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戦う子爵さま

 シオンはどちらかと言うと魔族としてはやや小柄なタイプである。

 体が小さいということは、手足の長さもそれ相応のものになるわけで、基本的に男性が扱うように設計されている重火器の扱いは少々てこずることが多い。

 とは言ってもすぐそこで、シオンにとって敬愛すべき魔王が見ているのだ。

 とても無様なところなど見せられるわけがなく、ある程度以上の戦果を挙げなくては恥ずかしくて顔も見せられなくなってしまう。

 敵からの攻撃については、あまり気にしなくてもよさそうだというのが救いであった。

 通路の真ん中に陣取って、銃弾の雨に袋叩きにされているというのに全く平気そうなアイン程の防御力が自分に備わっているかどうかは不明だが、一応は魔王の守護を頂いている身である。

 数発くらいの直撃弾なら大丈夫だろうと考えれば、随分と気が軽くなった。

 銃の取り扱い自体は慣れている。

 シオンは貴族であり軍人であり、兵士としての訓練は一通り済ませてきているのだ。

 手にした銃はサタニエル王国製ではなく帝国製なので、多少勝手は違うものの、人が考え出すシステムなどどこの誰が考えても似たようなものになって当たり前だ。

 通路の柱のような場所に身を隠し、姿勢は膝射を選択。

 照準を覗き込んで引き金を引けば、実弾系の小銃は小気味いい発射音を奏でながらシオンの体へ反動の衝撃を伝えてくる。


「ほぅ」


 シオンが射撃を始めてすぐに、アインは感心したような声を上げた。

 アインは射撃に詳しくない。

 元々、アインの知らない銃というものを用いた技術なのだから当然と言えば当然なのだが、そんな拙いアインの知識でもシオンの射撃技術は巧みなものだと分かるくらいだったのだ。

 まず、姿勢が全く崩れない。

 発砲の際にそれなりの反動が体を襲っているはずなのだが、全身の筋肉と関節とを操って、その衝撃を吸収することで銃口にブレがほとんど出ないのだ。

 そしてその狙いは一撃必殺というほどのものでもないが、かなり正確なものであり、標的となった兵士は腕や肩にまとめて数発の弾丸を受けて、血しぶきや肉片などを飛び散らせながら悲鳴を上げ、銃を放り出してあおむけに倒れたり、その場にうずくまったりしてしまう。


「上手デスねー」


 クロワールが思わず攻撃の手を止めて、そんな感想を漏らしてしまうくらいにシオンの手際は良かった。

 次々に肩や肘、膝などを撃ち抜かれて倒れる帝国兵達は、命こそすぐには失ったりしないものの、処置せずに放っておけば必ず死に至るであろうと思われるくらいのケガで、継戦能力は完全に失われていたのだ。


「これくらいはやって見せませんと」


「戦闘能力だけ失わせて、その内死ぬだろうレベルのケガを負わせる手並み。実に見事デス」


「なんだか人聞きが悪くて褒められている気がしません」


 むっとした表情になるシオンに、何かいけないことを言っただろうかとクロワールは首を傾げる。

 その辺りは役割だとか育ちだとか、諸々の条件で受け取り方が違うのだろうなと思いつつ、アインは苦痛のうめきや悲鳴ばかりが聞こえるようになった通路で他に攻撃を仕掛けてくるような者がいないかどうかと見回す。


「大体、片付いたか?」


「クロワール、敵方の銃と銃弾を集めてもらえます?」


「可能デスが……」


 弾丸の方は分かる。

 シオンの射撃は正確で素早いものではあったのだが、一撃で急所を撃ち抜くようなタイプの射撃ではないので、一人の兵士を無力化するためにそこそこの弾丸を消費してしまうのだ。

 それでもアインやクロワールが手を出そうかと考えるより前に周囲の敵を一掃するくらいの手際ではあった。

 しかしいくら手際が良くとも、弾の減り方まではどうしようもなく、大量に減った弾の補充が必要であることは確かだ。

 だが、銃まで集めさせられるのはシオンの意図が分からない。

 何丁集めたところで、それを扱うのはシオン一人なのだ。

 故障や破壊された場合の予備を考えても、あまりにも集めようとしている銃の数が多い。


「そんなに沢山の銃、どうするつもりなんデス?」


 不思議に思ったとしても命令は命令で従う必要がある。

 適当に集めて、無造作に自分の影の中へ放り込んでいくクロワールにシオンは答えた。


「王国の工房とか、諜報機関に売れるんじゃないかと」


 なるほどとクロワールは納得する。

 サタニエル王国以外の国への調査は諜報は、大きな声では言えないものの毎日のように何かしら行われているのだ。

 その中で、他国の武器というものは何かと重宝するのだということをクロワールは上司のサーヤから聞かされたことがあった。

 曰く、何をするにしても他国の武器なので使用者の足がつきにくく、事が公になってしまった場合でも責任を他国に押し付けやすい。

 要人の暗殺などではよくお世話になりました、とサーヤが遠い目をしていたのをクロワールは目撃している。

 それとは別に、正規軍の武器というものはその時点での、国が持つ技術力を表していることが多いということもあった。

 国の正規軍だからこそ、その時点で最高の技術を使った武器が配備されているということだ。

 つまり、武器を調べれば相手国の技術力を知ることができるのである。

 これが、とても貴重な情報であるということは疑う余地がない。

 理由が分かれば反対するようなこともなく、クロワールは倒れている敵兵から次々に武器を奪い、自分の影の中へと放り込んでいった。


「程々にしておけよ。この先もあるのだし、もっといいものがあるかもしれん」


「了解デス」


「た、弾はいいですよね? いっぱい持ち歩いていた方が安心ですよね?」


「撃てば減るからな。そっちは好きにしろ」


 アインの許可を受けてシオンはほっと胸を撫でおろし、クロワールは無表情に小銃の弾をどこからともなく用意したちりとりと箒でもって集めだす。


「この次は?」


「迎撃戦力を潰したんだ。本丸……じゃなくてブリッジか。そこを制圧してこの艦を乗っ取る」


 アインの言葉に応じるようにして、それまで床に倒れてぴくりとも動くことのなかった帝国兵達が、低いうめき声と共にゆっくりと立ち上がり始めたのだった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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