ダイグ焦る
ダイグは2回前線に送られ、みっちりしごかれた。
地獄と言われる最前線で痛いほど治癒士と元英雄の貴重さを教えられる。
だが戻ってくると今度はレアの故郷の領地経営を任された。
レアの父が貴族の爵位を返上した事もある。
だがそれはきっかけに過ぎない。
狙いはダイグの教育の一環で、ダイグに自身の傲慢さを知ってもらう為である。
ダイグが2回目の前線から帰るタイミングで、アースト王とカシト第一王子が話し合った。
結果ダイグは話して聞かせても駄目という結論に至った。
ダイグには実践させ、惨めな思いをしてもらわねば学ばない。
自信過剰で中々懲りないダイグへの教育の為の行いであった。
簡単に言うと、ダイグのプライドをへし折る目的である。
レアの元故郷へ向かう道中、ダイグは不機嫌だった。
この俺が辺境の田舎の領主?
ふざけている!
しかも民の数は1000にも及ばぬと聞く。
俺を誰だと思っているんだ?
父も兄さんもどうかしている!?
ダイグに父と兄の思いは届いていなかった。
兄の「お前はもっと苦労をした方がいい」という言葉も、王の「試練を乗り越えよ。謙虚さを学べ」と心からダイグを思う言葉も一切届かなかった。
父と兄の考えは間違っていなかったのだ。
ダイグは言っても分からない。
ダイグは途中で出てくる魔物に当たり散らすように剣で斬りかかりながら移動した。
「な!なんだこのありさまは!」
領地に着くとダイグは驚愕した。
人が居ないのだ。
子供も老人も誰一人いない。
「どこだどこだどこだ!どこにいる!」
護衛兼ダイグの見張りの男2人が声をかける。
「ダイグ様、恐らく領民は南のホワイト王国に移民しました」
「もう民は居ません。探しましたが気配が無いのです。まさか全員移民するとは!」
「民が居ないのです。王に報告しに戻るべきです」
「何故全員いない!全員移動するのはおかしい!」
「ダイグ様、英雄ゼンキ様が貴族の地位を返上し、レア様もホワイト王国に行きました。この地の領民はゼンキ様とレア様を慕っていたおかげで成り立っていました。ですがレア様を婚約破棄したダイグ様がこの地の領主になると知り、皆逃げ出したのでしょう」
「貴様あ!俺のせいだというのかあ!」
「ダイグ様!あなたに人望はありません!お認め下さい!そして王の言葉通り謙虚になればやり直せます!まだ間に合うのです!」
「ダイグ様!事実を認め王に報告しに帰るのです!」
「黙れえええ!」
2人の護衛はまだダイグを助けようとしていたが、ダイグはそれに気づかない。
2人は数少ない味方なのにだ。
「俺はここに残る」
「は?」
「ダイグ様、お考え直しを!王にありのまま報告するのです!」
「そうです!ここにもうゼンキ様もその部下もレア様も居ません!しばらくすればここは魔物が増え危険となります」
辺境の地は魔物を間引く役割を持っている。
辺境が栄える事で、中央部の魔物の脅威を減らすことが出来る。
だが英雄ゼンキと治癒士レアが去り、他の者も去った事でここには魔物が溢れるだろう。
「辺境の怖さをダイグ様は知らないのです!」
「黙れ」
「ですが、危険です!」
「黙れええ!」
「ダイグ様、このままでは数名の部下を残して皆王都に帰還する事になります。お考え直し下さい!」
「舐めるなあ!護衛などいらん!俺が領民を集めてここを発展させる!」
「無茶です!」
結局話はまとまらず、数名の部下を残して部隊は帰還した。
◇
ダイグと数名の部下を残してゼンキの屋敷に住む。
「ダイグ様、領民を募集しましたが、誰も来ません」
「くそ!なぜ来ない!俺は王子だぞ!」
「ダイグ様、魔物が増え始めました。ここは危険になりつつあります!王都への帰還の決断を!」
「ま、まだ駄目と決まってはいない!」
「……」
◇
「ぐおおお、魔物が多すぎる」
ダイグは意地になって魔物を倒すが、少しずつ追い詰められていく。
少しずつ皆疲弊し、武器や防具も劣化していくが、魔物は少しずつ増えていくのだ。
「ダイグ様、我々の兵力が少なすぎます」
「数が少ない分ここは前線に近い状態になりつつあります。少数の兵のみでは危険なのです」
前線という言葉にダイグは恐怖を露わにした。
ダイグは魔物との戦いの最前線で何度も苦痛を味わっている。
「う、うむ、俺はまだいけるが、お前たちを、死、死なせるわけにはいかん。帰還の準備をしろ!」
ダイグは自分の失敗を兵のせいにしつつ、王都に帰還した。
ダイグに味方していた数少ない部下がダイグの元を離れ始める。
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