来てしまった兵士さま
アインによる対空攻撃がなくなれば、対空設備のない都市が軌道上から行われる爆撃に対して取れる有効な対策など何一つないと言っていい。
何せ爆撃の元を絶とうとしても、相手は地表からではとても手が届かない遥か彼方にいるわけで、一方的にやられたい放題になるからだ。
こうなると都市一つが壊滅することなど大した時間がかかるわけでもなく、攻撃を受けた都市は攻撃開始からおよそ一時間程度で瓦礫が並び、炎と黒煙とがたなびくだけの更地と化した。
この状態の都市へ、とどめとばかりに撃ち込まれたのがバンカーバスターである。
所謂、地中貫通爆弾だ。
通常の爆撃から身を守るためのシェルター。
そこへ逃げ込んだ者がいたとしても、確実に息の根を止めてやると言った攻撃を行った者の執念が感じられるほどに、執拗に撃ち込まれたバンカーバスターが、都市のあった場所を丁寧に掘り返した後に、空からいくつかの光点がまだ炎を上げている都市があった場所へと降りてくる。
それは連絡艇だ。
航宙艦は基本的に、大気圏内で行動をする能力を持たない。
稀に貴族や王族、皇帝などが自分はこれだけのものを運用する力があるのだと見栄を張るために、大気圏突入能力を持った航宙艦を建造することはあるのだが、普通に考えればコスト的にまるで見合わない代物であり、わざわざ通常運用しようとは誰も思わないものだ。
その代わりに、航宙艦には連絡艇と呼ばれる小型艇が積み込まれており、こちらを使って大気圏内と宇宙空間とを行き来するのである。
ちなみに連絡艇より安価なものとして降下艇と言うものがあるが、連絡艇が大気圏に対して突入と離脱の両方を行えるのに対し、降下艇は突入能力しかない。
片道切符な分だけ安価だというわけだ。
今回運用されたのは連絡艇の方で、着陸した機体からわらわらと外へ出てきたのは青と白とを基調とした、軍服と思しき制服に身を包んだ一団だった。
見た感じからして人族だろうと思われる彼らは手に銃を持ち、組織だった動きを見せる。
「マスクを忘れるな! 地表ではあるが爆撃後だ。有毒ガスが発生しているかもしれんし、単純に酸欠にでもなれば簡単に死ぬぞ」
「ボディスーツまで持ち出してきて、確認する必要があるんですか?」
彼らは顔を無骨なマスクで覆い、軍服の下には断熱仕様のボディスーツを着用していた。
爆撃後の地表はあちこちで火災が発生していて、大気はまだ相当な熱を帯びている。
熱風が肌や髪をなぶるのを感じながら、マスクではなくフルフェイスのカバーにしておくべきだったかと、隊長格の男は少しだけ後悔しつつ、部下達へ指示を出す。
「我々の任務はこの汚れた街に、生き残っている者がいないかどうかを確認することだ」
「生存者いますかねぇ、これ」
軽口を叩いた部下をじろりと睨みつけて黙らせながらも、部下とほとんど同じことを考えていた隊長は、部下がたじろいで口を閉ざすのを見てから、マスクの内側に重い溜息を吐き出した。
「いるかいないかは問題ではない。我々は確認してくるようにと命令を受けたのだ。納得できないのであれば不服の申し立てでもしてみるか?」
「いやぁ……それはちょっと」
脅し気味に口調を強くして隊長が尋ねれば、部下は愛想笑いなどしながら言葉を濁す。
馬鹿正直に、上層部に対してこの確認作業は無駄だとしか思えないので母艦に戻らせてくれなどと申し立てようものならば、その後にどんな扱いが待っているのか分かったものではない。
最悪、抗命罪で射殺されるか、強制労働所送りまでありえる。
それを考えれば、心の中でなんと無駄な作業なのだろうかと思うことは止められなくとも、それを言葉にすることは慎むべきだった。
「確認作業を開始しろ。瓦礫の下や地中もくまなく調べろ。生体センサーと動体センサーは常に展開しておけ」
「あれだけバンカーバスターを使用した後ですよ? 瓦礫の下も地中もあったもんじゃありませんよ」
「いいからやれ。命令だ。仮に生存者がいた場合、貴様が責任を取ってくれるのか?」
「い、いえ。申し訳ありません」
責任と言う言葉を聞いた途端に委縮してしまう部下を鼻で笑って、隊長は声を張り上げる。
「これ以上くだらないことを言う気がないのであれば、さっさと動け! 早く帰りたいと言うならば仕事を済ませろ!」
どうあがいたり、文句を言ってみたところで命令が変更されない限りはやらなければならないことはやらなければ、撤収することすらできないのだ。
そう考えれば余計なことはせずに命令されたことをそのまま実行することこそが、この廃墟と化した場所から帰還する唯一の方法だと分かる。
故に隊員達はそれ以上の会話は行うことなく、周囲を探索し、必要な機材の設置作業へと取り掛かった。
「組み立てが終了したら、データリンクを開始しろ」
都市一つと言っても範囲は広い。
人による調査だけではどれだけの時間を必要とするか、分かったものではなかった。
人海戦術をとるという選択肢もあったが、彼らは無難にいくつかの班を送り込み、調査用のセンサー等を組み立てて、それらをリンクさせることで都市一つ分を走査すると言う方法を選んだのである。
「機材設置完了。データリンク開始」
部下の報告を耳にしてから隊長は支給されていた小型の端末を起動。
状況が上手くいっていれば、他の地点に降下した友軍が設置したであろうセンサーと自分達が設置したものが同調し、都市一つ分の走査が開始されるはずであった。
しかし、端末のモニターを見た隊長はそこに映し出されていた情報に眉根を寄せる。
「穴があるな」
リンクされたセンサー群は、取得した情報をモニター上へ表示させるのだが、その表示内容の一部に情報を流してこない範囲があったのだ。
設置作業が遅れているのかもしれないと、少し時間をおいてから再度表示させてみるが、やはり最初見た時と同じ範囲から情報が上がってきていない。
「トラブルか。面倒な」
思ったより火勢が強い場所に降りたせいで、行動がままならないのか。
あるいは使用機材の故障などが発生してしまったのか。
いずれにしてもそこを確認しに行く必要があるなと隊長は、仕事が増えてしまったことに対して嘆息を漏らすのであった。
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