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17.俺と長女の心配事

 紐で束ねておいた薬草から紐を取り除き、ドラゴンの前にそっと置く。

 もしもの時の為に採取しておいたものだったのだが、誰かがこれを必要としているのなら、俺は喜んでこれをさし出そう。


「これは、切り傷に効果のある薬草です。傷口に絞り汁を塗ったり、直に食べることでも効き目があるとされています。宜しければ、どうぞお使い下さい」

「…………」


 俺の言葉を理解しているのか、ドラゴンの視線が俺から薬草へと移った。

 高位の竜族なら人間の言葉も操れるらしいので、このドラゴンもそれなりに上位の存在なのだろう。

 ドラゴンは俺に敵意が無いと悟ったようだ。まだ少し警戒はしているが、先程までの威嚇を止めてくれた。

 後はそっとしておくべきだろう。

 そう判断した俺は、驚かさないようにそっと立ち上がり、一礼をしてその場から離れるのだった。




 *




「おいレオン、どうすんだよあのドラゴン! アイツを倒さなきゃ、お前は村に居られなくなっちまうんだぞ!?」


 村へ戻る道の途中、ジンさんが横から俺の肩を掴んでそう言った。

 どうやらそう思っているのはオッカさん達も同じなようで、今からでもあのドラゴンを倒しに戻るべきだと訴えてくる。


「……皆さんのお気持ちは有り難いです。ですが、あのドラゴンには人間を襲う意思はありません」

「そうは言っても、現にうちの村の若いヤツは、ブレスを吐かれて火傷したんだろ?」


 バーモンさんの言葉に、俺は間髪を入れずに返す。


「それはその男性が不用意に近付き、相手を怒らせてしまったせいでしょう。その証拠に、敵意を向けずに話し合いをしただけの俺は無事ですよね?」

「た、確かに……」

「でも、それじゃあ君が困るんじゃないのかい?」


 オッカさんの意見はもっともだ。

 俺がルルゥカ村に移住する為の課題は、『西の森のドラゴンを討伐する』こと。

 このままでは課題は未達成となり、俺はマイホームを手に入れる事も出来ずに終わってしまうだろう。

 ……だが、その為だけにあのドラゴンの命を奪うのには抵抗があった。

 ドラゴンは知性が高く、とても気高い種族だと言われている。この森に来たというあの赤いドラゴンも、自分の身に危険が迫らなければ危害を加えない性格だと知ることが出来た。


「……あのドラゴンなら、怪我が癒えれば森を去っていくはずです。それまでの間は、村の方々にはなるべくここに立ち入らないよう、村長さんに相談してみようと思います」

「爺さんに相談ねぇ……」


 村長さんが俺の意見を聞き入れてくれるかどうかは、ハッキリ言って賭けだ。

 初対面の、それも完全な部外者である若造の主張が通るかどうか……。あまり期待は出来ないが、何もしないよりはずっとマシなはず。

 ……もしかしたら俺は、こういうお節介なことばかりしてしまう(たち)だから、色々と抱え込みすぎて身体を壊してしまうのだろうか?

 もう少し心に余裕を持って生きるべきなのかもしれないが……まあ、今回ぐらいは人助け……いや、竜助けしてみても構わないんじゃなかろうか。




 *




 村に戻った俺達の元に、すぐさま駆け寄って来る人物が居た。

 ジンさんの娘で、村長さんの孫娘であるジュリである。


「レオンさーん!」

「ジュリさん……? どうしたんですか、そんなに急いで」


 俺達の所までやって来たジュリは、少し息を切らしながら俺の顔を見上げる。


「ど、どうしたって……それは勿論、レオンさんが心配だったからに決まってるでしょ!? だって、ドラゴンと戦いに行ったんでしょ? いくらお父さん達が一緒だからって、落ち着いていられるはずがないじゃない!」

「ジュリさん……」


 必死な顔でそう告げた彼女の目は、真剣そのものだ。

 どうやらジュリは、内心では俺のことをかなり心配してくれていたらしい。一緒にドラゴンについて聴き込みをしていた時には、そんな様子を欠片も見せていなかったのに……。

 もしかしたらそれも、変に俺を気遣わせないようにする為の配慮だったのだろうか。

 だとしたら、無駄な心配をかけてしまったのは心苦しいな。だって、ドラゴンとは戦わずに帰って来てしまったんだし。


「ご心配をおかけしてすみません。ですが見ての通り、俺もジンさん達も無傷です。これで安心してもらえると助かるのですが……」

「ほ、ほんとに? 皆、誰も怪我してない?」

「おうよ! 俺もオッカもバーモンも、ただレオンのやることを見守ってただけだからな」

「そっかぁ……! それならほんとに良かったよ!」


 そう言って、弾けるような笑顔を見せるジュリ。

 ……本当に、ジンさん達にはただただ見守ってもらってただけだからなぁ。ジュリを心配させない為に提案したことだったとはいえ、色々と面倒をかけてしまったのは反省しないとだよな。


 そうして俺達は西の森での一件を報告すべく、村長さんの家に戻るのだった。

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