歯磨き
「部活終わりに歯磨く奴ってお前ぐらいじゃね?」
シャコシャコシャコと小気味良い音を立てて、佐倉が歯を磨いていた。シャワーを浴びる奴はいても歯まで磨く奴はいない。少なくとも今まであったやつの中には。
「身体がさっぱりしても、歯が気持ち悪いと駄目なんだよね。」
と言おうとしているんだろうけれど俺の耳には
「かららがさぱりしれも、はがきもちわるいとらめらんよね。」と聞こえた。
言おうとしていることが分かるなんて俺ってスゴくね?
佐倉はモテる、カッコいいから。告白されても断っているとか何という贅沢者だろうか。
女子いわく、爽やかで笑顔が素敵。なんだそうだ。
そんな佐倉が俺の前で歯を磨いている。
歯を磨く時って誰しもが無防備だ。そして口は開けっぱなしで、歯磨き粉が垂れそうになるのを堪えながら磨く。とてもじゃないがそんなかっこいい姿とはいえない。
もちろん、目の前の佐倉も口は開けっぱなし、歯磨き粉は平気で口から垂れてる。横見たり落ち着かない。落ち着かないからってストレッチする始末。
カッコよくない。
でも、
俺はそんなお前を見るのが好きだ。