対集団戦
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四人は時間短縮のため、移動しながら話を進める。目的地は、王都の郊外に広がる森だ。
彼等のパーティーは、エレンが中距離から遠距離の攻撃、スーが魔法での回復や防御、ドラクレイオスは敵に合わせて戦闘スタイルを変えているという。ほとんど接近戦を担っていて、武器はなんでもいいらしい。
「ところで、ラスカ殿はどうやって戦うんですかな?」
「え……ドラク、そんな大事なことも聞いていなかったのかい?」
「あり得ないっス」
「ほっほっほっ……」
上下関係がよく分からない三人である。
ラスカは背中の荷をといて彼らに見せた。三人共、中から取り出した巨大な剣に目を見開いた。
「それ、ラスカさんの身長くらいあるっスよ……」
「さすがに驚いたね」
「これで接近戦はラスカ殿に任せられそうですな」
ドラクレイオスがほっほっほっ、と笑った時、ガサガサッ……と四人の元へと近寄って来る者がいた。
森の中の茂みから四人の目の前に現れたのは、子供くらいの大きさの魔物の群れだった。
二足歩行していて、身体は人に近い。目はギラつき、大きな耳は尖っている。口からは不揃いな歯が垣間見えて、そこから垂れる涎が醜悪な顔をさらに不快なものにしていた。
それが、七匹いる。
「……上っス!」
スーの言葉と同時に、木の上に潜んでいたらしい魔物が飛びかかってくる。どうやら八匹の群れだったようだ。
ヒュンッ
すでに弓を構えていたエレンが落ち着いた様子で矢をいる。それは見事に命中し、地面に落ちた魔物にドラクレイオスが拳でとどめをさす。
それを皮切りに、戦闘が始まった。
「見ているんですぞ、ラスカ殿」
息絶えた魔物が持っていた棍棒を片手に、彼は魔物に踊りかかる。その攻撃が魔物の腕を潰し、怒り狂った相手が反撃してきた。
「ウォール!」
すかさずスーが壁を作り防御。魔物が壁にぶつかったところに、エレンが矢を放った。今度は急所に当たったのか、すぐに動かなくなる。
これで、あと六匹。
ーーなるほど、エレンさんの攻撃は軌道を変えられないから……
エレンは魔物が避けられないと判断した時にだけ攻撃していた。魔物の動きを先読みする必要があるため、相手の着地点や、攻撃の前後に生まれる一瞬の隙をついている。
その時、三匹の魔物達が標的をエレンとスーに切り替えた。スーがすぐにそのことに気がつき、彼女のもとへ駆け寄る。
「ちょっと、なんでスーまで来るのさ?」
「エレンさんを守っている時に僕が攻撃されるかもしれないからっス!まだ魔法の同時発動は無理っス!」
スーは自分とエレンを守るように壁を作る。その周りを、魔物達が攻撃し始めた。
つまり、包囲される形となっている。
「スー!これじゃ、いつまでたっても攻撃できないじゃないかい」
「あ……そうっスね」
ーーえ、詰んでる?!
ラスカは剣を抜くと、二人を囲む魔物に急接近。一匹を二人から引き離すように切り飛ばし、すぐに離れる。
二匹の魔物はキッとラスカの方を向くと、同時に突進して来た。
慌ててスーが魔法を解除し、二人は素早く左右へと散った。
「スーさん、いっぴきのまえにかべ!」
「……了解っス!」
どんっと、一匹が目の前に現れた壁に激突している間に、ラスカはもう一匹の攻撃を避けながら剣を水平に返す。魔物は突進を止められずに自ら刃に突っ込んだ。
壁にぶつかった一匹には矢が刺さっていたが、さらに短剣を投じる。
「ギッ……」
眉間から後頭部へと貫かんばかりの勢いに、標的は断末魔さえもなく崩れ落ちた。
じきに息絶えるとはいえ、負傷した魔物は危険度が増す。だから、素早くきっちりと絶命させなければならないのだ。
「ラスカ殿!」
「わかってます!」
ドラクレイオスの声に振り向きざまに、剣を横に一振り。背後にいた魔物が飛び上がったところに矢が刺さり、落ちてくるタイミングを見計らって下から勢いよく突いた。
「はっ!」
剣が魔物を貫き、ぼとりと死骸が落ちる。
ドラクレイオスも二匹倒していたようなので、これでようやく八匹が全滅した。
☆★☆★
「ほっほっほっ、見事でしたな。我輩は結局三匹ですぞ」
「あたしはたった一匹だよ」
「残りはラスカさんが仕留めたっスからねー」
「いえ。みなさんの、おかげです」
首を横に振るが褒められるとむず痒い気持ちとなり、ラスカはただはにかんだ。
「でも、防護壁をあんな使い方するなんて、思いつかなかったっスよ」
スーの言葉にドラクレイオスがふと真顔になり、顎に手を当てる。
「しかし、今回は本当にラスカ殿に助けられましたな。魔物が六匹になった時、三匹は我輩に、三匹はエレンとスーに別れたんでしたな?」
「ああ」
「そうだったっスね」
「一人に対し相手が複数というのは普通は分が悪いんですな。エレンとスーは、周りを囲まれ攻撃も脱出も、我輩の援護もできない状況になってしまった」
「「……」」
ドラクレイオスだったから良かったものの、実力のない冒険者だったら最悪の状況だったに違いない。
「そこへ、ラスカ殿が三匹のうちの一匹を派手に切り飛ばして、残りの二匹に自分の存在をアピールしたんですな。奴らの意識を、二人から自分に向けるために」
あのとき、ラスカは魔物からかなり距離をとった。二匹のうち一匹でも向かってくるなら一匹ずつ、向かってこなければまたアクションをかけるつもりだった。
結果、二匹同時に突進してきたので、スーに一匹を足止めしてもらい、やはり一匹ずつ倒したのだ。
「なるほどねぇ。あの二匹の意識があたしたちから外れたから、あたし達も脱出して背後から攻撃できたんだよねぇ」
「あの状況でここまで考えていたなんて……頭がいいっス……」
「ほっほっほっ、二人もいい勉強になったようですな」
満足そうに笑う彼を、ラスカはじっと見上げていた。
戦闘シーンの視点というか、状況って分かりにくいですね(^_^;)
よければ、アドバイスお願いします。