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46.俺と竜娘からの相談

 青い竜の群れ──蒼海(そうかい)族の竜人達によるルルゥカ村襲撃事件から、数日が経った。

 魔力の使い過ぎで俺が倒れた直後にやって来た騎士団は、紅蓮族の竜人が蒼海族によって虐殺されたことを知り、セーラの保護を申し出ていたらしい。


「それで、セーラはどうするつもりなんだ?」


 俺の体調(未だに痛む胃以外)が良くなってから自宅に戻って来たところで、セーラがその件で相談があると訪ねて来た。

 彼女とは恋愛関係にはなれないと断ったのもあって、少々気まずい。

 それでもセーラは一番に俺を頼りにしてくれているらしく、嬉しさもあった。

 俺は淹れたてのハーブティーをカップに注いで、セーラの分を彼女へと差し出した。


「……本音を言えば、私はこのままルルゥカ村で暮らしていたい。ジーナは私をもう一人の姉のように慕ってくれるし、ジュリだって色々と世話を焼いてくれている。村長やアデルも、赤の他人の私にとてもよくしてくれて……」


 それに……と、こちらに視線を向けるセーラ。


「君と離れるのは……やはり、寂しいからな」

「……そう、か」

「ああ……。こんなことを言ってしまっては、君を困らせてしまうよな。すまないな……本当に」


 自嘲気味に小さく笑いながら、セーラはそっとカップに口を付けた。

 俺も彼女も、何も言えない時間が続く。


 ……それでも俺は、セーラの気持ちには応えられない。応えてはならない。

 自分の心の中にラスティーナが居る限り、永遠に。


「……だがな、私は思うんだ」


 先に沈黙を破ったのは、セーラの方だった。


「今は蒼海族の連中も大人しくしているが、またいつこの村を襲いに来るか分からない。……私は、皆が大切だ。私という異物を受け入れてくれた、この村が大切だ。だから……私は、この村を去るべきだと思うのだよ」

「……俺達を、竜人族の争いに巻き込まない為にか?」


 俺の問いに、セーラは静かに頷く。

 再び蒼海族がこの村に押し寄せれば、また俺が対処することになるだろう。

 何せ今、この村でまともに戦えるのは俺ぐらいなものだ。今度も都合良く騎士団が来てくれるとも限らない。

 そして、奴らの狙いは敵対する紅蓮族の生き残り……セーラただ一人。

 セーラがこの村を離れて王都へ逃げ込めば、ここよりも安全に過ごせるのは間違い無い。王都にはドラゴンに対抗出来るだけの戦力も揃っているし、魔法的な防御に関しても対応出来るはずだ。

 彼女はそれを理解した上で、ここを離れるべきなのだと……そう自分を納得させようとしている。


「俺がもっと、先生みたいに立派な魔法使いだったらな……」

「先生……?」

「俺に魔法を教えてくれた、ちょっと癖のある人でね。……あの人だったら、あのドラゴン達も余裕で追い返せると思うんだけど。俺はそこまで才能が無いから、またこの前みたいに魔力切れで倒れるのがオチだろうしさ」

「例えそうであったとしても、君は私の為に奴らと戦ってくれたじゃないか。私は……レオンのその気持ちが、とても嬉しいよ」


 そう言って微笑む彼女に、俺は「ありがとう」と返事をするだけで精一杯だった。




 *




 二人で話し合った結果、やはりセーラは王都に避難するのが最善だろうという結論に至った。

 聖王国の国民は人間が大半を占めているが、それ以外の種族が全く居ない訳ではない。

 そしてセーラのような竜人族も、数は少ないが人類の一種だ。つまり彼女も、国が守るべき民の一人になる。

 竜人族同士の争いに国がどこまで介入するかは分からないが、少なくともセーラの身の安全を優先するべきだ。

 蒼海族が紅蓮族の里を襲った理由は不明だが、彼らをどうにか出来るまでは村にも戻れない。


「なあ、レオン。この件が落ち着いたら……また、この村に戻って来ても良いだろうか?」


 ハーブティーを飲み干したカップを置いて、セーラが俺に不安げな表情を向ける。


「当たり前だろ。ジーナちゃんもジュリも、きっと同じ気持ちのはずだよ」

「ふふっ……そうだと、嬉しいな」




 それから俺達は、セーラの王都移住を村長さん達に説明しに行った。

 その話をしたら、皆は当然の如く寂しがっていた。

 けれども、こうする他にセーラを守れる手段が無い。

 俺は彼女へのせめてもの罪滅ぼしに、セーラを王都まで護衛する役目を請け負うことにした。

 出発は明日。少しでも早いに越したことはない。


 またいつの日か、セーラがルルゥカ村に戻ることが出来るようになるまで。

 俺が彼女の為に何か出来ることは、他にまだあるのだろうか……?

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