締め出す魔王さま
死者の群れはどうにか排除できそうだったものの、そこにクロワールが加わることであっさりと十数人を失い。
その失った十数人からいきなりの奇襲を受けてパニック状態になっている所へ、理不尽さの塊とも言うべき魔王とその魔王に従う魔族の襲撃を受けてしまっては、帝国軍の兵士達に成す術などあるわけもなかった。
「陛下、捕虜は取りマスか?」
「不要だ、全て始末しろ。ただあんまり壊すな。アンデッドにした後、動きが悪くなる」
「頭部を撃ってもいいのでしょうか?」
「構わないぞ。どうせアンデッドに脳みそは不要だ」
手足や胴体を撃たれたり切られたりしたことで動けなくなっていた兵士達に、クロワールは小剣を使い、シオンは銃弾を撃ち込むことでとどめを刺していく。
それは淡々とした作業であり、無言であろうが憎しみの視線を向けてこようが、あるいは命乞いを始めようが関係なく、二人の女性魔族は人族の命を刈り取る作業を続けた。
「まだどこかに隠れてますよね」
アイン達を迎撃した戦力はそれなりの人数ではあったものの、航宙艦一隻に配属される人員全てだったかと問われると、もっと沢山いるだろうと思われるくらいの人数でしかなかった。
「一部は機関室デスね」
「あとは……食堂とか資料室でしょうか」
航宙艦の中には当然、非戦闘員もいる。
エンジニアや事務方といった者達のことであるが、そう言った乗組員達は戦力としては大したことがないのだが、無視できるほどに無力な存在というわけでもない。
特にエンジニアは、やろうと思えば航宙艦を自沈させることすらできてしまう。
もちろん、そんなことをしてしまえば自分の命も危うくなってしまうのだが、追い詰められてしまった者というのは時として、自らを全く省みない行動をとるものである。
「隔壁を下ろして、各区画を独立させろ」
アインが指示を出したのは、今しがた頭を撃ち抜かれたばかりのブリッジに立てこもっていたオペレーターの一人だ。
当然死んでいるのだが、既に魔王の魔力によってアンデッド化しており、頭に開けられた大穴からぼとぼとと、色々なものをこぼしつつもオペレーター席へと移動し、血にまみれた指でもってコンソールの操作を行う。
その他の者達も次々にアンデッド化し始めると、生前使っていたのであろう自分の席と思しき場所へ、のろのろとだが戻っていく。
その光景はブリッジ内の十分な照明によってはっきりと照らし出され、自分達で作り出した光景ながらもさすがにシオンは顔をひきつらせた。
「区画を独立させて、孤立させておくのデスか?」
死者の操作によって艦内に隔壁が下ろされ、区画ごとに完全に独立してゆく様子がブリッジ正面のモニターに映し出される。
同時に、どこの区画にどれだけの人数が配置されているのかも、モニター上に詳細な数字で表示された。
さらに、アイン達がほぼ占領した航宙艦の周囲にいるらしい、帝国軍の航宙艦の情報までもが、情報としてモニター上に表示されてしまう。
「相手方の情報が丸裸デス」
「普通、死者から情報は洩れませんからねぇ」
やる側にいるからこそ、呑気にそんな会話ができるのだが、仮にこれをやられる側に回った場合のことを考えると、手の打ちようがなくてシオンはぞっとする。
少なくとも、死者の口をふさぐ方法など、シオンは考え付かなかった。
そうこうしている間にも、艦内の隔壁が全て落ちきる。
これで完全に、艦内にいる帝国軍の兵士達は逃げ場がなくなってしまった。
「機関室へのエネルギー供給を停止」
「それは……」
アインの指示が意図するところは、機関室にいるエンジニア達に余計なことをさせないためものだとシオンは理解した。
もしエンジニア達が追い詰められていることに気づいて、艦を自沈させようとしても、機関室内の工具が何も動かない状態では大したことができない。
せいぜいハンマーやスパナであちこちを叩くことくらいが関の山だが、その程度で致命的に破壊されるようなヤワな造りはしていないのが航宙艦だ。
ただこのままでは機関室が使い物にならず、航宙艦自体がただの巨大な置物になってしまう。
どうするつもりかとシオンが見守る中、アインは淡々と次の命令を下す。
「ブリッジの気密を確認」
「問題ナシ、デス」
「ブリッジの気密はそのままに、外部ハッチとダクトを開放しろ」
「なるほどそれは一網打尽デス」
効率的で効果的ではあるものの、アインの命令によって引き起こされる現実を想像して、シオンは少しだけ顔を青ざめさせたが、クロワールは顔色も表情も変えることなく死者がアインの命令を実行するのをただ眺める。
いうまでもなく航宙艦の外は宇宙空間であり、真空状態の死の空間だ。
気圧のないその空間に対し、航宙艦のハッチを開けば、相当な勢いでもって艦内の空気が艦外へと逃げていき、それ程時間をおくこともなく艦内は艦外と同じ状態になる。
つまり、生物の生息が不可能な状態に、ブリッジを除いた艦内の状態が、なるのだ。
「昔はこの方法で、航宙艦内のネズミとか害虫を駆除していたのだそうデス」
「今はやっていないのか?」
アインがこの方法を知っていたのはクロワールが言ったようなことを、現在の知識を学ぶ途中で見たからであった。
色々な隙間に隠れることができるネズミや害虫よりも、そんなことができない人間に使った方が簡単で確実であろうと考えたのだ。
兵士ならば艦外活動用の装備を身に着けていたかもしれないが、艦内作業を主とする者達は、そんなものは着けていないか、着けていたとしても簡易なものである。
「今は、駆除用のいいクスリがありマスから」
「意外と時間もかかりそうだから、薬で済むならそっちの方がいいのか」
「簡易宇宙服の酸素タンクは、軍用でも大体一時間位で切れマス」
「余裕をもって二時間くらいを見ておくべきか。その間に、情報の調査と魔王城三号艦への通信を確立させよう」
「艦内カメラは一時的に、全てダウンさせておきマスね」
これから二時間の間に艦内で起きるであろう光景を想像してしまい、少々顔色の悪くなってしまったシオンを気遣うようにクロワールが言うと、アインは鷹揚に頷き、シオンを気遣わせたことに気が付いて、そっと目を伏せたのであった。
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