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2.俺とお嬢様のおでかけ

 俺とラスティーナを乗せた馬車は、アミシア家に向けて走り出す。


 アミシア家の屋敷は、エルファリア家のある王都の東から反対方向にある。

 この両家の血筋はとても古い。王国の右腕・左腕として活躍してきた事から、王都の東西それぞれに屋敷を置くこととなったらしい。

 そんな両家のご令嬢同士も仲が良く、王都の国立学校に通っていた頃も、頻繁に交流があったんだとか。

 学校は全寮制だったので、ラスティーナが在学中の出来事はよく知らない。その四年間、俺は遠方の里で魔法の習得に励んでいた……というか、励まされていたからだ。


 理由は勿論、ラスティーナ。

 彼女が『魔法の一つも使えないような者を従者にしているだなんて、貴族の恥晒しだと笑われたわ! この地図にある里に行って、少しは魔法の勉強でもしてきないよ!』と、入学式前日に怒鳴ってきたのである。

 俺としては魔法を覚える気は無かったものの、言うだけ言って学校に行ってしまった彼女に反論も出来なかった。

 従者如きの身分では貴族との面会すら出来ないらしく、手紙もアウト。晴れて俺は、魔法使いの弟子となってしまったのだった。


 まあ、そんな経験もあって、師匠から教わった魔法をマスターした俺は、無事に学校を卒業したばかりのお嬢様とこうして馬車に揺られている。

 厳しくも優しい師匠に出会えて良かったとも思う。だが通常ならばあの修行内容は、四年で習得出来るレベルでは無かったらしい。

 言われてみれば、あの頃から不眠症気味になっていた気がする。だから師匠が今も薬を届けてくれるのだろうが……その薬も今は飲み切ってしまっている。

 ラスティーナの止まらない一方的な会話のせいで、彼女の高い声がキンキンして頭が痛い。

 何とか笑顔を貼り付けて聞き流しているが、馬車の揺れもあってか吐き気もしてきた。ああ……もしかしたら睡眠不足なのも影響しているのかもしれない。ちょっと涙目になってきた。


「……で、そこであたしは言ってやったのよ。あなたが見たのは恐ろしいドラゴンなんかじゃなくて、隣の寮から飛んでいった平民の下着よ! ってね!」

「は、ははは……それは、傑作……ですね……」

「……ちょっと、本当に笑ってる? ていうかあなた、何だかいつもより返事が適当なような……?」


 その時だった。


「ゴフッ……!」

「……え?」


 思わず咳き込んだのを抑えた俺の右腕には、赤が散っていた。

 それが血なのだと理解すると同時に、俺は咳が止まらずに、何度も何度も血を吐き出してしまう。


「やっ……やだ、どうしたのよレオン! ちょっと、返事しなさいよ! ねえ、ねえったら!!」


 視界が霞む。意識が遠退く。

 いつの間にか俺の両手は血だらけになっていて、隣で誰かが泣き叫んでいる。

 激しく身体を揺さぶられ、俺はそのまま横に倒れた。



 ──最後に見た光景は、綺麗な空色が真っ赤に染まっていく姿だった。

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