隣国の騎士隊長がやってきた
私は日が上に昇る前に故郷に帰ってきた。
屋敷に入ると、パパと従妹が出迎えた。
「無事戻ってきてうれしい。元気だったか?痩せたな」
満面の笑みで私を出迎える。
パパの名前はゼンキ・グラスフィールド。
黒髪黒目、高い身長と発達した筋肉で知らない人が見たら威圧感がある。
私と従妹を溺愛しているが、それ以外の事なら何を言われてもどっしりしていて器が大きい。
元英雄で今はこの辺境で男爵としてこの地を統治している。
「お姉さま、お疲れ様です……顔色が優れませんわ」
従妹のマリン
茶髪と茶色の瞳、ショートカットで頭のいい子だ。
従妹だが両親を亡くしてからは一緒の屋敷に住み、妹のような存在である。
まだ12才だが、それにしても背が小さい。
私の目に出来たクマと、前より痩せこけた頬で何かを察したようだ。
「すいません。私、婚約破棄をされてしまいました。務めを果たせなくてごめんなさい」
泣きそうになった私にマリンが抱きつき、慰める。
「いいのだ!お前が無事ならそれでいい!」
パパも優しく声をかける。
「そうですわ!」
私は学園でずっと怒鳴られて、婚約破棄されて、それでも護衛のみんなは優しくて、パパとマリンは優しくしてくれる。
私は安心して、涙が溢れた。
「今日はゆっくり休め。マリン、護衛のみんなの食事も含めて用意をするよう伝えて欲しい」
「分かりましたわ。すぐ伝えてきます。それと護衛の方はこちらへ、お部屋に案内いたししますわ」
◇
水浴びをしてベッドで横になると、落ち着いた。
安心する。
みんなに守られているような感覚が心地いい。
「もう、王都には行きたくないなあ。ずっとここがいい」
コンコン!
「お姉さま、お昼の食事の用意が出来ましたが、ここで召し上がりますか?それとも、パパや護衛と一緒に食べられますか?」
マリンは私を気遣って自室での食事を提案する。
この子は本当に頭が良い。
頭が良すぎて先回りする所もあるけれど。
「一緒に食べるわ。行きましょう」
テーブルにはパパと両隣には私とマリンの席。
対面には護衛の4人が並ぶ。
「うむ、全員揃った。堅苦しい礼儀も敬語も不要だ。食事にしよう」
護衛を食事に呼ぶのは情報収集の意味が大きい。
辺境の底辺領主に情報は集まりにくく、情報を集める者を送り込む余裕もないのだ。
ここは主要な街道からも外れた辺境で商人もほとんど来ない。
「レア様にはお世話になりました。我々は護衛でしたが、私たちが守られていたようなものです」
「私の左目も治癒してもらいました」
「料理がおいしかったです」
少しぽっちゃりな護衛の言葉に周りが笑う。
「貴族とは思えないほど気を遣っていただきました」
護衛の言葉に、「うむうむ、そうだろう」と満足げにパパが答える。
護衛の家族や私を送った話をした後マリンが話を始める。
「王都で何か変わった事が無いか色々聞きたいです。もちろんここだけの話、あくまで独り言として聞きたいのですわ」
マリンの裏話を包み隠さず聞きたいという意図を護衛は汲み取った。
「そうですね。婚約破棄の話をしてもよろしいですか?」
護衛は私の顔を窺う。
私が泣いてしまった為、気を遣わせているのだろう。
「どうぞ、気にせず話して。ここは辺境で情報が入ってこないの。皆の話は貴重なのよ。話してくれると助かるわ」
「では、レア様に婚約破棄をした第2王子のダイグ様ですが、王からの心象は悪く、王は第1王子を気に入っているという噂話はあります」
「特に学園での横暴が王に伝わり、最近王に激怒されたのだとか。それでも変わらず、立場の低い者に暴行を加えたり、その、女性を部屋に強引に連れ込んだりと、悪評が目立ちます。1度激怒されてからダイグ様は王への報告を握りつぶして来たとか来ないとか」
「レア様の評判は良いです。皆を癒し、いつも親切ですが、ダイグ王子の許嫁という事で、ダイグ王子に目を付けられないよう、途中から距離を置かれていたという話は聞きます」
「さらにダイグ様は、学園の卒業と同時にパーティーの場でレア様を貶めるように婚約破棄をした事で立場は悪くなると思います。流石に今回の件は王の耳に届くでしょう」
護衛は学園警備の仕事をしている事もあり、噂レベルではあっても学園の内情には詳しかった。
「うむ、レア、つらい思いをさせた。そんなことになっていたとは!だが王子から婚約破棄を言い渡されたのだ。もう安心だ!」
その後はマリンが様々な質問をした。
王都の経済状況・魔物の活性具合・味方になりそうな貴族・私が癒した貴族の名前を聞いていた。
最初はマリンを子供のように見ていた護衛の表情が変わり、真剣に話を続ける。
マリンは12才にして私よりも頭が良い。
「大体分かりましたわ。助かりましたの」
「皆には今日はここで休んでもらい王都への帰還の物資を持たせよう」
「いえ、すぐに準備をして出発します」
「そうか、急いで物資を準備させよう」
護衛はすぐに準備を済ませて帰っていった。
「お姉さま、そろそろホワイト王国の使者がやってきますわ。早く婚約破棄の事実をシオン王子にお伝えしませんと!ダイグ様に婚約破棄された今、婚約破棄を解消され寄りを戻されたら厄介ですわ」
シオン王子は私の幼馴染で一緒に遊んだ仲だ。
シオンとは気が合って楽しく遊んだのを覚えている。
「は!その通りだ!ダイグ王子に婚約破棄を解消されたら厄介だ」
そこにシオン王子の右腕、【アッシュ】がやってきた。
銀の髪とブルーの瞳。
外套の上からベルトを巻き、そこには2本の短剣とナイフが光る。
一見ワイルドだが、性格は面倒見がよく、20才で気のいいお兄さんと言う印象。
シオンの右腕であり、若くして実力によって平民から男爵の地位を手に入れた有名人だ。
「よう、久しぶりだな。ん?レアが居るのか?顔色が悪いな」
アッシュはダイグと婚約するはずの私が居た事で疑問に思ったのだろう。
「お姉さまはダイグ様から婚約破棄をされましたわ。婚約破棄を解消される前にすぐにシオン様にお伝えしませんと!」
マリンは手紙をアッシュに差し出した。
「ここに話はまとめてありますわ」
マリンは口角を釣り上げた。
「ふ、話はなんとなく分かったぜ。帰る!」
アッシュも口角を釣り上げて手紙を受け取りすぐに反転し、走って隣国に向かって行った。
アッシュは馬よりも速く走り、もう見えなくなった。
「え?もう?来たばかりじゃない」
「わたくし、生まれてから今までで最高のお務めを終えましたの。お姉さま、今日はゆっくりサウナに入って、美味しいものを食べて眠りましょう」
マリンが私を押してサウナに向かう。
サウナに入れるなんて、マリンが気を遣ってくれたのね。
「ふっふっふ、魔物を狩ってこよう。今日はステーキだ!」
パパは笑いながら狩りに出かけた。
どうやら私の知らない間に何かが進み始めているみたい。
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