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第4話

 爽やかだった朝の日差しは太陽が昇るにしたがって昼のものに変わり、過ぎ行く夏を惜しむようなその日差しがアスファルトをジリジリと焼く。

 気温は一日の内で最も高い時間帯だろう。

 吹き抜ける風は蒸し暑く、しかしその中に混じる僅かな爽やかさが確実に歩み寄る秋の気配を感じさせてくれるような、そんな毎年変わらない日常が流れる窓の向こうを一瞥してから、漣は意識を室内に戻す。

 落ち着いて考えてみよう。

 死んだはずの父親がいきなり帰ってきた。

 そして目の前で訳が分からないことをずっとのたまっている。

 そんなのをそのまま受け入れる事ができる娘がいるだろうか。

 いや、ない。

 ああついに父が壊れてしまった。

 漣は世界のどこかにおわせられる神様にそっと絶望した。

 灼熱の屋外とは違いエアコンの効いた室内は過ごしやすい。

 そんな中で汗をビッショリかきながら身振り手振りを交えて説明を続ける父の顔を、漣は呆然と見つめる。

 この男はさっきから何を口走っているのか。

 父の説明は先に進んだり後に戻ったりわき道にそれたりと、とても要領を得ているとは言い難くはっきり言って何が言いたいのかさっぱり理解できない。

 いや、理解の範疇を越えていると言うべきなのだろうか。分かりやすく要約するならば、父はガソリン満タンのタンクローリーに轢かれ、その爆発に巻き込まれた後気が付いたら行った事もない埼玉の片田舎に寝転がっていたらしい。

 その他のファンタジックな部分はもう訳が分からない。

 特に『石の声が聞こえてね』のあたりなどに致命的な何かを感じる。

 今すぐ話を切り上げて一発殴るべきかしら。

 半ば本気でそんな事を考える。

 だが(内容の突飛さはさておいて)父の話は一応筋は通っているし、一冊本が書けそうなその話は創造力ゼロの父が即興で考えているにしては良くでき過ぎている。

 何より嘘をつけない性格の父がここまで必死になっているのだから、この話の中に何か伝えたいメッセージが隠されているのかも知れない。

 若干見当違いながらも、取りあえず最後まで話を聞いてみようと漣が思ったのも何だかんだと言いながら宗一郎を信頼しているからに他ならない。

 その風景だけを切り取って見たならば、漣と宗一郎は一般の家庭と差して変わらない日常の中にいた。

 この時はまだ。




 宗一郎宅から少し離れたマンションの屋上。地面に落ちた汗がすぐに蒸発してしまうような灼熱の下に立花音はいた。

 タチバナ-オトと言う変わった名前は作戦上のコードネームだが、何となく『雅』な響きを彼女は気に入っている。

 小柄なシルエットや白いキャップから覗く後れ毛からは少女らしいあどけなさと女性らしい色気が混在している。

 だが音は地べたに直接あぐらをかいて座り、半袖のシャツから伸びる細い左手に不釣り合いなゴツい双眼鏡を握っていた。

 もうずっと同じ姿勢を続けていると思われるのにすっきりと伸びた背中からは疲労の色は感じられない。

 音は足元に転がったコンビニの袋からペットボトル入りの紅茶を探り当てると器用に片手だけでキャップを開け一口だけ含む。

 ペットボトルはそのまま下に置き、またビニール袋に手を突っ込むと今度はアンパンを引き当てる。指先だけで切り口を確認すると右手と口を使って器用に包みを破いていく。

 その作業中も腕と一体化した双眼鏡は縫い付けられたようにピクリとも動かない。

 包みから半分程出した状態のアンパンを頬張ろうと小さな口を開けたところで、その動きが止まった。

 双眼鏡のレンズには一組の父娘が映っている。

 その双眼鏡が僅かに動く。距離の問題でほんの数センチ動かすだけでレンズの中の景色は大きく流れた。

 まるで初めからそのタイミングでその位置に来る事が分かっていたようにピタリと止まった双眼鏡のレンズのど真ん中に、今まさに家の前に現れた人間の姿が映し出される。

 上から下まで黒で揃えられたその姿を見て、彼女は整った口元をわずかに笑みの形に歪めた。

「このクソ暑いのにまぁ…」

 その呟きを察知したようにレンズの中の人間が動いた。

 ポケットから取り出した携帯電話を耳に当てる。と同時に彼女の胸ポケットに入っている携帯電話が震え、着信を告げた。

 音は双眼鏡を覗いたまま右手だけで首からぶら下げた小型のハンズフリーマイクのスイッチを入れる。

「はいもしもーし」

『俺だ。目標の家に到着した。そっちは今どこに居る?』

 耳に入れたイヤホンから流れて来たのはまだ少年のような声音だった。

「すぐ近くよ。アンタの姿も丸見え」

 それを聞いた少年は少しだけ辺りを見回すと、あたかも音の視線を感じたかのようにこちらを向いた。双眼鏡越しにピタリと視線を合わせる。

 確かに、周囲には同じような高さのマンションは幾つかあるが監視に相応しい条件を満たしているポイントは限られている。だがそれにしても一瞬で居場所を特定されるとは。

 少しだけ背筋に冷たいものが走り、無意識に唾を飲み込む。

『Aの現在の状態はどうなっている?』

 向こうからこちらは見えていないはずだが、少年は音と目を合わせたまま、しかし彼女の動揺など気にも止めず淡々と質問を続けた。

「ずっと同じよ。娘と話してる。警戒してる様子は皆無ね。呑気なもんだわ」

 射抜かれたように固まる身体を無理矢理動かし双眼鏡を父娘に向け直した。

すると、

「ありゃ?」

『どうした?』

 その意外な情景に思わず変な声を上げてしまった。

「状況に変化あり。娘がテーブルをひっくり返してる」

『…何だそれは』

「良く分かんない。何か揉めてるみたい。シ・ン・ジ・ラ…。ん〜?早口で唇が読めないなぁ。とにかくこちらの動きに気が付いた訳じゃないみたいね」

『そうか』

 もう一度少年に双眼鏡を向けると、少年はこちらからは視線を外し僅かに警戒した様子で目の前の家を見つめていた。

『まあ良い。予定通り行動を開始する』

「娘も一緒だけどこのまま行くの?巻き込んじゃうけど」

『それも含めての《交渉》だ。問題ないよ』

 事も無げに言い放ったその言葉の言外には、娘の存在を利用する事も辞さないと言う意味も含まれている。

「りょーかい。健闘を祈るわ」

『ああ』

 短く切った返事を残して電話は一方的に切れた。

 音はイヤホンに通話終了を伝えるハンズフリーマイクのスイッチを切ると、双眼鏡の中の少年の姿を見つめた。

「…まったく、アンタと仕事してると楽しくてしょうがないわ、カグヅチ」

 彼女は薄く微笑むと右手に持ったままだったアンパンを頬張った。

 そのまま双眼鏡を父娘に向け直す。

 自分の仕事はターゲットの監視をする事。

 今はまだ《交渉》の段階なのだから。





―Crystalline-Cell―

外伝

【Ryman Sorcerer】





 頭の中に直接声が流れてくる感覚と言うのをどう説明したら分かりやすいだろうか。

 感覚的には『聞こえている』と言うよりは『自問自答』に近い。

 要は『自問』に対する『答え』が勝手に頭の中で再生される感じだ。まるで自分の中にもう一人の自分がいるようでちょっと落ち着かない。

 音声が流れてくる訳ではないが不思議と明確にそれがソウイルの答えだと分かるのだ。

 ちなみにソウイルと宗一郎は記憶以外の身体機能、感覚を全て共有している。宗一郎が感じるものは全てソウイルも同じように感じるのだ。

 なので先程からもっぱらメインで主張されるのは―腹減った―であった。

 頭の中でガンガンわめき散らされてはたまったものでは無いのだが、元々その空腹感は宗一郎の感覚なので確かに耐えがたいのはまあ、良く分かる。

 なので食事を取る事にした。

 資金は先程カラんできた少年の一人が落とした財布から拝借した。

 落とし物に手を付けるのは気が引けたが、ソウイルの

―戦場で敵が落とした物は戦利品と言うのよ―

 との言葉にそそのかされる事にした。

 本当なら一刻も早く家に帰るかせめて目立つこの格好を何とかしたかったのだが、どうやら彼ら本当にお金に困っての犯行だったようで、残念ながら財布には僅かな小銭しか入っていなかった。

 これを期にバイトでもしておくれ。

 手持ちのお金では安い牛丼のチェーン店くらいしか入れなかったが、ソウイルは初めて食した異世界の味にいたく感動したようだった。

「異世界…ねぇ」

 腹が膨れた宗一郎は休憩も兼ねて近くの児童公園のベンチに腰掛けている。

 休憩と言っても肉体的な疲労感はほとんど無いので疲れたのはもっぱら精神の方だ。

 ソウイルの話を思い出す。

 『お気楽なあんたの頭でも理解出来るように』と前置いた上でかなり噛み砕いて説明してくれたようなのだが…。

 結論から言おう。

 全く理解できなかった。

―…ったくあんたって男は…―

 ソウイルが肉体があれば頭でも抱えていそうな疲れ切った声を出す。

―大体私はあんたが知ってる言葉しか使えないんだから、理解できない訳ないじゃないの―

 とは彼女のお言葉。

 そんな事を言われてもねぇ。

 誰しも見聞きした全ての言葉を記憶している訳では無い。

 削除してしまったり、中には取るに足らないものとして引き出しの奥深くにしまい込んでしまうものもあるだろう。

 ソウイルの存在の極端なところは、彼女が『石』の中に持っているのが人格と記憶や知識と言った限られたものだけだと言うところだ。

 なので彼女の知識を言葉にしようと思ったら必ず宿主の記憶している言語を使うしかない。

 そしてソウイルは宿主の記憶にアクセスする事において、前記したような記憶の制約を一切受けないのだ。

 なので宗一郎の知っている言葉しか使えないはずのソウイルが何を言ってるのか良く分からない、と言う不思議な現象が起きて来る。

 本人もいつ覚えたのか分からないような言葉を平気で使われても困…。

―そんなのを言い訳にされちゃたまったもんじゃないわね。あんたはそもそも日常会話レベルの言葉も分かってなかったじゃないの―

 宗一郎の思考を読み取ったソウイルが文末に被せるように非難の声を上げた。

 ほらほら『日常会話』なんて言葉もさ、普通は難しくて使わないってば。…使うか?

 固有の言語記憶を持たないソウイルは、当然宿主が知らなかったりそもそも『こちら』の世界に存在しない概念や言葉を言語化する事ができない。例えソウイルが知識として持っていたとしても不可能だ。

 それは機械を知らない未開の地の原住民にパソコンの使い方を教える酔うなもので、言葉が通じたとしても概念が存在しないものを説明する事は出来ない。

 実際宗一郎に説明する時もソウイルは『語彙が足りない』と随分苦労していた。

 そう言う意味ではソウイルはかなり頑張ったと思う。『こちら』の世界で概念の近い言葉にうまく置き換えて説明してくれたものだ。

 確かにあれだけ頑張ったものを分からないと一蹴されたら気分を害しても仕方ないかも知れない。

 とても同じ頭を使ってるとは思えないなぁ。

―私は宿主の能力の最大限に引き出す事ができるのよ。あんたの身体も乗っ取れれば有効に使ってあげるのに、残念だわ―

 と、ソウイルは実に残念そうに言った。

「怖い事言わないでくれ…」

―ふふっ―

 ソウイルは否定も肯定もしなかったが、どうも彼女が言うと冗談に聞こえない。

 思わず苦い唾を飲み込む。

 この異様な戦慄は何だろうか…。

 宗一郎は背中に冷たいものを感じつつも思考を切り替える。

 そもそもソウイルと言う存在をどう表現すれば良いだろう。

 彼女の話からすれば少なくとも今の石としてのソウイルは本来の彼女の姿ではないらしい。

 言ってみれば石の中に作られた人工知能のようなもの、とでも言えば分かりやすいだろうか。

―分かってるじゃない―

 と彼女は言うが、実際のところ百歩譲って理解が及ぶのはここまでだ。

 この先は決定的に概念が違う。

 曰く、『石』には特殊な力が封じ込められているのだと言う。

 そしてソウイルはその石を機能的に組み合わせて作り出された存在で、さらにさらに石の力を開放できるのは限られた人間だけなのだそうで、それが自分だといきなり聞かされて抵抗無く受け入れられる人間がいたら見てみたい。

 しかし、もはや宗一郎はそれを一笑に付す事はできない。

 ベンチの背もたれに頭を預けると右手を太陽にかざしてみた。

 影を作るはずの皮膚は手の甲の真ん中辺りで消失しそこから先、ちょうど握り拳を作れば相手に当たるような位置から指先に向かって、四本の指が透明な石に変わっている。

そのまま落とすようにして手の平を顔に被せる。体温も柔らかさも適度な湿り気さえ感じるのに、陽光を透過させる『石』の部分の中には筋肉も神経も血管も見えない。

「…」

 もう一度頭の中でソウイルの話を思い出してみる。

 宗一郎がタンクローリーに押し潰されたのとほとんど同時刻、ソウイルがいた『あちら』の世界では『こちら』とを隔てる『扉』をこじ開ける為の実験が行われていたのだと言う。

 『あちら』側から一方的に突破するには世界の壁はあまりに強固で、かつて同種の実験が成功した例はほとんど無かった。

 だが今回は偶然にも実験の開始と同時に宗一郎の事故が起きた。

 偶然にも『扉』が開く位置で起きたその事故は『扉』を突破する為に必要だった『こちら』側からの力となり、宗一郎は『扉』に飲み込まれた。

 その時点でほとんど即死していた宗一郎は、しかし偶然にも『石』の力を扱える能力を持っていたが為に、そして偶然にも『そこ』にいた何者かが『石』を使って死者を蘇らせられる程の技術を持っていたが為に。

 その何者かの手によって宗一郎の身体は『作り変えられた』

 ソウイルにも正確にどのくらいかは分からないようだが、手として表面に現れているのはほんの一部分だけで実際には宗一郎の身体の中の相当の部分が『石』に置き換わっているそうだ。

 ソウイルと同じ。今や宗一郎の命も『石』の力で繋ぎ止められているのだ。

「…『そっち』の世界じゃこう言うのは当たり前な事なのかな?」

―まさか。『あちら』の世界でも石を生体内に戻すだけで神業よ。まして甦生を可能にする程の技術を持った人間なんて、片手の指で足りるわね―

 つまり宗一郎が蘇生できたのは本当に稀有な幸運だったのだ。

 しかし同時に疑問も出て来る。

 『あちら』の世界の実験と『こちら』の世界の事故が同時に起きた偶然。宗一郎が『石』を扱える能力を持っていた偶然。そして『石』の力を使って死者を蘇らせる者がいた偶然。

 偶然、偶然、偶然…。

 偶然ってそんなに続くもんかい?

―全部が偶然だった訳じゃ無いと思うわ。少なくとも『扉』が開いた事とあんたが能力を持っていた事は無関係じゃ無いはずよ。『扉』はあくまでも魔法の力でこじ開けたものだから、あんたの能力に魔法の方が引き付けられたんだとしたら一応説明はつくんじゃないかしら―

 ソウイルは何やら一人で納得しているようなのだが、もうこの辺りになってくると概念が違いすぎてよく分からない。

 宗一郎は一度嘆息すると再び空を見上げた。

 馬鹿みたいに澄んだ空に白い雲がフワフワと流れている。

 結局、今一番大事な事は何なのだろうか。

 分からない事はもう分からないで仕方がないので、そう言うのを全部脇に置いて考えるとするならば…。

「…そうか」

 『こちら』と対なす世界があるとか、自分が何らかの能力を持っているらしいとか、そんな事は全部どうでも良い事で結局今一番大事なのは、自分はちゃんと生きていて、娘の所に帰る事ができて、そしてまた日常き帰れるのかどうかと言う事だった。

「ソウイル。僕は生きてるのか?」

―生きてるわ―

 答えは迅速だった。

―内臓をほとんど潰されて、『石』の力で強引に代謝させてるのだとしても、生体反応として生きてる。でもそれは『人間』と言えるのかしら?―

 彼女は時々こんな喋り方をする。冷徹で冷静で、容赦がない。

 あまりに流暢に会話をするものだからつい忘れそうになるが、ソウイルはあくまで『石』の中に作り出された疑似的な人格でしかないのだ。

 人間とは隔絶した存在。きっと戦闘機に心があったらこんな感じなのだろう。

 では自分は『人間』なのかと言われたら迷わずイエスに二重丸を付けたいところなのだが…。

 思い出す。

 赤い光の文字。

 路地裏で血まみれになった不良少年達の顔。

 人間じゃないと言ったソウイルの言葉。

 悲しい破壊兵器の成れの果て。

 右手に表出した『石』がグッとその重みを増したような気がした。

―で、これからどうするの?―

「…家に帰るよ」

 少し考えて、でも今できる事はどうやらそれしかなかった。

 自分が人間かどうかなんて、結局は漣に決めてもらうしかないのだろう。

―へぇ。何て説明する気なのかしら?―

 ソウイルは興味深そうに聞いてきた。

「そのまま全部話すよ。娘に嘘はつかないんだ」

―ただの子供に受け入れられるものかしらね―

 ソウイルはこちらを試すように嫌なところを的確に突いてくる。

 漣は自分なんかと違って聡い子だ。きっと大丈夫…だと思う。

 多分。

 …大丈夫かなぁ…

―悪い事は言わないからやめておきなさい。変人扱いされて傷付くだけよ―

「…」

 本当にひどい事を言うよなぁ…。

「良いさ。その時はその時。ダメなら居場所探しの旅にでもでるから」

―そう。ま、あんたが良いなら別に良いけどね―

 ふむ。

 宗一郎は膝に手を突いてベンチから立ち上がる。

「良し。じゃあ帰ろうか。…って言っても道が分からないな」

 何かないかな。

 辺りを見回すと遠くに有名なチェーン店の本屋が見えた。

 割と大型の店舗の自動ドアをくぐると、クーラーの涼しい風が灼熱の世界から宗一郎を開放した。

 …もうずっとここに居ようかな。

―バカな事言ってないで―

 はいはい。

 無数に並ぶ本棚から地図のコーナーを探す。

 買うお金は無いので丸暗記するしかないが、こちらは記憶能力二人分だ。何とかなるさ。

 通路に掲げられた地図のコーナーに向かう途中で、ふと宗一郎は足を止めた。

 見つめる本棚には分厚い本が並んでいる。

「辞書か…」

 しばらく背表紙を眺めていた宗一郎はある一冊に目を止めると手に取った。

 タイトルは『現代実用辞典』

 日本語と一緒に英単語が載っている。

 パラパラとページを捲って幾つかの単語を拾い上げる。

 そもそも何故『石』が人の身体に馴染むのかと言えば、元々『石』は人の身体からしか生み出されないからだ。

 身体の一部が透き通り、切り離されれば文字通り『石』となる。

 人の細胞が結晶化したものだとソウイルは言っていた。

 それはきっと今までこの世界にはなかった新しい概念だろう。いつまでも『石』では味気無い。新しい概念には新しい名前が必要だ。

 ならば自分が付けてしんぜよう。

―あら、良いじゃない―

 拾い上げた単語を見て珍しくソウイルが同意の言葉を発した。

 この日、世界に新しい言葉が生まれる。

 結晶化した細胞。

 クリスタラインセル、と。


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