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騙す魔王さま

「こちらバード・ゼロワン……HQ、応答願う」


「こちらHQ。バード・ゼロワン、何があった? 友軍の生体反応が次々に消失していっている」


「想定外の事態が……起きている」


「まさか生存者がいたのか!?」


「違う……ガスだ。街の地下に……貯蔵されていたと思しき、有害物質に……爆撃が引火してガスが発生した」


「なんだと? クソッ。ろくでもない星は都市までろくでもないな!」


 通信相手が毒づきつつ、苛立ち紛れにどこかを叩いたのか、マイク越しに鈍い音が聞こえた。


「他の班の状況は……分からない。うちの班は……オレの他……二名だ。全員が既に……ガスの影響を……」


「自力による帰還は可能か、バード・ゼロワン」


「おそらく、可能だ……」


「では速やかに帰還せよ。医療班を待機させておく」


「了解……以上」


 あまり長く通信を続けていると、どこからボロが出るか分かったものではなく、アインはさっさと通信を打ち切るように兵士に指示をする。

 同時に他の兵士達へ、連絡艇を発進させるように指示を出すが、その指示にアインは少しだけ条件を付けくわえた。


「なるべく、もたもたと飛ぶように」


「何故です?」


 アインの指示通りに兵士達は連絡艇の操作をもたもたと行い、連絡艇はかなり不安定にふらふらとしながらゆっくりと飛行し始める。

 揺れる艇内で、個人携帯の火器のチェックを行いながらシオンが問う。

 ちなみに彼女が扱っている火器は、艇内の装備品ロッカーから引っ張り出してきた代物で、本来は友軍識別機能がついており、所属が同じ組織に登録されていない限りは使えない武器なのだが、その機能はクロワールが小剣の先を銃身や銃床に刺し、ぐりぐりとこじることによって破壊されていた。


「友軍識別機能って、破壊されてしまうと銃自体が使用不可になる仕様だったと記憶しているんですが」


 壊してしまえば使えるようなセキュリティでは意味がない。

 意味がないはずなのだが、実際クロワールが壊したその銃は、シオンが調べた限りでは使うのに問題がないようであった。


「魔族軍のはそうデス。人族が使っているのはセキュリティが甘いのデス」


 一応、非常事態に陥っても使用することができるようにというお題目はあるみたいですがとクロワールは鼻で笑う。


「クロワールは使います?」


 艇内にあったのは自動小銃が十丁と、拳銃が三丁であった。

 元々はもっと積んであったのだろうが、それらは兵士達が持ち出してしまっており、今は彼らの躯と共におそらく惑星ゲルドの地表部分に打ち捨てられてしまっているはずだ。


「私にはコレがありマスので」


 クロワールは自前の小剣を見せて、シオンに断りをいれる。


「それ、何かの業物なんですか?」


 おそらくは相当な人数を切ってきたであろうクロワールの小剣なのだが、その刃には今のところ血脂の曇りはなく、刃がこぼれたような跡もない。

 もしや相当に名の知れた名剣の類なのではと思うシオンだが、クロワールはそれを否定した。


「いえ、子爵家庭園の木に刺さって放置されていたのを回収し、打ちなおしただけの物デス」


「うちの庭って……」


 誰がどこから持ち出して、そんなところに突き刺しておいたのだろうかとシオンは考える。

 と言うか、子爵家の庭木に小剣を突き刺して放置していくとは、随分と度胸のある不埒者がいたものだ。

 下手すれば、貴族への暴行未遂事件辺りで逮捕され、冗談抜きでキツイ刑罰を受けることになりかねない行為である。


「錆だらけデシたが、古い鉄がいい感じになっていたので拾い物デシた」


 うっとりとした目で引き抜いた小剣の刃を見つめるクロワールなのだが、その目が帯びている光には少々常軌を逸した輝きが宿っているように見える。

 クロワールは、とある一件から少しばかり言動がおかしくなってしまったメイドなのだが、元々刃物好きだったのか、こうなってからそちらに傾倒してしまったのかは分からない。

 おかしな方向にこじらせて、周囲に迷惑をかけるようなことにならなければいいがと思いつつ、シオンは自分の武装をまとめていく。

 持って行くのは自動小銃と拳銃をそれぞれ一丁ずつだ。

 予備の分も考えはしたのだが、さらにここからもう一丁足すのは荷物が嵩張りすぎてしまう。


「二丁拳銃とかダメデスか?」


「二丁拳銃なんてものが通用するのは娯楽映画の中だけです」


 あんなまともに狙いもつけられない上に、リロードするのも大変な構え方を実戦で行うのは、自分には弾が絶対に当たらないと確信している馬鹿か、創作物の主人公くらいなものだろうとシオンは思う。

 多少なりとも使えそうな要素を無理やり上げるのであれば、一丁の拳銃に比べれば弾をばらまくことができるということくらいであるが、すぐに弾切れを起こすであろうし、弾をばらまくだけならばSMGやPDWと言った銃の方が優秀で、使い勝手がいい。

 もしここにSMGの類があったのならば、シオンは迷わずそれを選択するところなのだが、残念なことに自動小銃はライフル弾を使用するものだった。

 つまりシオンは二種類の弾を持ち歩かなければならない。

 アインやクロワールの謎な収納で弾を持ち運んでもらうことはできるのだが、どうしても受け渡しのための時間的なロスが発生してしまう。


「ボディーアーマーの予備もあればよかったんですが」


 少しは安心だし、弾倉の持ち運びも楽だったろうにとシオンは思うが、残念ながら艇内に残ってはいなかった。

 仕方なくシオンはライフル弾の弾倉を二つ、ズボンのベルトに挟み込み、拳銃弾の弾倉を一つ、スーツの上着の内ポケットへ差し込む。

 動きづらいし、バランスもよくないが、せめてこのくらいの弾数は装備していないと、まともに撃ち合いができそうにない。


「クロワール。他の弾倉はお願いしてもいいですか?」


「お任せ下サイ」


 シオンの求めに応じてクロワールは、艇内に残っていた弾を自分が操る影の中へ適当に放り込んでいく。


「アインは使います?」


 魔王が銃など使わないだろうと思いながらもシオンが尋ねると、意外にもアインは拳銃を二丁要求。

 まさか誰もやらないだろうとシオンが確信していた二丁拳銃持ちを、魔王ともあろう者がやろうとしているのだろうかとシオンが愕然としながらアインを見る。

 そんなシオンの内心のことなど知る由もないアインは、シオンから受け取った拳銃の重みを確かめるように、手の中でくるくると回して見せるのであった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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