはこっそり処理されると思います」


 隠ぺいされるからこそ、今回の件が世情に与える影響はほぼない、というのがシオンの見立てであった。

 アインはその意見を頭の中で吟味し、おそらく正しいだろうと判断する。


「よし、それなら多少の被害は許容範囲内と考えて問題なさそうだな」


「多少……」


「多少の概念が揺らぎマス」


 小声で言っているつもりのシオンとクロワールなのだが、もちろんアインの耳には筒抜けである。

 人聞きの悪いことを思いつつもそれらを聞き流して、アインは二人へ指示を出す。


「シオンは状況を注視。拙そうなことがあればすぐ俺に報告しろ。俺には何が拙くて何が拙くないのかまるで分からないからな」


「は、はい」


 魔王を相手にあまりやりたくはない役割ではあるのだが、実際にアインは世情に疎い。

 そこを判断、指摘するのは自分の仕事なのだろうと考えてシオンは頷いた。


「クロワールは引き続き、魔王城との連絡を取れ。ただしここからは多少雑で手荒なことになっても構わない」


 これまでやっていた作業を続けるだけのことである。

 そこに問題などあるわけもなく、クロワールは作業の手を止めないままに頷いた。


「では、本艦を再始動する。全ハッチ閉鎖。各部エネルギー伝達開始」


 アインの命令に従って動き出したのは、アンデッド化した帝国軍の兵士達だ。

 艦内にいた兵士達をまとめて始末するために開かれていた各所のハッチが閉ざされ、艦を運用するために必要なエネルギーが艦の隅々へと行き渡り始める。


「与圧は不要だ。どうせブリッジの外に生きて動いている奴はいない」


「えぇっとアイン? これから何をするつもりなのでしょうか?」


 明らかにアインは帝国軍の航宙艦を運用しようとしていた。

 問題は、何のために航宙艦を運用しようとしているのかということなのだが、シオンからの問いかけにアインはにやりと笑う。


「どうせ多少のことはあちらが隠ぺいしてくれるのだろう? それならば多少派手に動いても構わないということだ」


「それは……そうなんでしょうか?」


「気にするな。そう仮定して動くことに決めたのだから」


「はぁ、それで?」


「魔王城に連絡をつけるより先に、こいつで奇襲をかける。十一隻の内、何隻やれるか試してみようじゃないか」


 隠ぺいするにしても限度があるのではないかと思うシオンなのだが、止めようと思っても止められるわけがないので、後始末をするだろう帝国軍に憐れみを感じつつも大人しく状況を見守ろうと思うシオンであった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] アインが勇者を疎ましく思う理由がちょっと弱いかなぁと感じました。 それくらいなら戦時(と言っていいのかな?)だし、力でねじ伏せちゃってるしでそれほど面倒にも思えなくて。 もっと精神的な…
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