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飽きる魔王さま

 その城は大陸の中央部にあった。

 遠目から見てもその禍々しさが分かる形状をした、人の手によらずに造り上げられた魔が住まうという城。

 名を魔王城と言う。

 大陸中央部から大陸全土へと、死と恐怖とをまき散らした闇の代名詞とも言えるその城には、世界を救おうという志に動かされたあまたの勇者、聖女、そしてその仲間達が城に住まう魔王を討伐しようとして挑み、そして誰一人として帰っては来なかった。


「飽きた」


 魔王城の深奥部。

 魔王が鎮座する玉座のある王の間と呼ばれる空間で、その玉座に腰かけていた魔王、アイン・ノワールは肘かけに肘をついた姿勢で一言、そう呟いた。

 黒地に金糸をあしらったローブ姿と言う、一見地味にも見えるこの魔王は、適当に伸ばして背中側へと流しているだけの銀髪を左手でかきむしり、隠そうともせずに不満そうな顔を晒す。


「飽きた、ですか?」


 魔王の呟きに応じたのは側近の筆頭である女性。

 こちらは長い黒髪を頭の高い位置で結わえ、均整の取れた体にはしっかりとした女性用の板金鎧。

 背中には背丈と同じくらいの長さの大剣を背負っているが、今その大剣は鞘に入れられたまま彼女の背中に吊るされたままだ。

 王の間たる広い空間に、魔王側の存在はこの二人しかいない。

 何故かと言えばそれは、魔王アインの足下に転がっている者達が原因であった。


「飽きただろうシオン? それともまだ飽き足らないとでも言うつもりか?」


 苛立たし気にそう言ってアインは自分の玉座の間近に転がっていた者の頭を踏みつける。

 苦鳴をもらしたそれは、光側の大神たる至高神の女性司祭だった。

 血や煤にその美しい顔を汚されていた女性司祭は、魔王に足蹴にされてもその場から少しも動くことができない。

 それは彼女の周囲で倒れている者達。

 魔王の首級をあげるため、魔王城へと攻めて来た勇者達一行全員が同じような状態であった。


「こいつらで何組目だ? 奴らは懲りるとか諦めるとか言う考えを、この世のどこかに置き忘れて来たとでもいうのか?」


 それはどうだろうかとシオンは王の間の床に転がっている勇者達を見ながら思う。

 彼らとて、逃げ場や逃げ道があったのならばわざわざ負けると分かっている戦いに身を投じる必要などなかったのではないだろうか。

 シオンにはそう思えてならない。

 それとも、とシオンは別の考えを思いついてそれについて考えを巡らせる。

 もしかして彼ら一行は、何かの間違いでこの世に生まれて来たとしか思えない魔王アインを相手にして、勝てるつもりでやって来ていたりはしないだろうかと。

 そもそも、人族と魔族とでは存在からして全く違うのだ。

 行動のほとんどを物理的な法則に縛られ、大気に満ちている魔素を言葉で術式を構築してやらなければ現象として使用できない人族と違い、魔族は精神力だけでおよそほとんどの法則を捻じ曲げてしまうことができる。

 そこに言葉や術式は必要なく、空を飛びたいと思えば飛べるし、肌に石や鉄のような防御力を持たせたいと思えば、女性の柔肌であったとしても柔らかさはそのままに刃が通らなくなるのだ。

 そんな魔族の中にあって、魔王アインの存在はシオンが思うに、絶対に何かの間違いだとしか思えない代物であった。

 シオンとて、魔族の中ではかなり名の知れた実力者であり、単に破壊するという行為においては魔族でも他の追随を許さないとまで評されたことがある。

 当然、魔族の頂点である魔王の座にも興味があり、それを狙っていた時期もあった。

 魔王とは血筋ではなく、何らかの力に優れ、他の魔族を従えた者にのみ許される称号なのだ。

 つまりは現魔王が少しでも他の魔族を押えておくことができなくなれば、いとも簡単にすげ替わる地位でもある。

 シオンが魔王の地位を狙っていた頃、丁度前の魔王が高齢による力の衰えを理由に退位し、空位となった魔王の座を狙って大きな争いが起きる、はずであった。

 はずであった、ということは実際には起きなかったということである。

 起きなかった理由はもちろん、アインの存在だ。

 それまで全くの無名であり、どこからやってきたのかも分からない馬の骨という評価しかできないようなアインが、ふらりと魔王城へと現れたかと思うと並みいる実力者達をこともなげに一蹴し、そのまま魔王の座に就いてしまったのである。

 その時のことをシオンは今でもはっきりと覚えていた。

 鉄錆に似た血臭の漂う王の間。

 もはや死体と形容するのも難しいような何かと赤い液体がぶちまけられたその空間で、玉座に座るアインはその惨状を作り出した張本人だというのに、その身には汚れも一つもついてはおらず。

 それに対して床に這いつくばったまま動くことができなくなっていた、その場における唯一の生存者であったシオンはまさに満身創痍といった状態であった。


「生き残れる奴がいたか」


 心底驚いたと言うようなアインの声に、その時のシオンは低く唸ることでしか応じることができなかった。


「城を大破させてももったいないからと加減し過ぎたか? まぁいい」


 そう言って笑ったアインは、その時着ていたローブの襟首を大きく開き、露にした自分の首筋を手刀でトンと叩く。


「そこからここに一撃入れる気概はあるか? 無ければその場に蹲れ。せめてもの慈悲で楽にしてやる」


 その時のことをシオンはしっかりと覚えているというのに、その時自分が何を考えていたのかということはさっぱり覚えていなかった。

 何ヶ所折れているのか分からない腕や、体にくっついていたのが不思議なくらいに潰れていた足でもって、何故そんなことができたのかということも。

 ただシオンは何かに突き動かされるかのようにアインへととびかかり、アインが露にした首筋へと噛みついてみせたのである。

 もっともこのシオンが全力をもって放った一撃は、当たり前のようにアインの肌の表面すら削れないままに終わっていた。

 ただこの一撃をアインは称賛し、それ以降シオンはアイン第一の臣下としてアインに仕え続けているのである。

前二つが受けずにエタってるので。

今回は一冊分くらい書き上げてからの投稿。


受けなきゃ打ち切りはアマもプロも変わらないと思うのよ。

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