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18 せっかく悪役令嬢と仲良くなったのだから笑ってほしすぎる。【桜SIDE】


 リリスと私が一緒にいること。それが私が考えた「責任の取り方」。

 私はリリスが悪魔召喚しているのを止めた上に、今後魔物の血を飲むことを禁止した。しかしそれだと妖精と契約していないリリスはこの学園にいられなくなる。だから私が責任をとるのだ。


「──と、いうわけで! フックの森にとうちゃーく!!」

「……」

「……っ」


 テンションの高い私にリリスとデュナミスは無言を貫いた。

 というか、不機嫌なリリスをデュナミスが苦笑しながら宥めようとしているという図なのだが。ちなみにデュナミスにはリリスの事情は一通り話してある。妖精と契約している先輩として、デュナミスにも協力してもらう必要があるからだ。

 

「もう、なんでリリス様そんなに怒ってるんですか」

「ナンデもクソもありませんわよ!! 貴女のせいですわよサクラ!!」


 ぷりぷり怒りながら私の頬に人差し指を突き刺すリリス。

 まったく、一体なんだっていうんだ。


「こ、婚約者ともまだ手を繋いだことがないのに! その上『何があっても自分の傍にいてください』なんて言われてしまっては! そ、そそそそんなの、ぷ、ぷ、プロポーズだと……思ってしまうでしょう……!?」

「え?」


 言葉の最後の方がよく聞こえなかった。そう言うとリリス様は顔を赤らめて「馬鹿!」と私の頬を引っ張った。いたいれす。


「全く、悪魔に心を弄ばれたような気分ですわ! 本当に授業中も、食事中もただ一緒にいるだけだなんて!」

「? そりゃそうですよ。リリス様が妖精に嫌われているなら、妖精達と仲がいい私と一緒にいれば少しは緩和されるかと思って」

「貴女、人のコンプレックスをよくそこまではっきり言えますわね……」

「まぁまぁリリス様。そこがサクラのいいところでもあるんですよ。それでサクラ、どうして今日はフックの森に?」

「うん。リリス様と契約してくれる妖精を探す為だよ。学校よりも森の方が妖精の数は圧倒的に多いからね」

「わ、(わたくし)と契約してくれる妖精なんて……」


 リリスは俯く。余程今まで散々妖精達に拒否され続けてきたのだろう。自信がないようだ。


「リリス様、顔を上げてください。失礼します」

「! えっ、あ……」


 私はそっとリリスの唇の両端を少し引き上げた。丸くなったリリスの目が私を映す。

 以前、リリスの悪魔召喚を止めた際に気づいたことがある。それは妖精達がリリスを「怖い顔」と言っていたことだ。私はリリスが妖精達に嫌われているのは魔物の血を飲んでいることが原因だと推測していた。しかし話を聞くと魔物の血をまだ飲んでいなかった幼い時も妖精に嫌われていたという。ならば原因は他にあるというわけで、それがこのリリスの顰め面ではないかと思ったのだ。ときファンのロード画面に出てくるリリスの簡単なキャラ設定にも「常に完璧な王妃になろうと構えてしまい、しかめ面である」と書いてあったような。……まぁ、リリスにとっての「王妃」がここまでリリスの負担になっていたのは予想外だったのだけど。


「リリス様は完璧な王妃を意識しすぎです。少し力を抜いてみてください。だから顔が怖くなるんですよ」

「はぁ!? し、失礼な!」

「だって本当のことですもん。だから妖精が寄ってこないんです。こうして口角を上げて笑ったら、こんなに綺麗なのに」

「!」


 リリスの顔から手を離すと、リリスは両頬を両手で覆って、「あわわわ」と混乱しているようだ。そうして私に背を向けるとなにやらぶつぶつ独り言を始めた。何してんだろ、この悪役令嬢。


「はわ、はわわわわ……綺麗? 私、今、綺麗だって言われたのかしら? レックス様にも言われたことないのに……こ、ここまで媚びとかなしに真剣に言われたのは初めてだわ……」

「? リリス様は綺麗ですよ? 自覚なかったんですか? 凄く綺麗です!!」

「はぅわ!? に、にに二回も言われたぁ!?」

「さ、サクラ、そこまでにしといてやれ。それ以上はリリス様のキャパオーバーだ」


 私は本当のことを言っているだけだ。そう言うと、リリスの頭から湯気が漏れ始めたのでとりあえずこの会話は終わらせることにした。

 気を取り直して周りの木々を見る。妖精達は木の陰に隠れてこちらの様子を見ているようだ。ふーむ。


「じゃあリリス様、とりあえず笑顔の練習です。にっこり笑ってみてください!」

「えっ……あ……こ、こうかしら……?」

「!!」


 リリスが笑う。というか、これは……。


「怖い!」

「怖いですね」


 私とデュナミスの言葉が重なる。今のリリスは完全にひくひく唇が引きつってるし、目がもの凄い迫力があるというかなんというか……目玉が今にも落ちそう。こ、こんなの未来の王妃の顔ではない。というか、こんな顔見たら妖精どころか人間も走って逃げ出すよ!

 一旦、私はリリスの笑顔をやめさせる。


「り、リリス様……その、こう……さっき手で口角を上げたときみたいに、ちょっと上げてもらうだけでいいんですよ。目は見開かなくていいし、唇も無理しすぎです」

「な、なによ! 仕方ないじゃない。滅多に笑うことなんてなかったのだもの!」


 私とデュナミスは顔を見合わせた。たしかに、心からリリスが笑ったことなんて見たことないかもしれない。ゲームの立ち絵でもなかった。蓮ならリリスルート攻略してるし、見たことあるだろうけど。


 ……これは、少々難関そうだ。

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