表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/30

絶対絶命


☆★☆★




「何か言いたげですな?」


帰路にて、ドラクレイオスはラスカにそう声をかけた。先程から、彼女からの視線を幾度と感じていたのだ。

少女は一瞬戸惑いながらも、口を開く。


「しがい、ふえてました」


エレンとスーに聴こえないようにか、そう声を潜めて言う。


「む……」

「ちかくに、べつのむれがいたんですね」


あの二人が窮地になりかけていた時、不運にも敵に加勢があった。それらも相手に一人で立ち回っていたのだが、彼女には気づかれてしまったらしい。一匹だけラスカのいる方に逃がしてしまったのは不覚であった。


ーー実力は、あまり見せないようにしていたんですがなぁ


キラキラキラキラ……


目の前の少女は、黄昏時の空色の瞳を輝かせていた。その表情は、まるで無邪気な子供のようだ。


「ドラクさん、でしにしてください!」

「……ほ?」

「ししょうってよんでいいですか?」


キラキラキラキラキラキラ……


「む……まあ、いいですぞ。暇があればいろいろと教えますぞ」


ラスカの尊敬の眼差しに耐えられなかった。


「ありがとうございます、ししょう」

「ドラクでよいですぞ、ラスカ殿」

「はい、ドラクししょう!」


「参りましたな」と答えながら、ほっほっと笑う。


「ラスカ殿は、なぜそんなに強くなりたいのですかな?」

「わたしは、どうしてもぼうけんしゃとして、みとめてもらわないといけないんです。その……」


自分が何者なのか、知るために。


少女のその言葉は予想外のものだったからか、強く印象に残った。


「でも、ぼうけんしゃはかっこいいです。みんなのためにたたかって、すごいです。わたしも、そうなりたいです」

「ラスカ殿……その気持ち、忘れないでくださいですぞ」


ジーンと胸に熱いものが込み上げてきて、ゆっくりと息を吐く。


ぎゅるるるる………


「これ、感動をぶち壊さないでほしいですな」

「め、面目ないっス!」


ペコペコと頭を下げるスーの隣で、なぜかエレンが赤くなってうつむいている。まあ、あれだけ動けば腹が減るのは仕方がない。


……ごごごごご……


ーー今のは、お腹の音にしては……


「走るんですぞ、皆の衆!」


はっと叫んだときには、ラスカが二人の手を握り既に駆け出していた。突然のことで彼らは戸惑っていた様子だったが、すぐに異変に気がついたようだ。


四人の足元の地面が突然崩れ始めたのだ。固いはずの地がみるみるうちに細かくなり、砂になる。


「間に合いませんぞ!」


ドラクレイオスはガシッとスーを掴むと、彼の身体を勢いよく投げ飛ばす。細いスーの身体は簡単に宙を舞った。


「ひゃぁあああっ?!」


すっ飛ばされた彼が地面に落下したのが見えた。それなりに反射神経はいいので、何かの魔法を使って衝撃を軽減しているだろうーーと、信じたい。


同じ場所へ、エレンも飛んでいった。


ぎょっとして前を疾走する少女を見る。華奢な身体だが、まさか同じように投げたのだろうか。

そればかりでなく、目の前の少女の足の速さに食らいつくので精一杯で追いつけない。


ーーなんという力!




☆★☆★




「うぐ……っ……ぅ。」

「うわっ?!……って、スー!気絶するんじゃないよ!」


スーの上に落ちたエレンはパッと立ち上がると、つい先程までいた場所に目をやり、青ざめた。


「えっ……」


巨大な穴が地面に空いている。その縁にしがみついている少女の姿を見つけ、急いで駆け寄ろうとした。


「だめ、です!」


ラスカが必死に彼女を止める。見れば、わずかな振動でも土がポロポロと崩れていた。エレンもそれに気がつき、慎重に少女に近づく。


「ほら、あたしに掴まりな!」


そう言って穴を覗きこみ、絶句した。


ラスカは、片手でドラクレイオスの手を掴んでいたのだ。そして、鉢状になった穴の底には、蜘蛛のような姿の巨大な黒い魔物がいた。


「エレンさん、ラスカさ……」


復活して彼等のもとへ来たスーもこの光景に震えあがる。


「だめ、早く、一緒に逃げるんだよ……っ」


声を震わせ、涙目になりながらも、エレンはラスカの身体を引き上げようとする。スーもそれを手伝うが、二人が力を込めて引き上げようとすると、彼らの足元が崩れていくのだ。


ラスカのしがみついているところも崩壊し始め、がくんと身体が傾いた。

その下から、落ち着いた声が聞こえる。


「吾輩には構わず、手を離すんですぞ。ラスカ殿だけなら、まだ……」

「いやです!」

「ですが、このままだとそこも崩れますぞ」


ドラクレイオスのいう通りだった。穴は鉢状で側面に身体は付いているのだが、中は細かい砂になっているので踏ん張ることができない。もがいてももがいても、砂の中に埋もれるだけだ。


穴の底では、長い手足を動かしながら獲物を待つ魔物の姿が見える。


「……」


ふと、少女は沈黙していた。何かを思案しているのか、ラスカは魔物とドラクレイオスに目を向ける。

彼はその視線をどう受け取ったのか、小さく頷いた。


ぱしんっ


握られた手が一瞬緩んだのを見て、ドラクレイオスはそれを振り払った。


「エレンさん、スーさん!」


二人の悲鳴を遮ったのは、少女の声。

ラスカはハッとする彼らを見上げると、にっこりと笑った。


「かえりましょう、みんなで。ここはあぶないので、もっとはなれてください」




そして、ぱっと手を離した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ