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33 せっかくまた双子に産まれたのに……。【桜SIDE】


 悪魔を追って木々の根が埋まった足場の悪い地を走っていく。後ろから妖精女王(フェアリークイーン)とリリスが私を追って来る声が聞こえた。


「ちょっとサクラ! 待ちなさいよ!! はぁ、はぁ……うぅ、」

「! リリス様……! だ、大丈夫ですか? 別に追いかけてこなくてもいいんですよ? 病み上がりっていうか、悪魔上がりなんだし……」

「馬鹿! 心配でしょうが!! 貴女が私に悪魔召喚を禁止したように、私も貴女に危険なことをしてほしくないのよ!! 分かってますの!?」

「!」


 先程の騒動の後だと余計にリリスの言葉は嬉しくなる。無意識にニヤニヤしていたのだろうか、「何を笑っていますの!?」とリリスに頬を引っ張られた。


「それに、今回の件は私のお父様が起こしたこと! 彼の娘として私もあの悪魔を放っておけません! もし、あの悪魔が誰かの魂を食べたりでもしたら……それこそ、責任が……」

『ちょっと待って! 人の声が聞こえるわよ?』


 妖精女王の指摘に私達は耳を澄ませる。そうすると──親の声よりも聞いたイケメンボイスが私の耳に入った。この声だけは絶対に間違えない。レックス様だ。……と、いうことはつまり!!


「蓮っっ!!」


 私は先ほどよりも全力でその声の方へ駆けだす。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!! まさか、そんな! そんな、こと、あるわけがない!!

 根拠のない叫びを上げながら、声を辿れば──


「レン!! おい、レン!! しっかりしろ!! しっかり、してくれっ!!」

「レックス様!」

「!」


 ……私はこの瞬間、念願のレックス様との出会いイベントを達成することが出来た。しかしそんなことを言っている場合ではない。問題はレックス様の腕の中にいる私の唯一無二の双子の兄だ!!


「き、君は……レンの妹の……」

「レンはどうなってますか? もしかして黒い霧みたいなやつがここにきましたか!?」

「あ、あぁ。その霧がレンの身体に入っていって、しばらくしたらすぐに出ていったんだが……レンの身体が!!」

「!」


 私はレックス様から蓮を受け取る。蓮はされるがまま、何の意思も持たずにだらりと私に寄りかかった。すぐに頬に触れれば、私は一気に涙が溢れる。だって、だって──


 ──蓮の身体が、ありえないくらい冷たかった。


 呼吸もしていない。ただ、そこにいるだけ。私の背後でリリスが息を呑んだのが分かった。レックス様が何度も私に謝る。


「済まない! 余が、余がレンを守れなかった……!!」

「…………っ、」

「さ、サクラ……」


 ポタリポタリと、蓮の顔に私の涙が零れていった。私は思いっきり蓮の頬を叩く。蓮は「いってぇ! なにすんだよ桜!!」と、起き上がる様子もない。ただ、目を瞑っているだけ。嗚咽が漏れる。私の細胞一つ一つが振動しているような感覚に陥った。頭がぐちゃぐちゃになって、ただただ色々な想いが涙として消費していくだけだ。


「──れん、おねがい。めをあけてよぉ……」


 蓮は私のお願いはなんでも聞いてくれた。前世でもこの世界でも、我儘な私に仕方ないなと付き合ってくれた。私がお菓子を食べたいと言えばすぐに作ってくれた。私が電車で痴漢されたと電話した時は彼女との大事なデートを中断させてまで私の所まで走って駆け付けてくれた。怖いって言ったら一緒に寝てくれたし、お父さんと喧嘩した時はいつも一緒に謝ってくれた。……本当に、なんでもしてくれた、私の優しいお兄ちゃん。


 ──でも、今回の私のお願いはどうやら聞いてくれないようだ。


「もう、お願いなんて言わない……我儘言って困らせたりしない……っ!! だから、だからぁ……いまだけ、いまだけ、お願いを聞いて……っ! 死なないで、お兄ちゃん……!!」


 蓮はそれでも動かない。唇の色が紫だった。意味のない叫びが口から溢れていく。

 前世で私と蓮は殺された。それでもまた双子として一緒にいることが出来たのに……どうして。

 私はハッとなって、蓮に心臓マッサージを行う。いや、まだ諦めるのは早い! 絶対に諦めるもんか!


「サクラ、貴女何をしているの?」

「心臓マッサージ!! こうすれば心臓が動き続けてくれるんだから!! むしろ動かす!! 動け!!」


 非現実な事を言って奇妙な動きをする私はレックス様やリリスからしたらさぞ気が狂った人間に見えたことだろう。でも、それでも──


『──無駄なことをするのはやめなさい、サクラ』

「っ!」


 妖精女王の言葉にカッとなり、私は彼女を睨みつけた。しかし彼女は何故か美しく微笑んでいた。まるで、今の私が世界で一番美しいとでもいうくらいにうっとりしたように。


『サクラ、落ち着きなさい。泣いている貴女もとってもキュートだけど、今はそんな無駄なことに時間を費やしている場合ではないわ』

「! ……なにか、手があるんですね?」


 妖精女王が頷く。レックス様が「なに?」と妖精女王を見上げた。


『手はあるわよ勿論。でも条件つきネ! ──サクラ、以前のワタシのお誘い覚えてる?』

「え……」

『ワタシは妖精女王。欲しいモノはなんでも手に入れたくなっちゃう主義なのデス! だから、この場を利用してワタシは貴女を手に入れるわ。……サクラ、ワタシと契約して? そうしたら貴女のキュートなお兄さんも助けてあげちゃいマス!』

「!!」


 妖精女王は楽しそうに、歌うように、私に決断を迫ってくる。



『──さぁ、選びなさい人の子よ。貴女が最も大切なのは、なに?』

「…………、」



 

 ──その答えは、尋ねられた時から決まってる。

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