来ちゃった救助さま
連絡艇から母艦との接舷は、通常であれば母艦から連絡用の通路を出し、連絡艇が接舷した後に与圧を行う。
十分与圧されてからハッチを開き、ようやく行き来ができるといった手順を踏むのであるが、今回は少々事情が異なる。
地上を確認しにいったチームのほとんどが未帰還で、どうにか連絡艇で戻ってきた者達も、歓楽街地下におそらくは違法に貯蔵されていた有害物質に引火することで発生した毒ガスにやられているというのだ。
事態は一刻を争う状態で、のんびりと接舷手順など踏んでいる暇はない。
ではどうするのか。
これは種族や所属している組織によって異なるのだが、人族最大の国である超銀河聖皇帝国では連絡艇にアンカーチューブを撃ち込み、人と空気とを強制的に送り込むといった方法をとる。
かなり乱暴な方法ではあるのだが、汚染されているかもしれない連絡艇内部の空気を母艦に流入させないための方法であり、何かあった場合には最悪、人員を連絡艇側に残したままでもチューブを焼き切って接舷を解除するのだ。
今回もこの手順がとられることになり、超銀河聖皇帝国宇宙軍所属であるソード十三号艦は軌道上まで上がってきた連絡艇に接近すると、連絡艇の貨物庫目掛けてアンカーチューブを発射。
装甲を突き破った先端部が連絡艇内にカギ爪をひっかけると同時に硬化剤を散布し、チューブを固定。
母艦側から空気を送り込むと同時に防護服を装備した兵士達が連絡艇側へと乗り移っていく。
「対象は何名だ?」
「三名であります。生体センサーにて確認致しました」
「担架の用意はできているな? 最悪の場合はここで応急処置を行う」
連絡艇へ入り込んだのは衛生兵とそれを護衛する一般兵だ。
万全を期すのであれば、軽装でもパワードスーツを同行させたいところではあったのだが、重量や大きさの関係でパワードスーツはチューブを通り抜けることができない。
「乗員は全員コクピットか?」
「はい。しかし外から声などかけておりますが、反応がありません」
どんな艇でもコクピットは独立しており、そこへ続く道は途中でコクピット側からロックできるような扉がついている。
防犯上の理由からなのだが、ロックされていても連絡が取れるように外からコクピット内へと通話できるマイクが設置されているのだ。
これを用いて兵士達はコクピット内部にいると思われる三人の生存者と連絡を取ろうと試みたのであるが、内部からの応答がないらしい。
「どうします?」
「時間が惜しい。レーザートーチの準備はできるか?」
「焼き切るのですか?」
「他に手がない。まさか内部に人がいるのに爆破するわけにもいくまい。コクピットへの扉を焼き切れ」
隊長の指示でレーザートーチが用意され、すぐに兵士がコクピット前の扉を焼き切り始める。
とはいっても元々、パイロットの身の安全を守るための扉であり、その頑丈さは小型の艇のものとは言えどもそう易々と焼き切れるような代物ではない。
「まどろっこしいな。内部からの反応は全くないのか」
「呼びかけは続けておりますが」
中にいるのは味方の兵士である。
いくら扉が開かないからといって、あまり乱暴な手段はとれない。
これが敵の艦であったのならば、手榴弾の何発かでも放り込んでやれば開くだろうにと思う隊長の所へ、扉が開きそうだという報告が入ったのは作業開始から十数分後のことであった。
つくづくドア・ブリーチ用の爆薬を使えなかったことを呪いつつ、部下の兵士達が扉の向こう側の状況を心配して暗い表情を見せる中、隊長が兵士達の気を引き締めるために声を上げる。
「注意を怠るな! 中から何が出てくるのか、分かっていないのだぞ!」
一応、事前情報としては地上へ降り立った兵士が三人、有毒ガスにやられた状態でそこにいるということにはなっている。
なってはいるのだが、果たして今でもそうなのかという問いかけに、答えを誰も持っていないのだ。
コクピット中にいる兵士達が何らかの病毒にやられている可能性もあるし、有毒ガスかと思ったら、被害者の遺伝情報を書き換えてしまうバイオトラップ系の何かにやられている可能性も捨てきれない。
とにかく何が起きたとしても対処できるように気を引き締めておけという隊長の指示は、扉が開いた瞬間に実に的を射ていたものだったと誰もが思うようになった。
何故なら、焼き切られた扉が開かれるその時、外側にいた兵士が焼き切られてまだ熱を帯びている扉へ手をかけるより先に、内側から扉を蹴り破る勢いで三体の人影が飛び出して来たからだ。
奇声を上げながら飛び出してきたその人影に、作業中だった兵士があっさりと押し倒された。
防護服には当然なのだが、パワードスーツのように装着者の力を増幅するような機能は備わっておらず、純粋に襲撃者と兵士との間での力比べの結果ということになる。
扉の向こう側から勢いをつけて襲い掛かってきた襲撃者側に対し、それまで作業中だった兵士側は分が悪い。
そして一度押し倒されてしまっては、そこから体勢を挽回することはなかなかに難しかった。
「くそっ! 放せっ!」
「何なんだ!? こいつらはっ!」
「おい! 見ていないで手を貸してやれ!」
「手を貸してやれって……」
狭い空間と、襲撃者達が襲い掛かった兵士達にあまりにも密着していたことが仇となり、兵士側は襲われた者達を救助してやろうとしても、なかなか手が出せないような状況になってしまっていた。
下手に発砲などしようものならば、貫通か跳弾かで味方を巻き込みかねない。
ならば力づくで引きはがそうとしても、襲撃者達の力は異様に強く、引きはがせないばかりか襲われた者の首に手をかけて、締め上げ始める襲撃者まで出てきてしまった。
「た、助けっ……」
「なんなんだこいつらはっ!?」
「こいつらって……要救助者なんじゃないのか?」
「力が強すぎる! 早く引きはがせ! 窒息する前に首を折られるぞ!」
「銃は駄目だ! 味方に被害が出る! ナイフを出せ! 殺しても構わん!」
いきなり襲い掛かって来るというのは錯乱でもしているのではないかと思われた。
しかし、襲われている者達は今にも殺されてしまいそうであり、とても錯乱状態が沈静化するのを待っていられるような状況ではない。
ならばと隊長が出した指示に応じ、兵士達はどうしてこんなことにと思いながらもナイフを抜き放つと、友軍の兵士を救助するべく襲撃者の体へとその刃を突き入れるのであった。
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