狩られる兵士さま
いかに錯乱していようとも、その体に何本ものナイフの刃を受けたりすれば、さすがにひるんだり絶命したりするものだろうと誰もが思う。
しかし彼らは非常な事態にばかり気を取られ、体中を刺された襲撃者がほぼ全くと言っていい程に血を流していないということに気づいていなかった。
さらに刺された痛みに声を上げることもなく、兵士達が何かおかしなことが起きていると考え始めるころには、立て続けに首の骨が折れる音が三回鳴って、三人の兵士が全身をぐったりと脱力させる。
「やられたぞ! 三人やられた!」
「こいつら一体……何なんだ!?」
体のあちこちに刺し傷を作りながらも、痛みも何も感じていないかのようにゆらりと立ち上がる三人の元兵士。
そして今しがた首を折られたことで、首から上がカクカクと不気味な動きをする三人の兵士が立ち上がったことで、それを見ていた帝国軍の兵士達は混乱状態に陥った。
「なんで立ち上が……こいつら死んだんじゃないのか!?」
「よ、寄るなっ! こっちに来るなっ!」
「銃だ! もう銃を使え!」
「衛生兵は下がらせろ! 本艦に援軍を求め……」
「馬鹿野郎っ! 援軍なんて頼んだ日にゃ、奴らアンカーチューブを焼き切るぞ!」
不測の事態が起きた場合、その対処方法として簡単なものは母艦側のハッチを閉じ、繋がっているアンカーチューブを切断することだ。
こうすれば連絡艇側に何が起きていようが、母艦には影響は出なくなるし、その場から離れることもできるようになる。
もっともこれをやられてしまうと、連絡艇側に残された兵士はおいてけぼりになってしまう。
「撤退だ! 撤退しろ!」
「奴らそんなに動きは速くない! 足を狙って動けなくしてやれ!」
死者が動くといった異常事態を目にしても、まだ冷静さを残した兵士がいたらしく、殺すことができないとしても足止めができれば、連絡艇もろとも宇宙の藻屑にしてしまうことができると指示が飛ぶ。
これに対し、命令に従う余地のあった兵士達が反応し、銃口を下げて敵の足を狙い始めた瞬間、コクピットの座席の陰から小柄の二つの人影が姿を現し、帝国軍の兵士達が反応するより先に片方が小銃を構えてその銃口を兵士達へと向ける。
「なっ!? 誰……」
「メイドだと!?」
人影の片方はツートンカラーのエプロンドレス姿で、もう片方は男物の黒のスーツ姿であったのだが、体のラインからして両方とも女性だというのが見て取れる。
それはコクピット内で息をひそめて隠れていたクロワールとシオンであり、銃を構えたのがシオンであった。
「始めますよっ!」
「お好きなタイミングで、いつでもドーゾ」
身を低くして床の上を滑るように突進するクロワールの返答を聞いてからシオンが発砲。
連絡艇に準備されていた小銃は実弾式のもので、低重力状態で発砲すれば反動で大変なことになる代物なのだが、床や壁、あるいはコクピットの座席等に体を固定したり、靴底に磁力を生じさせることでその反動を殺し、射撃を可能としている。
そのシオンの小銃が軽快な発砲音を鳴り響かせると同時に、呆気に取られて棒立ち状態になっていた兵士が二人ばかり、頭部に数発の銃弾を撃ち込まれて赤やらピンクやら白やらの破片を飛び散らせる。
「敵? 一体どこから?」
「連絡艇内の生体反応は三つではなかったのか!?」
「驚くのは後にしろっ! 迎撃……」
「はい、バッサリデス」
浮足立つ兵士達に大声を上げて指示しようとしていた兵士の首が、とてもあっさりと簡単に、一撃の下に切り飛ばされた。
切断面から赤い噴水を噴き上げて、倒れようとする体の胸倉を掴み、クロワールは自分へと向けられた銃口の前へ、首のない死体を掲げる。
その体へ何条もの光弾が突き刺さるが、不運な首無し死体を貫通する程の出力はなく、ただ死体を焦がしただけでクロワールにまで到達することはない。
「お返しデス」
クロワールが首無し死体を放り投げると、兵士達の視線はどうしてもその死体の方へと一瞬向いてしまう。
その隙をついて、クロワールが低い姿勢のまま兵士達の間をすり抜ける。
「足がっ!? オレの足がぁぁつ!?」
「こいつ、速……」
両足首を小剣で切られて、苦痛の声と共に銃を手から放してしまう兵士。
クロワールの動きを目で追うことができず、見失った途端に胸部を一突きにされて、貫通した刃を信じられないといった目で見ていた兵士は、そのままクロワールに弾避けの盾として使われて絶命する。
その間にも後退し、なんとかアンカーチューブ内に逃げ込もうとする兵士もいたのだが、こちらはシオンの正確な射撃によってアンカーチューブの入り口までたどり着くこともなく、頭を吹っ飛ばされた。
「後の掃除が大変そうデス」
「この連絡艇。どうせこのまま廃棄処分でしょう?」
「それもそうデスね」
シオンが敵兵の頭ばかりを狙うのは、体だとボディーアーマーの類を装備している可能性が高いからだ。
ただ体に対して頭は的が小さく、しかも大体は常に動いているので狙いにくい。
そこを的確に撃ち抜けているのは、シオンの銃に関する技量が非常に高いということの証であった。
「それじゃどんどん始末して、さっさと母艦に乗り移るのデス」
「アイン、行きますよ」
一人だけ戦闘に参加せず、コクピットの座席から状況を見守っていたアインはシオンに声をかけられて、ゆっくりと立ち上がる。
「もう一人いたのか!?」
「構うな! 撃て撃て!」
さらにもう一人増えたことにいくらかひるみつつも、兵士達はアインへ容赦ない銃撃を加える。
しかしその攻撃は避けられるでもなくアインへ命中し、何の効果も得られないままに弾けて消えた。
お返しとばかりにアインが振りかぶって投げつけた物は、自分たちの攻撃が無意味に終わったのを見て動きが停まっていた兵士の一人に命中し、その頭へめり込んだ。
「アイン……拳銃は投げつけるものでは……」
「手ごろな重さだったから、ついな」
「帝国軍の皆さん、ドン引きデス」
「経過はともかく、結果はどうせ似たようなことになるのだから気にするな」
アインにそう告げられて、帝国軍の兵士達は理屈ではなく本能的に、今日が自分達の命日になるのだと悟ったのであった。
面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。
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