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58:せっかくハロウィン間近なのに起きている事件が物騒過ぎる。【蓮SIDE】


 十月。エボルシオン魔法学園第二学期が始まってからついに一ヵ月が経った。

 結局あの黒い悪魔の事も、魔物狩りのおっさん達を前にしてオディオがあんなに怒り狂った理由も何も分からずじまい。一応レックスにも相談してみたのだが、それを聞いたレックスは神妙な表情を浮かべて「分かった、調べてみよう」とだけ返してきたのだ。なんとなーく、心当たりがあるようなそんな感じだった。詳しく事情を聞きたかったが、オディオのいない所で色々あいつの事情をほじくるのは野暮ってもんだからやめておいた。とりあえず今は俺ができる範囲でどこか不安定なあいつの傍にいてやろうと思う。


「……、ン……おい、レン!」

「っ、あ……」


 ……しまった。どうやら俺はレックスに呼ばれていたようだ。俺がオディオの事を考えている内に、受けていた魔法薬学の授業は終わっていたらしい。レックスに急かされ、俺は男子寮へと戻る。今日はもう俺とレックスは授業も用事もないので、珍しく休むことができるのだ。最近は特に忙しかったからだろうか。ようやく部屋のソファに腰を下ろすレックスはやけに疲れている様子だった。俺がそんなレックスの肩をすかさず揉んでやる。


「肩、凝ってますね」

「あぁ、凝りもするだろう。もうすぐ学園最大の行事があるのだからな……」


 レックスのため息交じりの言葉に俺は苦笑した。

 ちなみにレックスの言う学園最大の行事とは──何を隠そう「ハロウィンパーティ」の事である。前世の日本の学校行事に則って言い換えるならば「文化祭」というべきか。この世界は実際に悪魔が存在している分、厄払いの意味合いを持つハロウィンが一大イベントになるのはおかしいことではないだろう。そういえば、「ときファン」でもハロウィンイベントだけはやけに豪華に行われていたような気がする。特にリリスのハロウィン限定エピソードがとても可愛かったんだよな……。まぁ、今ではそのリリスも桜の婚約者(仮)なのだが。うぅ……。


 するとそこで、レックスが胸元から上品な質の封筒を取り出した。おそらくは城からの便りだろう。いつもは空気を読んでその場を去る俺だが、今回ばかりはそうはいかなかった。その封筒の中身に、()()()()()()()()の写真が見えたからだ。


「……レックス様、これって!」

「ん? あぁ……。最近王都にて不気味な事件が多発していてな。それについての資料だ。『人喰い鬼(ブラッディー)』と呼ばれている化け物が夜な夜な貴族の屋敷を襲っているらしい。化け物の正体は不明。幸い被害者は命に別状はないが、重症の者もいる。……まだこれは公表していないが、昨夜は休日に帰宅していた我が校の女生徒が被害を受けた。こうなった以上、この学園を管理する余も動かねばならん」

「その被害者がこの子ですか」

「? 知り合いか?」


 俺は一瞬口迷ったが、首を横に振った。


「いえ。知り合いというほどでは。どこかの授業で見かけた記憶があったので」

「……そうか」


 レックスはそこで被害者達の似顔絵などの資料を一度封筒に仕舞う。どうやらこれ以上は見せてくれないらしい。まぁ、一応機密情報みたいだから当たり前か。……と、いうことなら俺はこれ以上ここに長居はしない方がいいだろう。レックスの休憩の邪魔はしたくない。と、なると最早俺の日課になりつつあるオディオの監視にでも行くか。この曜日のこの時間、オディオは図書室で自習をしているはずだ。オディオが独りでいる時間を狙ってはあいつに会いに行っているため、俺はすっかりあいつのスケジュールまで覚えてしまった。……まぁ、オディオの方も嫌な顔はしていないし、いいよな。きっといつものように「仕方ないですね」とか言いながら、なんだかんだで向かいの席に俺が座るのを許してくれることだろう。俺はさっそく自習に必要なものを鞄に詰めると、ドアノブを捻った。


 ──が。


「──またオディオのところに行くのか?」

「え、」


 がっしり。そんな効果音が似合うほどに強く、突然後ろから抱きしめられる。俺はひくりと頬が歪んだ。耳元でレックスの吐息を感じて、くすぐったいことこの上ない。


「れ、レックス様?」

「お前がいつものおせっかいを発揮してあいつを気にかけているのは理解している。だが少しは余にもお前の時間をくれてもいいではないか……」

「……!」


 ……おっと。ここのところ忙しすぎてあまり顔を出さなかったこいつの『子供モード』が滲み出たな。確かに最近は暇があれば俺はすぐにオディオの所へ足を向けていた。それは俺がオディオに対して目を離した隙に何かとんでもないことをしでかしそうな危なっかしさを感じているからに過ぎないのだが……。

 まぁ、そう毎日顔を合わせてもオディオもうんざりするだろうし、今日はこのレックス(大きな子供)の我儘に付き合うことにしよう。


 ……そう、思っていたのだが。


「失礼します。レンはいます──か」

「あ」


 ノックと共に開かれたドア。俺とレックスはそのままの大勢で、部屋に入ってきた男──オディオを歓迎する形になってしまった。そう、俺は今後ろからレックスに抱きしめられているのだ。今の俺達を見られてしまっては色々と勘違いさせてしまうだろう!

 案の定、オディオはピクリと眉を吊り上げ、ズレたご自慢の眼鏡をくいっと掛けなおす。「お邪魔のようですね。失礼致しました」と言い残してあくまで冷静にドアを閉めようとした。俺は咄嗟にそんなオディオの腕を掴む。


「ちょ、ちょっとオディオ先輩! そのまま行かないでください! ど、どうしてここに? 何か用事でもあったんじゃ……」

「何故って──そりゃあいつもしつこいほど僕の傍にいる間抜け面が見えなかったのだから、気になるでしょう。……いえ、今のは失言でしたね。もう用事はないので失礼します。では」

「オディオ先輩!」


 俺はオディオを呼び止める。今のオディオの言葉は見かけない俺のことを心配してくれたんだと自惚れてもいいのだろうか? なんだか攻略に難があるキャラクターの好感度をやっとの想いで上げることに成功した時の達成感を覚えた。……尤もここは実際恋愛ゲームの世界なんだけどな! 

 するとレックスがオディオの肩を掴んだ。


「オディオ、丁度よかった。お前も余の休憩に付き合え。いつも言っているが、お前は休まなすぎだ」

「っ! いえ、しかし……殿下の邪魔をするわけには、」

「余が構わないと言っているのだ。余とて休憩は必要である上に、大事な側近候補を潰したくはない。余はお前以外の補佐など考えていないのだから己の健康にも気を遣えよ、オディオ」

「!」


 そんなレックスの言葉にオディオの唇がぎゅっと結ばれた。……なんだよ、レックスもオディオのことすっげぇ心配してたんじゃないか。俺はなんだか胸が暖かくなって、すぐに三人分の紅茶を用意する。


 ──そうして結局、俺達は三人で有意義で穏やかな午後を過ごしたのだった。

お待たせしました。連載再開します。

亀更新ですが、気長に付き合っていただけたら嬉しいです。

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