04 せっかく双子で転生したのだから魔法学校に入学する。
俺と桜がマドレーヌばあさんに引き取られて、十五年が経った。
ばあさんは奇抜な見た目をしてはいるが、本当の孫のように俺達を育ててくれた。
そうして十六になる今年、俺と桜は──ばあさんと暮らしていたモルテの森を出て、エボルシオン王国の中心に位置するエボルシオン魔法学園高等部に入学するのだ。本当は初等部、中等部を経ないと高等部には入れないのだが、そこはばあさんのツテで簡単な魔法の試験に合格し、入学を許可してもらえた。今だってばあさんを見ている周りの奴らが「伝説の魔女」だのなんだの騒いでいる。……ばあさん、どんだけ有名人なんだよ。
エボルシオン魔法学園はときファンの舞台となる学校。つまりは俺と桜の運命はここから始まる。そしてきっとこの遊園地一個分くらいの広大な学校のどこかに俺の推しであるリリスがいるのだ。真新しい制服に若干動きにくさを覚えつつ、暴れ出す心臓を抑える。
そこで俺は隣の桜をチラリと見た。桜の顔は森に棲んでいたゴブリンのように強張っている。
「レックス様レックス様レックス様レックス様……」
「おい、おい桜! 目を覚ませ! そんな顔であいつに会うのか!?」
「はっ! そ、そうだね蓮。ひとまず深呼吸。すーはーすーはー」
不意に、深呼吸を繰り返す桜の頭と、俺の頭に優しい皺だらけの手が降ってくる。
マドレーヌばあさんの手だ。
「いいかい。この学校で色んなことを学んでくるんだよ。基礎的な事は大体教えたつもりだ。このマドレーヌの自慢の弟子なんだ、自信を持ちな」
「おばあちゃん……今までありがとう」
「……ありがとな、ばあさん」
ばあさんはそんな俺達ににっこり微笑んだ後、すぅっと霧のように消えてしまった。流石に十五年一緒にいれば、夏休みまでばあさんにもう会えないという事実に少し寂しさを感じる。まぁ、妹の前なのでそんな情けないことは吐けないのだけど。
さてと。
俺と桜は顔を見合わせて、頷く。これでようやく、スタートに立てたというわけだ。
俺達を不思議そうに見る周りを気にせずに、バカでかい校門を睨みつけた。
「──行くぞ、桜。目的は分かってるな?」
「うん。私はレックス様と、蓮はリリスと幸せなルートを辿ること。そしてこの学園生活後もずっと幸せになること!」
「よし。この世界はゲームじゃない。ちゃんとした現実だ。選択肢もターン制の戦闘システムもない。何が起こるか分からない」
「了解!」
きっと大丈夫。何があっても、俺が桜を守ってみせるさ。
──魔族でもなんでもこい!
そうして俺達は勢いよく校門をくぐった。