03 せっかく双子で転生したのに引き取り先のばーさんが不思議すぎる。
ハッとなって目が覚めた時にはまたまた知らない天井が見える。
あーもう、次は一体どこに移動されたんだよ……。
桜は俺の隣でぐっすりと眠っていた。真っ裸だった俺達にはいつの間にか白い布のおしめが身についていること、自分が眠っている場所が木製のベッドの中であること、俺は一つ一つ周りの状況を丹念に確認していたが──。
「おや、もう起きたのかい」
「!?!?!?!?」
息が止まるかと思った。突然目の前に妖怪みたいなばーさんの大きな顔が現れたのだから。
え、もしかしてこのばーさんが俺達の引受人でローズさんの師匠!?
い、一体何の師匠なんだか……にしてもこのばーさん、どっかで見た気が……。
するとばーさんの周りにふわふわとオーブみたいな光の玉が漂ってくる。
な、なんだよアレ……お、お化けか?
そう思ったが、不思議と怖いとは思わなかったので悪霊ではないと思う。
「おやおや、妖精自ら名前を与えるだなんて。相当妖精に好かれているんだねぇ、この子達は。……えぇっと、こっちの男の子がレン、こっちの女の子がサクラってのかい」
すげぇこのばーさん、俺達の名前を当てやがった。
ばーさんは俺達の頬をつんつんつついた後、少しだけ悲しそうに瞳を揺らしながら俺達を見つめた。
「これから、お前達には様々な試練が待っているだろう。負けるんじゃないよ。アンタ達の母親のように、どうかいい子に育っておくれ。直に魔族達が動き出すと言われている。エボルシオンに預けるには、少々不安が多すぎるねぇ……」
そう独り言を呟くばーさん。俺はこの時、胸のモヤモヤがさらに深いものになった。
なんかこのばーさんも、ばーさんの台詞も覚えがあるんだよなぁ……この声もどこかで……。それに妖精、魔族、エボルシオンっていう単語も聞いたことが……あっ!
──この時、俺は今の俺達の状況がときファンの冒頭シーン、つまりはときファン主人公が主人公達の育ての親であり伝説の大魔女でもあるマドレーヌと出会ったシーンと合致することに気づいた。
そうそう、妖精が名前を与えたとかで自分が設定した名前を主人公につけられるんだったっけ。マドレーヌもこんな風に紫とピンクが複雑に入り混じったビジュアルで……ん? ちょっと待て。
と、いうことは。
俺達もしかして、「ときめき☆ファンタスティック」の世界に転生してないか!?
しかもおそらくは俺と桜は主人公枠!
……じゃ、じゃあ、もしかして……生のリリスとも、会えるだけでなく、こ、攻略できるかもしれないってことか……?
俺は赤子ながらに将来に希望を見出した。推しと会えるかもしれないというのに期待しないファンはいないだろう。
俺達はきっとこの後十五年間、マドレーヌの元で様々なことを学ぶ。そうして十六歳になるとマドレーヌのツテでエボルシオン魔法学園(高等部)に入学することになるのだ。
それが、俺と桜の運命。
リリスや他の女キャラに会えるのも凄く嬉しいけれど、とにかく今はこのマドレーヌに魔法やらなんやら色々と教えてもらわねばならん。
この世界はゲームの世界でありながらも、現実世界だ。おそらく前もって選択肢が用意されているわけでもないのでシナリオ通りに行かなくなる可能性もある。その上、この世界には魔族という人間に恨みを持つ種族がいるのだから、なおのこと危険な世界なのだ。
──もう二度と、目の前で大切な人が死なないようにすること。
それが、俺の中の絶対の信条として刻みつけられたのだった……。