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原因だった魔王さま

「勇者などが確認されなくなった理由は分かりましたが、仮にこの特務機関が勇者由来のものだとして、何故突然こんなものが出来上がったのでしょう?」


「一番簡単な理由は、勇者が出現したんだろうな」


 しかもおそらくは、非常に面倒なことに帝国軍の軍部の中に出現したのだろうなとアインは渋い顔をする。

 勇者とは、アインから言わせるとただうざったいだけの性懲りもなく自分の命を狙ってくる代物なのだが、一般的には強大な力を持った魔族以外の種族に生まれる対魔王用の決戦戦力なのだ。

 世界が魔王と敵対し、常に戦争が起きていた二千年前ならば、勇者の生まれが何であろうと嬉々として祭り上げられ、対魔王戦に投入されていたことだろう。

 しかし現在は、シオンから聞いたり学んだりした情報では、サタニエル王家にいる現魔王は特に世界に対して敵対しておらず、戦争らしい戦争も起きてはいない。

 こんな状況で市井から、勇者になったので魔王を倒したいと思いますと誰かが名乗り出たとしても、誰がそんな戯言に耳を貸すだろうか。

 余程サタニエル王国と戦争をしたい理由があるならば、そのきっかけとして飛びつくような者がいたのかもしれないが、そう言う状況でもないだろうとアインは思う。

 しかし、勇者が生まれたのが軍部であるならば話は別だ。

 軍は常に強力な力を、使うと使わないとにかかわらず、求めている。

 そんな組織にとって、勇者の力というものは酷く魅力的に映るはずだ。

 多少の特権や融通を利かせてでも、手元に置いておきたいと思うくらいには。


「一般人であってもそれは同じなのではないデスか?」


「軍人はある程度行動が縛れるし、予想がつくが……力に溺れた一般人は何をしでかすかわかったもんじゃないだろ」


 軍人は軍人としての教育を受けてきているので、ある程度は命令や規則などでその行動を制限することができる。

 強大な力を持ったとしても、個人で世界を相手にすることができないということくらいは理解できているはずだ。

 しかし、突如として力を持ってしまった一般人は何をどこでどう誤解するか分かったものではない。

 下手すれば、自分こそ世界を救う英雄だと思い込んで、際限なく暴走し続けてしまうかもしれないのだ。


「陛下、軍というものに夢見がちデスか?」


「勇者程度の力で暴走するような軍人に、航宙艦やら何やらは任せられないと思うんだがな?」


「航宙艦と勇者って、どちらが強いんでしょうか?」


「それは勇者だと思うが……航宙艦に対魔術用の細工を俺が施せば、中距離以上ならいい勝負になるかもしれんな」


「陛下と比較すると大したことがない存在にしか思えないデス」


「個人で航宙艦と張り合える時点で既に異常なんですが……」


 普通に考えれば、ただの人間が数千人集まったところで、航宙艦と戦えるわけがない。

 長距離ならば、主砲の二、三発も撃ち込んでやれば全てがきれいさっぱりと片付いてしまうことだろう。

 そんな航宙艦より条件付きでも強いという時点で勇者という存在がどれだけ異常なものか分かりそうではあるのだが、それ以上に異常な存在がすぐそこにいるので、今一つ勇者のすごさというものが伝わらないシオンとクロワールであった。


「とりあえずだ。違っていれば取るに足りない代物でしかないのだから、最悪を想定して、この特務機関とやらを人族の軍部内で勇者が作った組織であると仮定する」


 アインがそう告げると、シオンは大人しく目を伏せ、クロワールは黙って自分の作業へと戻っていく。

 魔王城三号艦との通信はまだ確立されていないのだが、クロワールの腕をもってしても、十一隻もの航宙艦の目を欺きながら通信を行うということは容易ではないらしい。


「相手が勇者絡みとなると少々面倒だ。今回はこの宙域にいる航宙艦を潰して、一旦手を引こう」


 アインとしては自分が行っていた取引を邪魔された上に、頭上から爆弾を降り注いできた奴らを、一人残らずあの世に送ってやりたい気持ちだったのだが、これに勇者の存在が加味されてしまうと、感情のままに皆殺しにしてやるとは言いにくい。

 自分一人だけならばいいのだ。

 勇者がそれこそダース単位で襲ってきたとしても、どうにかできる自信はあるし、仮にどうにかできなかった場合でも被害は魔王一人のみで済む。

 だが、部下はそうはいかない。

 二千年前も魔王城にいた兵士や部下が勇者やら聖女やらの手によって、相当な数が討ち取られてしまっていた。

 アインが勇者への対処が嫌になってしまった一因である。

 狙うならば、魔王だけ狙えばいいものを魔王配下と名がつくだけで、勇者とその一党はとにかくしつこく徹底的に襲い掛かるのだ。

 しかも倒した兵士の装備や体の一部、もっていた金品などを根こそぎ奪い取っていくのである。


「一旦退いて、情報の収集を行う。特務機関ブレイバーとやらがどの程度の権力を持った組織で、どの位の人員を抱え、どう言った位置づけになっているのかなどを知らないままに手は出せない」


「慎重ですね」


 珍しいと言いたげなシオンに、アインは苦笑を顔に浮かべる。


「それだけ勇者という名前に、嫌な思い出があるということだ」


「なるほど、しかし……」


 シオンは訝し気な顔で呟くように言う。


「今になって急に勇者が出てきたのだとすれば、原因は何だったのでしょう?」


 これまでは魔力が枯れていたので勇者を観測することはできなかった。

 だとすれば、急に勇者が出てきた理由は一つしか考えられない。

 勇者が魔力を得て、力を発揮し始めたのだということ。

 ではその魔力は一体どこからやってきた物だというのか。


「私、一つだけ心当たりがあるんですが」


「奇遇デス子爵サマ。実は私も心当たりがあるのデス」


 宇宙広しといえども、魔力などという代物を生産、使用している場所はシオンやクロワールが知る限り、一か所しか存在していない。

 正確には、魔力というものを生み出すことのできる人物を一人しか知らなかった。


「……俺か?」


「はい」


「ソーデス」


 魔王の力も元々は魔力に依存している。

 だからこそ魔王城には魔力炉などと言うものを設置しているのだが、これが勇者復活の原因といわれれば確かにその通りかもしれず、アインは呆然としてしまうのであった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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