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助言、そして街へ

お母様登場。

一瞬だけ。

ラスカは慌てた様子を見せず、剣を思いっきり引いた。突然のことで人形はバランスを崩し倒れる。それでも、彼女の剣は人形から離れない。

それを見て、彼女は剣を真っ直ぐ引くのではなく、ぐっと上から押し付けた。剣は氷人形の身体を斬り抜けていく。

「……っ！！」

抜けた瞬間に鋭く息を吐き、人形の上まで跳躍。そのまま落下と同時に身体を回転させ…

ガッシャァァアンッ！！

彼女に振るわれた剣によって、人形は見事に真っ二つになった。

「おおー」

思わず感嘆の声をあげ、パチパチと拍手する。そこへ、頬を紅潮させた少女がはじけんばかりの笑顔で駆けてきた。

「レイ、やったです！」

「うん、見てたよ。すごいじゃん」

感心し誉めていると、ディークリフトが彼女に何かを言いかけた。

「お前……」

「はい？」

「……いや、何でもない。また今度練習しよう」

まっすぐに目を向けられてたじろいだのか、青年は言葉を濁す。

「はい、おねがいします。ありがとう、ございます」

ラスカは律儀に頭を下げて、嬉しそうに屋敷の中へ入っていく。

それに続いて仕事へ戻ろうとしたレイは、ディークリフトに呼び止められた。

「あいつの剣は、岩をも砕く」

「へ……？」

突然、どうしたのかと尋ねるよりも前に、青年は呟くように言葉を続けた。

「俺の氷が斬られた」

そこらの魔術師と比べても、ディークリフトの右に出る者はいない。ましてや魔法を使わない相手なら、どんな屈強な男でも……例外はいるが……大抵の者は傷をつけるので精一杯だ。

「あいつは、俺の氷を斬った」

「……！」

言葉を失っていると、ディークリフトはすっと目を細める。

「面白くなってきたな」

ーーー

それからしばらくすると、ディークリフトとレイは出かけていった。一人残されたラスカは、部屋で本を読んでいる。レイがラスカの勉強のためにと、いくつか買ってきてくれたものだ。

数あるなかから、彼女は魔法についての本を選び、読みふけっていた。

「まほぉ……」

ラスカはつい先程見たばかりの光景を思い出していた。

生み出された氷の人形。それを指先の動きで操るディークリフト。

ーーかっこよかったな。

ふとディークリフトと同じように指先を動かしてみる。もちろん何も起きないが、彼女は楽しそうに魔法を使う真似をしていた。

その時ーー

「え？」

ピカッと部屋の中が光り、振り動かしていたその手に何かが当たる。柔らかい感触に反射的に振り返ると、たおやかに波打つ髪の美女と目があった。

「え……？」

妙な沈黙があったが、その思考には電撃がはしっていた。

ーーもしかして、召喚しちゃった？！

「えっと、あの、ごめんなさい」

「……なぜ謝るんですの？」

ペコペコと頭を下げるが、女性は首を傾げてはなぜか可笑しそうに口角を上げる。それから周囲を見回して、広げられた本と、ラスカと、その背中の剣に目をとめた。

「ディークやレイちゃんがあんなに楽しそうなんですもの。私も貴女に会ってみたくなったんですの。

でも、貴女が……意外ですの」

「あ、あの……」

じーっと見つめられ、居心地が悪くなり身じろぎする。

「申し遅れましたの。私、ディークリフトの生みの親ですの」

…………。

「えええぇぇ？！」

「とても良い反応、ありがとうですの」

女性はにっこりと微笑んだ。たしかにディークリフトは美青年だし、彼女もかなりの美女だ。だが、親子というにはあまりにも若すぎる。

「単刀直入に申しますの。貴女、ディークにギルドで働きたいとお願いするんですの」

「ぎるど……？」

「その方がきっと記憶もはやく戻ると思うんですの。それに、なにより楽しくなりそうなんですの！」

『楽しくなりそう』……やはり親子である。

女性はウキウキと話しているが、ラスカはよく分かっていない。そもそも、まだ状況を理解していない。

「あの……」

「もう戻らないといけないんですの。また会いましょうですの」

再びの閃光の後、女性の姿は跡形もなく消える。入れ違う形で、ラスカの部屋に飛び込んできた者がいた。

「ディークリフトさん……？」

「……逃げられたか」

入れ違いになったのではなく、あの女性は意図的に出ていってしまったらしい。

少し遅れて来たレイは困惑の表情を浮かべる。

「あれ……？確かに気配がしたんだけど」

「おんなの、ひと、きました」

「ラスカ、その人に会ったの？！」

驚くレイに、ラスカはこくりと頷いた。ディークリフトもこれには想定外だったらしい。

「あいつが、お前に会ったのか。何か言ってたか」

彼が珍しく詰め寄るように話しかけるので、ついたじたじになってしまう。

「ぎるど、はたらくと、いいって」

「ギルドのことを言ってたのか」

それを聞いて青年は口を閉ざし、何かを思案する。

「ギルド、か……確かに情報は集まるし、金も稼げるが……ま、いいだろう。あいつの助言なら」

途中までは慎重に考えていたが、やはり最後はいいかげんなところがある。彼は迷わないのだ。

「ギルドの前に、町案内からだな。準備しろ」

聖域に来てからはや数十日。

ラスカはついに、町へ出る！