襲われる兵士さま
一方、その情報が流れてこない穴となってしまった区画では、その区画へと降り立った者達が、瓦礫や連絡艇の陰に隠れて自らの不運を呪っている真っ最中で、とても当初に予定されていた作業など行えないような状況になっている。
「一体、何なんだ?」
そこにいる者達の中の、隊長格の男が小銃を構えながら呟くが、周囲にいる部下達からは返事がない。
皆、緊張した面持ちで小銃の照準を覗き込み、周囲に敵がいないかどうか、視線を巡らせている。
「何人喰われた?」
「二人です」
短い部下からの返答に隊長は舌打ちする。
見れば彼らより少し離れた場所で、喉を横一文字に切り裂かれ、おそらく絶命していると思われる者が二名程。
胸元を朱に染めてぴくりとも動かない。
明らかに何らかの攻撃を受けた結果、おそらく絶命してしまっているようなのだが問題は、一体何から攻撃を受けたのかが分からないということであった。
絶命している者達から得られる情報は全くない。
死んでしまっているのだから当然ではあるのだが、彼らはそんな状態になったとしても味方のために何らかの情報を残せるようにと、体のあちこちに様々なセンサーやカメラを装備している。
「ボディカメラに画像データがないのは、理解できなくもない」
彼らが着ている服にはあちこちにカメラが仕込まれており、本人が気づいていないようなことでも後から画像を解析することで情報を得ることができるようになっていた。
しかし、その画像データの中に襲撃者は映っていない。
ほとんどが本人から見て正面の光景を映すためのカメラであるので、背後から奇襲を受けた場合などは襲撃者の姿がカメラに捉えられることはない。
それは隊長も当然分かっている。
「だが静かすぎる……そもそも動体センサーや生体センサーにも反応が全くないというのはどういうことなんだ」
隊長が理解できないのは、二名の部下が装備していたセンサー類が、何一つとして情報を得ていないということなのだ。
つまりデータ上は二名の部下が殺害された瞬間、彼らの周囲には誰もいなかったということになってしまう。
当たり前のことではあるのだが、そのような状況はほぼありえない。
彼らの死因が遠距離からの狙撃であったとしても、絶命の瞬間には彼らの命を奪うために飛来する銃弾の類があるはずなのだ。
そういった物がないということは、隊長には想像もつかない超常現象が偶然発生したか、あるいはそう言ったものを探知するためのセンサーに対して、その機能をごまかしたりだましたりするカウンターセンサーが働いていたかのどちらかくらいしか考えられない。
「軍用のセンサーに対抗できるカウンターセンサーを用意していたとでもいうのか」
「こんな星に来る奴らに、そんな上等な装備が用意できるとは思えませんが」
「ではそんな場所に、我々は何故攻撃を命じられた?」
隊長の質問に部下は言葉を詰まらせる。
今回の行動は帝国正規軍の正式な行動であり、記録上にもそのように記載される代物であった。
しかしその内容は、航宙艦による衛星軌道上からの都市への爆撃という、法に照らせばほぼアウトな代物。
下手をすれば、様々な所から盛大に責められかねないリスキーな任務だ。
だと言うのにその目標は歓楽惑星の歓楽街だと言うのだから、何を考えて下された命令なのだかさっぱり分からない。
ただこれが、誰かを始末しようとしたものであったとするならば、超銀河聖皇帝国軍にそこまでのことをさせる相手である。
軍の正規装備品並みの物を持っていたとしても、何ら不思議ではない。
「一体、何を始末しようとしてこんな命令が出たのでしょうか。少なくとも都市一つを潰したのです。死者は万単位で発生したことでしょう」
元々住んでいた都市の住民と、歓楽街などを目的に立ち寄っていた者達とを合わせれば、十数万人くらいは軽く犠牲になったかもしれない。
予め、都市への攻撃が通告されていても、逃げ出せた者は極少数のはずだった。
それだけの犠牲を強いる形で行われた攻撃は、一体何が目的であったのか。
「知りたくないし、知りたいとも思わんな、俺は」
本当に全く興味がないと言うことが分かる口調で隊長は応じる。
「我々が受けた命令は、この場に生存者がいないことの確認だ。そして今、生存者と思われる何かから攻撃を受けている。これが現実だ」
「それは……」
「死にたくないのであれば警戒しろ! 仲間を二人も殺した奴をあぶりだせ!」
隊長の命令によって、部下達の間に緊張が走る。
姿を見せない何かを探し出すべく、部下達の視線が周囲を見回し、構えた得物が右や左へと揺れる中、険しい表情で小銃を構えていた一人の兵士の胸から、白々と光を反射する刃がぬっとばかりに姿を現した。
「は?」
胸から刃を生やすことになった兵士は、何が起きているのか分からないといった表情で自分の胸部を見下ろしたのだが、その刃が胸部を抉るように返されると、くるりと白目をむいて声を出すことなくその全身から力が抜けた。
「あ? おい!?」
糸が切れた操り人形のように、その場で倒れる仲間の姿を目にして、声をかけようとした別の兵士は、自分の喉元をかすかな風が撫でたのに気づいて、左手を自分の喉へ当てようとして喉と口、鼻から大量の血を垂れ流す。
あまりに急すぎて、自分の身に何が起きたのかを理解できないままに、噴き出した自分の血に溺れるようにしてその兵士は絶命。
「何だ!? 何が起きている!?」
「敵か! 敵はどこだ!?」
「やっぱりセンサーに反応が全くないぞ! 一体どうなっているんだ!?」
瞬く間に、さらに犠牲者を二人増やしてしまった兵士達が、四人もやられたと言うのにその犯人の姿を全く捉えられずにいた中。
彼らから死角となる瓦礫の陰で、メイド服姿のクロワールが血に濡れた小剣を一振りし、血のりを飛ばす。
「大した練度じゃないデスね」
「そのようだな」
答えたアインはシオンと共に、別の瓦礫の陰にしゃがみこんでいる。
「全滅させマス?」
「情報が欲しい。二、三人ばかり連れてきてくれ」
「了解なのデス」
答えたクロワールの姿が瓦礫の影へと沈んでゆくのを見ながら、シオンは相手が悪すぎるでしょうと人族の兵士達を哀れむのであった。
面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。
書き手への燃料と言う名のブクマ・評価・励ましの感想などお願いします。
ウォッチポイントから抜けられません、畜生、反応の鈍い自分が憎い……




