少女と剣
ちょこっと戦闘シーン出ます。
ーーー
ラスカは物覚えが早かった。
言葉も少しずつ覚え始め、かたことだが話せるまでにはなっていた。
「レイ、よろしく……、です」
庭の中央で、ラスカは真剣な表情で頭を下げる。その様子に、レイは苦笑いをせずにはいられない。
「よろしくお願いします、だよ。別に敬語じゃなくていいんだけど……」
彼女が来てから、レイの生活も変化した。仕事の量が減ったのは確かだし、空き時間にはこうして剣の練習に付き合っている。自分自身も楽しんでいるので、今の生活は充実しているといえる。
「じゃあ、いくよ」
「はい!」
細身の剣を手に取ると、ラスカに向かって切りかかる。次々と攻撃を繰り出すが、彼女はすべて防ぎきった。
ラスカが持っていた剣は、恐らく彼女が記憶喪失になる前から愛用している物だろう。彼女は覚えていなくても、身体が使い方を覚えているのだ。
しばらく手合わせした後で、いつからかディークリフトがこちらを眺めていた事に気がつく。
「あっ、ディーク。研究は終わったの?」
「おつかれ、です」
「お疲れさまです、だよ」
ディークリフトはラスカと、彼女の持つ剣に目を向ける。少女が持つには不釣り合いな大剣だが、彼女はある程度使いこなせていた。
「ここに来た時から練習していたのか」
「違うよ、まだ数日。オレと実戦してるのは昨日から」
「そうか。今日は俺と戦ってみないか」
最後の言葉は、ラスカに投げ掛けられたものである。彼女は困惑した表情でディークリフトを見上げた。青年は心配ない、とひらひらと手を振る。
「怪我をしないよう配慮もする。それに、俺も身体を動かさないとな。お前も、実戦してみたいだろう」
ラスカがレイに攻撃をしていなかったのは、彼女の大剣にレイピアが耐えられないからだ。本当は攻撃も試してみたくてうずうずしていたようで、二つ返事で了承した。
「よろしくおねがいします」
少女は軽々と剣を持ち上げ、構えた。流派等に当てはまらないその動きは荒削りで、ごく自然体だ。流動線の刃が白く輝く。
対するディークリフトは剣を持たず、手を滑らかに動かした。彼のはめている指輪が、淡い光を放ち始める。
ピキピキピキピキ……
目を見開くラスカの目の前に、氷の塊が現れる。それはあっという間に大きくなり、人の形になった。目や口などの細かいパーツはないが、それには頭があり、身体があった。そして、手には氷の剣が握られている。
「すごい……!これ、なに?」
驚きと、興奮と、感動。ラスカはそれらを一度に感じたような反応を見せる。そんな少女にきょとんとしながらも、レイはぽつりと答えた。
「魔法だけど……?」
「まほぉ、すごい!」
どうやら、魔法を知らないらしい。人間の住む国では、魔法が使われていない国の方が少ないので、彼女のような人は珍しい。
「集中しろ。お前の相手はそいつだ」
ディークリフトは指揮者のように片手を振り動かした。それに合わせて氷の人形も動き出す。
「うごく……?!」
「当たり前だ。……いくぞ」
言い終わるやいなや、氷の人形がラスカに襲いかかる。少女はしっかりと攻撃を受け止めると、思いっきり押し返す。同時に大剣を振るった。
「……えいっ!」
その一撃はあまりにも単純で、氷の人形に簡単に受け止められる。しかし、ディークリフトが僅かに目を見開いたのをレイは見逃さなかった。
二度、三度と剣が交わる度に、ラスカの目が輝き、表情が生き生きとし始めた。身体が感覚を思い出してきたのだろう、徐々に動きにたどたどしさがなくなってくる。
「……ディーク!」
「何だ」
試合の場から少し離れたところで人形を操作しているディークリフト。その隣にいながらも、声をあげずにいられなかった。
「なんか、ラスカが……本気になったみたい」
人形の攻撃に、ラスカが大きく後ろに跳躍し衝撃を軽減したところだった。顔をあげた彼女の目には、さっきまではなかった何かが宿っている。
「今までは準備運動か」
ディークリフトはどこか楽しそうだ。
そんな彼の前で、ラスカそれまで見せなかった速さで間合いを詰める。振り下ろされた大剣は、人形の左腕をとらえた。
キイィィ……ィン
氷は砕けちり、瞬間、ラスカの剣にまとわりつく。もちろん、ディークリフトの仕業だ。氷の分重くなったにもかかわらず、少女の振る剣の軌跡はぶれない。
「ふむ」
ディークリフトはラスカの剣と氷の人形が触れるタイミングですっと指先を動かした。直後、少女の剣にまとわりついている氷と人形がくっつく。
ラスカの動きが封じられた。