5時になったら、みんなで帰ろう。
私が小学生の時の話。仲良し5人組の中で、休み時間や放課後にかくれんぼをするのがブームだった。ただ、1人が4人を探すのは大変だ、ということで、特別ルールのかくれんぼで遊んでいた。
鬼は1人、30秒待ってから探しに行き、見つけた人と鬼を交代する。
終わる時は、鬼が、隠れている4人に「もう終わりにしよう」と連絡し、5人集まってから帰るようにしていた。
だって、夕方5時を過ぎると、危ないから。
ある日のこと。
いつも通りかくれんぼで遊んでいた5人だったが、今日はなんだか様子がおかしい。いつもは1人1回は鬼になっていたのに、今日は一度も見つかっていない。もうすぐ5時になるのに。
『♪〜』
「あ、もう5時か…今日1回も見つからなかったな」
夕方5時を知らせる音楽が流れはじめたが、今日は一度も見つけてもらえなかったため、いつものような楽しさはなかった。隠れている場所から出ようと思ったが、私は、まだ鬼から連絡が来ていないことに気がついた。
『ねぇ、鬼誰?もう5時だよ、どこにいるの?』
不安になったため、とりあえず自分から連絡をしてみた。
『出ておいで』
一言返ってきたが、アイコンが他の4人のものではなかった。
「もしかして、5時過ぎちゃったから…」
ただの脅しだと思っていたのだが、学校の先生は学校帰り、お母さんは遊びに行く前、いつも同じことを言ってくる。
「5時になったら、みんなで帰るのよ。1人になっちゃダメ。別れ道は、みんなでバイバイしてから1人になるのよ」
当たり前のことだったため、今まで特に気にしたことはなかったが、今日は5時を過ぎている。5時を過ぎたら何かあるのだろうか、急に不安になってきた。
「どうしよう、1人になっちゃった」
『どこ〜』
『もう5時になったよ』
『出ておいで〜』
『みんな待ってるよー』
知らないアイコンからのメッセージが絶えず届く。外に出た方がいいかな、と迷っていたが、もう恐怖で足が動かない。私は絶えず届くメッセージを見つめながら、小さくうずくまっていた。
『みーつけた』
「え?」
目線をスマートフォンから離し、おそるおそる顔を上げるが、そこには誰もいない。
「こっちだよ」
私の右側から声が聞こえた。私が隠れている場所は建物の階段の下、右側は何もないため、ここに人が来てもおかしくはない。おかしくはないが、誰の気配も感じない、さらに、何故か右側を見ることができないのだ。
「…ちゃん…ちゃん!」
聞き覚えのある声に気がつくと、今まで見ることができなかった右側も見られるようになっていた。
「見つけた!…けどもうすぐ5時だから今日はここまでだね」
もう5時はとっくに過ぎているはず、と思い時計を見ると、時刻は4時55分だった。
「あれ…まだ5時じゃなかったの…?」
「もう、何言ってるの!もう5時になっちゃうから早く連絡して!連絡は鬼の役割でしょ!!」
「あ、うん…」
まだ動揺していたが、言われた通りみんなに連絡した。トーク画面を開くと何通も届いていた不気味なメッセージは消えていた。
「やっぱり5時までってあっという間だね」
「もっと遊びたいけど、お母さんに怒られちゃうしね」
私はさっきまでの出来事をすっかり忘れ、いつものように帰り道を5人で歩いていた。別れ道に来て私たちはいつものように別れようとした。
「じゃあね、バイバイ!」
「バイバイ!」
「バイバイ!」
「バイバイ」
みんなはいつものように『バイバイ』と言って帰っていったが、私だけはできなかった。
『バイバイ』が言えなかったのだ。
その日以降、みんなはかくれんぼをしなくなった。
…とまぁ、私が覚えてることはこんな感じかな。
「なるほど…で、今何故ここに?」
言ったじゃない。『バイバイ』が言えなかったのよ。こっち側になって初めて分かったけど、この辺多いのよ。だから、遊び終わったら『バイバイ』って言ってちゃんとお別れしなきゃダメなのよ。私はできなかったからここにいるの。
「そうか…で、これからもお前はここにいるのか?」
そうね…5時過ぎにかくれんぼしてくれる子がいたら、交代してもらおうかな。私がかくれんぼした相手はもうそっち側に戻ったみたいだし。
「できればやめて欲しいが…まぁ、大丈夫だろう」
…?
口出ししないでもらえるのならとてもありがたいわ。
「あなたと話せて良かったわ、ありがとう」
え……この感覚……!
「じゃあ、これからはこっちで頑張れよ」
「あ、ありがとう…!本当に…ありがとう」
私は久しぶりに涙を流した。