呼ばれる連絡艇さま
それから程なくして周囲に静けさが戻る。
瓦礫の陰に隠れていたアインとシオンはその瓦礫から顔を出し、周囲の様子を伺ってみるが、自分達以外に生きている何かの存在を感じることができずに二人は顔を見合わせた。
「クロワールが、かなり徹底的にやったようだな」
生きた者の気配がないと言うことはクロワールが敵をことごとく全滅させたということの証だと考えられる。
敵の総数がどのくらいだったのか、直に見ていないアインやシオンには分からなかったが、一人のメイドがたった一本の小剣を使って叩き出した戦果だとは到底思えず、シオンは計り知れないクロワールの実力に舌を巻く。
「お待たせしマシた」
そのクロワールが、少々メイド服を汚しつつも無傷な姿で、アイン達の所へと戻ってくる。
ちなみに今回は、クロワールは捕虜を取っていない。
先に連れてきた三人をアインが調べている最中に、その三人で十分連絡艇を動かすことができるということが分かったからで、捕虜を取らなくてもよくなったことはかなり楽になりましたとクロワールが笑う。
「首尾の方はいかがデス?」
尋ねたクロワールにアインではなくシオンが、無言のままで指をさす。
頭を巡らせてそちらを見てみれば、両手をだらりと体の横に垂らし、口を半開きにして体を前後左右に揺らしている男達の姿があった。
その顔から表情は抜け落ち、肌は土気色で水気がなく、かさかさに乾いて干からびてしまっている。
とても生きているようには見えない様子だというのに、自力で立っている姿はとても異様だ。
「こいつらの頭の中身は総ざらいさせてもらったんだが、大した情報は得られなかった」
分かったことは彼らが超銀河聖皇帝国の正規の軍人であることと、その軍にどこかから命令が下され、今回の都市攻撃に及んだということの二つだけだ。
自国の都市に攻撃を行うなど、まともとは言えない話なのだが一体どこの誰がそんな命令を出したのかについては、ここにいる兵士達はこれといった情報を持っていなかったのである。
当然、都市が攻撃されるに至った理由や原因についてもさっぱり情報がない。
「余計なコトを考えず、ただ命令に従うと言うのは兵士としては及第点か」
「そうですね」
シオンが頷くのに対してアインは小さく鼻を鳴らす。
「とりあえず、さらなる情報が必要だ。どこの阿呆が俺達の頭の上にあんなものを投下してくれやがったのか、確かめなければならない」
アインがそう言うと、死者の様相を呈している三人の兵士がのろのろとではあるが動き出す。
「何をされるのデス?」
「こいつらがここに来るのに使った連絡艇をまず持ってこさせる」
兵士達の頭の中に情報が入っていなくとも、連絡艇の通信記録などを探ってみれば、何かしらの情報が得られるかもしれない。
これを調べてみないという話はないだろうとアインは思う。
仮に連絡艇を調べてみても、何の成果も得られなかったとしても、上空には彼らの帰りを待っている母艦がいるのだ。
そこへ乗り込んでやれば、もう少し詳細な情報が手に入る可能性がある。
もしかしたら、今回の命令を誰かから直接受けたような人物がいるかもしれない。
「いずれにしても人族ごときが魔王の頭の上にあれだけのことをしでかしてくれたんだ。当然、何かしらの落とし前はつけてもらわなくてはな」
何が目的で人族がこんなことをしたのかは脇にどけておくとしても、大事なことはそれがアインを巻き込んで行われたということだ。
相手がアインの存在を知らなかったと主張しようが、アインには関係のないことである。
「最低でも今回の攻撃を企画した奴らの命と、何隻いるかは分からないが、攻撃に参加した航宙艦の全てくらいはもらわないと、納得できん」
「それは結構な出費になりそうですね」
苦笑するシオンであるのだが、そのシオンとてそれくらいのものはもらっておかないと到底矛を収めることはできないだろうと思っている。
「ちなみに、今回の攻撃なのですが。アインから見るとどのくらいの脅威だったのでしょうか?」
好奇心からそんな質問を投げかけてみたシオンに、アインは少し考えてから返答した。
「派手なだけだな」
「その程度ですか」
「どこまで行ってもただの爆発だしな。結界破りや呪詛が込められていたというわけでもないし」
アインにとって、爆発から生じる衝撃や熱を防げばいいだけ、ということはそれほどとんでもない規模の魔術が必要な話ではなかった。
「そもそもあのくらいの爆発ならば、二千年前には魔術師が数人から十数人もいれば十分再現できたろうし、そのくらいの魔術師がいればもっとえげつない攻撃ができたはずだぞ」
「えげつない攻撃って……」
「火傷一つ取っても、自然治癒しないようにする呪詛だとか、解呪されるまで出血が止まらなくなる呪詛とか、傷口がゆっくりと腐っていく呪詛とか」
「うわぁ……」
想像するだけでもキツい効果ばかりだが、本当に恐ろしいのはおそらくそれらの攻撃をアインは実行することができる、ということだ。
そして実際にそう言った攻撃が行われてしまった場合、有効な治療方法が現在には存在していないということである。
広い宇宙を探してみても、解呪などという行為ができるのはおそらく魔王であるアインと、そのアインから魔術を学んだ者達くらいだ。
もっとも呪いをかけられそうなのもその面々であるので、上手に交渉すれば戦闘後に治療を受けられるのかもしれないが、そうでなければ対症治療か死か、ということになりかねない。
「最悪、そういう代物を奴らの頭上に降り注いでやる」
「そうならないといいですね」
人族がどんな目に遭おうともあまり興味のないシオンではあるのだが、あまり派手にやってしまってアインが目立ってしまうというのも好ましいとは思っていない。
「俺もそこまでどうしてもしたいという訳ではないが、魔王としての立場もあるからな」
やられた分はきっちり返しておかなければ魔王としての沽券にかかわるとアインは表情を険しくする。
「ま、まずは調査ですね」
「それはそうだ。関係のない奴らに報復しても意味はないからな」
それ程遠くに置いていなかったのか、帝国軍の連絡艇が頭上からゆっくりと近づいてくるのを見ながらシオンは、どのくらいの被害これから帝国に出るのだろうなと背中に冷たい汗が流れ落ちるのを感じたのだった。
面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。
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