効かない魔王さま
「投げた方が確実だと思うんだがなぁ」
ハッチ周辺には遮蔽物になりそうなものが何もなく、シオン達は壁のくぼみなどに身を隠したのだがアインは手の中の拳銃を見ながら立ち尽くしたままぼやくように言う。
そこへ駆けつけた兵士達はシオン達同様に壁のくぼみや柱の陰へ身を隠しながら、手にしていた銃をアインへと向けた。
「何者だ貴様っ!?」
「大人しく武器を捨て、両手を頭の後ろで組んでその場に伏せろ! 抵抗すれば射殺する!」
兵士達からの警告に対する答えは、一発の銃声であった。
銃弾は帝国兵の一人の眉間へ命中し、皮膚と筋肉と骨を突き破り、その先にあったものをぐちゃぐちゃにかき混ぜながら後頭部へと抜け、開けた穴からそのぐちゃぐちゃにしたものを後方へとまき散らす。
「やれば当たるものだな」
一人だけ、物陰に隠れることなく立っていたアインが構える拳銃の銃口からは、発砲したてであることを示す薄く白い煙がたなびいている。
「音と衝撃は頂けないがなぁ。低重力下とやらじゃ使えないだろこれ」
「撃ってきたぞ!」
「反撃しろ!」
頭を銃弾に貫通されて、ばたりと兵士が倒れるより早く、帝国軍兵士達はアイン達めがけて銃撃を開始。
訓練された兵士が動かない的を外すような距離ではなく、アインの体中に弾が命中するがそのことごとくがアインの体の表面で弾けて四散する。
「命中しているのに何故倒れないっ!?」
「こんな強力な防弾フィールドなんて、個人用にあったか!?」
「構うな! 撃ち続けろ! これだけ強力な代物なら持続時間などたかが知れているはずだ!」
人数で圧倒している帝国軍兵士側はとにかくアインめがけて攻撃を叩き込み、アインかアインの装備が音を上げるのを待つという行動をとった。
これに対してアインは、自分めがけて撃ち込まれる銃弾など全く気にならないといった様子で体中でそれを受け止めながら前へと出る。
「何故平気なんだこいつ!?」
「さて、何故だろうなぁ」
普通ならば致死というよりは体がミンチになっていないとおかしいくらいの銃弾を浴びながら、傷一つ負ったようには見えないアインの姿は、兵士達から見れば悪夢そのものだ。
その悪夢が目の前まで来て、自分の方へと手を伸ばしてくるのを見れば、いくら鍛え上げられている兵士といえども、その精神には恐怖の感情が湧き上がる。
「く、来るなっ!」
「来るなといわれて、じゃあお暇しますという敵がいるのか?」
「黙れ、化物ぉっ!」
拒絶の言葉を吐く兵士に、小馬鹿にするように笑いながらアインは胸倉を掴んで兵士の体を持ち上げる。
兵士はそのアインから逃れるために、装備していた小銃の銃口をアインの顔面へと突き入れた。
しかし、兵士の渾身の一撃は銃弾同様にアインの体へと届くことはなく、皮一枚ほどの隙間を残して止まってしまう。
「な、何故だっ!?」
「さて、なんでだろうなぁ」
うろたえる兵士にそう答えて、アインは胸倉を掴んでいた兵士の腹部に、もう片方の手に握っていた拳銃の銃口を押し当てた。
「や、止め……」
「さんざん俺に撃ち込んでおいて、今更自分の番が来たらそれは嫌だとか、通るわけがないだろう?」
言い終えると同時にアインは拳銃を二発、発射する。
兵士の装備はある程度の防弾性能を持ってはいたのだが、極めて至近距離からの複数の銃撃を受け止めきることはできず、二発目の銃弾が兵士の腹筋を突き破って内蔵へダメージを与えた。
即死する程ではないとしても、処置が遅れれば死に至るであろう傷を与えて、アインは兵士の胸倉から手を放す。
アインによる束縛がなくなり、床にしりもちをつく形となった兵士は銃を手放し、撃たれた腹部を抱え込むようにしながら苦痛にうめきつつ横倒れになる。
「威力が小さいな」
倒れた兵士には全く興味を示さず、相変わらず無数の銃弾を浴びながらアインは手の中の拳銃を不満そうに眺める。
一見、ただの服のように見える帝国兵の腹部に傷をつけるのに、二発もの弾丸を必要としたのだ。
魔王が扱う武器としては、あまりにも貧弱すぎる。
「シオン、とどめは刺すなよ」
改良が必要だなと名前も品番も知らない拳銃を手の中でいじりながら、アインは他の兵士達と銃撃戦中のシオンに釘を刺した。
今まさに、アインが放した兵士の頭部を銃撃しようとしていたシオンは、慌てて引き金から指を離す。
「だ、駄目なんですか?」
味方はたった三人で、敵兵は何人いるのか全く分からない状態ならば、まずは確実に敵兵を減らしていくことから始めるべきだろうと考えていたシオンだったが、アインはそれに否と答える。
「駄目だ。殺せばこいつの魂の分しか魔力にならないんだぞ」
アインの手の中で、何かの冗談かのように拳銃がバラバラになっていく。
それ自体はある程度、銃の構造を知る者ならばできることではあるのだが、銃撃戦の真っ最中にやるようなことでは絶対にない。
「速やかに制圧する必要はあるが、楽に早く殺してやる義理はない」
「致命傷にならない様に気を付けつつ、戦闘能力を奪え、とおっしゃるのデスか?」
アインめがけて銃撃を行っていた兵士の腹から、ぬっとばかりに小剣の刃が突き出された。
思わず銃を手放し、腹を抱えてうずくまった兵士の背後には、壁に貼りついた影から上半身だけを出し、血の付いた小剣の刃をうずくまる兵士の背中で拭うクロワールの姿がある。
「難易度高いデス」
「お前が言うな、お前が」
音もなく影から影へと渡り歩くことができるクロワールだ。
相手の背後を取ることなど造作もないことだろうとアインは思う。
「一人や二人ならソウデスが、これだけ相手が多いと他の兵士にフォローされかねないデス」
「そういうものか?」
「難易度でいうナラ。私よりシオン様の方が楽にこなせるデスよ」
そんなことはないだろうと考えつつ、指さすクロワールに従ってシオンの方を見たアインは、そこでクロワールの主張を証明するシオンの姿を見ることになるのだった。
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