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30 せっかくブタバナを見つけたのに不気味なモノに襲われるとか最悪すぎる。【蓮SIDE】

 

 それからしばらく横になっていると、俺は自力で立てるくらいには回復した。気を抜くと立ちくらみに沈みそうなったりはするが、さっきよりはマシだ。


「お、おいレン。本当に大丈夫なのか? 妖精達にも散々引き留められたのだから、やはりここは辞退するべきでは……」

「いえ、それではペアであるレックス様も不合格になってしまいます。せっかくアレス国王と話すのなら試験を合格した土産話も持っていきたいですし、俺のせいでレックス様の名に傷をつけたくないです。それに……もし非常事態ならば試験中止の合図が鳴るはずです。あのキメラが凶暴過ぎたのはびっくりしましたけどきっと乗り越えないといけないんですよ」

「し、しかし……」

「レックス様。俺の意思を尊重してくれませんか?」


 まじまじと瞳を見つめてお願いすれば、レックス様は「うっ」と声を溢し顔を大袈裟に逸らす。桜がたまに俺にこうしておねだりするのを冗談で真似してみたのだ。勿論桜の上から目線+瞳うるうるのおねだりごときで俺は靡かな……いや、めっちゃ靡いてたわ。


「……仕方ない。苦しくなったらすぐに言うのだぞ」

「はい! 勿論です!」


 ただでさえ足手まといになっているのだから、気を引き締めなければな。熱っぽい身体を知らんふりして、俺はレックスと並んで森を進んだ。しかしどうにも気になるのは妖精達の怯え方だ。確かにあのキメラは恐怖そのものだが、妖精達が隠れるほどだろうか? 木の上の方に隠れていれば問題ないように思える。妖精達は俺を引き留める際、「怖いものがいるから駄目」と言っていたがそれはもしかしてキメラ以外の化け物だったりして。……考えすぎか!


 それよりも考えるべきことがある。あのキメラがいたってことはこの近くに「ブタバナ」があるっていう証明になるということだ。だってガーネット先生の魔物がブタバナを守る番人なのだから。冷たい風が俺とレックスを擽る。俺は両手で自分の身体を抱いた。熱っぽい俺の身体にはいい熱さましにはなるけど、今のは少し寒すぎた。そこで突然俺の視界が黒に染まる。


「うわ!? なんだ!?」

「着ていろ。少しはましだろう」


 俺の視界を遮ってきたのはレックスの上着だったようだ。レックスと上着に視線を往復させ、俺はありがたくそれを羽織った。おっきくて、あったかいな。そう言うと、レックスが転びそうになっていた。何してんだ。

 それにしても警戒していたキメラが見えなくなったのは気味が悪い。ありがたいけどさ。もしかして木の影に隠れて俺達を見張ってるんじゃないだろうな……。

 ──と、そんな俺の考えはレックスの声で一気に打ち消される。


「──レン! あったぞ!」

「っ!!」


 レックスの指さす方を見れば、苔だらけの木々の隙間から透明の地面が見えた。湖だ! 

 逸る気持ちを抑えてソレに向かって歩く。そして、ついに──湖の淵に沿って生えるピンク色の物体が目に入った。

 それは、豚の鼻みたいな植物だった。丸いピンク色の実に黒い鼻の穴みたいなおしべとめしべが二つ。しかもたまにその花は意思があるように実を湖の中につけて、水を吸収しているようだ。まるで豚の鼻が水を飲んでいるみたいに……ってブタバナってやっぱりそのままの見た目やないかーい!! 教科書を読んでなんとなく察していたけれどあからさますぎて思わずお笑い芸人のようにツッコんでしまった。


「レックス様! これがブタバナですよね!?」

「あぁ。あとはこれを引き抜いて……」


 ブタバナを根元から優しく引き抜く。するとブタバナが「ぶひぃ」と抜けた鳴き声を上げて大人しくなった。鳴き声もそのまんまかよ。俺はガーネット先生から預かっていた巾着袋にブタバナ数本を収納する。よし、後は来た道を戻るだけだ。


 だけど──。


『レックス様!! 気を付けてください!! 何か得体のしれないものがこちらに接近しております!!』

「き、キメラか!?」

『いえ、これは……まさか……いや、そんなの信じられるか……!』


 ヘクトルが真っ青な顔になって、その恐ろしいものが迫って来ている方向から目を離せないでいる。

 俺とレックスは剣を抜き、ソレの襲来に備える。その方向に生えている太く頑丈な木々が何かに押しのけられたような揺れ方をしはじめる。そして俺達の視界に飛び込んできたのは──。


「な、なんだ、アレは……!?」


 一言で言うと、闇だった。黒い煙が自分の意思をもって、こちらに凄い勢いで接近していたのだ。そして闇は木々を潜り抜け、俺とレックスの間を通り過ぎる。かと思えば、今度は頭上に、背後に、俺達をその驚異的な速さで翻弄するのだ。


「な、なななんだってんだよ!?」

【──オマエカ! ヨワッテイルノハ!!】

「!? レン、こっちに来い! 狙いはお前だ!」


 レックスに腕を引かれる。しかしその前に、その闇が俺の腹を直撃した。まるで猪にでも突進されたような衝撃が走る。唾液が飛び散った。その瞬間に──


【オマエノタマシイヲ、カテ二シテヤル!!】


 闇が俺の口の中に入ってきた!! 頭が一瞬で真っ白になる。


 俺は俺の名前を叫ぶレックスの声を最後に、意識が途切れてしまった──。

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