腹が立ったので、その村、全部焼いちゃいました☆最終話
――――血が出た。
「…………龍血」
着物が脱がされる一歩手前で、私は血を吐き出した。
その血はミキの眼球に突き刺さる。
「あああああああああああああああ!」
目から血を流し、私に馬乗りになっていたミキが床に転がる。
「ミキさん!」
私はその隙を見逃さなかった。
「クソアマがぁ!」
すぐさま立ち上がると、狼狽える男たちを押し退け、私はすぐさま玄関から抜けだした。
「逃げたぞ! 絶対逃がすなぁ!」
走る。すぐ後ろからミキの怒声が響き、男たちが私を追って来るが、それでも私は振り返らず走る。
怖い。怖い。怖い。怖いッ! ………………お母さん!
獣のような声が後ろから突き刺さる。すぐ後ろにいる。このままじゃ捕まる。
――――その瞬間、私の目の前にあの小屋が飛び込んで来た。
そうして私は小屋の中に逃げ込み、ありとあらゆる物を使ってその扉を強く塞ぐ。
ドンドンドンドン!
戸をこじ開けようとする男たちの声。扉が大きく揺れる。壊されるのも時間の問題だ。
「…………お母さん。お母さん。お母さん」
最早うずくまることしか出来なかった。
「おい! そこどけぇッ!!」
ミキの声だ。あの巨体にかかれば、こんな薄っぺらな扉は直ぐに壊される。
そうして私は犯されるんだ。袋と言っていたのは私の事を言っていたんだ。この村に男が多い理由が分かった。彼らは女性を攫って子供を産ませてるんだ。だから私と同じように彼女たちは逃げたんだ。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「…………誰か助けて」
その瞬間、奥の方でチラつく淡い光を見つけた。
お母さんのように私を包み込む強い温もり。お父さんの様に私を勇気づけてくれる強い力。
絶えず私を小屋から呼んでいたのは、まぎれもない、私の龍玉だった。
すぐさま私はその光へと向かう。雑に置かれた籠や樽を除け、埃まみれの布を払い、私はその光を掴む。
龍玉は、私の袴と一緒に小屋の隅で輝いていた。
――――バキ! と、小屋の引き戸が壊される。
「クソがあ。ずたずたに犯してやる」
「近づくな!」
私は龍玉を耳に付ける。瞬間、宝玉は私の視界の隅で、太陽のように強く光を放った。
「ミキさん! 女が玉を持ってる!」
後ろにいた男が怯えた表情を見せる。
「うるせえ! 耳ごと引き千切って売り払ってやらあ!」
男の抑制を聞かず、ミキは私に飛びついて来た。
しかし私の爪が、ミキの心臓を貫く。
暖かい感触。手のひらで感じるミキの鼓動。手首を伝い、私の腕へと流れる真っ赤な血液。
「ミキさん!」
タキミが駆け寄る。しかしミキは既に事切れている。
「お前! 何てことをしてくれたんだ!」
そう言ってタキミは私の頭を叩こうと、その拳を振り上げる。刹那、私は彼の顔面に蹴りを入れた。
少し鈍い音がしたが、まあ死んではないだろう。恐らく後遺症は残るが。
「ああ、あああああ。龍が目覚めた……」
尻もちをつく男。後ずさりをする男。我先にと背中を向ける男。ひたすら私に許しを請う者など。その姿は、ひたすら哀れだった。
「お前ら全員、私がずたずたに引き裂いてやるッ!」
「お、鬼だ…………ッ!」
阿鼻叫喚。情けなく喚きながら逃げ惑う男たち。しかし誰一人として、私に向かってくる者はいなかった。
「あははははははは! 無様! 無様すぎる! あっはははははッ!」
笑いを堪えずにはいられなかった。卑しい目で私を見ていたはずの男たちが、鬼だ龍だのと叫びなが背を向けているのだ。
「ざまあみろッ! そのまま妖にでも食われるがいいッ! あーッはッははは!!」
夜の森に逃げ込めば、たちまち獣や物の怪に喰われるのは容易に想像できた。それ故に、込み上げてくるのは嗤いだけだ。
そして予想通り、森の中からは悲鳴や断末魔が聞こえてきた。
「イッヒヒヒヒヒヒ! おかしい! おかしすぎる! っはあははは!」
ひとしきり笑うと、私は龍玉の力で村を燃やしつくした。この村の不浄をすべて浄化するように。男たちに逃げ込む場所を与えぬように。
「はあ。疲れた。お腹もすいたし、かーえろっと」
龍玉を光らせ、身体を宙に浮かせる。
そうして森の全体像を見た時、私は自分の馬鹿さに嫌気がさした。
なぜなら、私のいた場所からそう遠くない所に、私が求め続けた西ノ宮があったのだから。
「ユウ様に会いに行こっと」
後日。私は式に遅れる事もなく、無事めでたく愛する人の元へと嫁いだ。父や母に親友。その他大勢の、私が愛する者達に囲まれながら。
――――これは後に分かった事なのだが、私が囚われていた和村は、代々男しか生まれない呪いにかけられていたらしい。
その遥か昔、無理やり子を産まされた女の呪いだったのだとか。
しかし、今の私には最早どうでもよかった。あの村の男たちは全滅したし、生き残りがいたとしても、この先ずっと怨霊に苦しんで生きていくのだから。
そうして私はそれから、変な寄り道はせず、ただまっすぐ職場へ行き、ただ真っ直ぐ家に帰るようにした。
それでもあの美しい湖には、愛するユウ様と、私達の子供たちと一緒に度々行っている。
ここまでのご愛読ありがとうございました!
誠に恐縮ではございますが、よければ評価の方を頂ければ幸せでございます。