3/32
雪と月
「月が綺麗だね」
「あんたの瞳の次にな」
まただ。私が何か言う時、彼はいつもこんな感じに返してくる。私の言葉をうまく拾って、私のことを褒めてくる。
嬉しさと恥ずかしさが心の中でグチャグチャになって、よく分からない気持ちになる。
「どうした、顔赤いぞ? 風邪か?」
「誰のせいで赤くなっていると思っているのよ……」
「誰のせい? 分からん」
(鈍感なんだから……)
「何だ、いつもらしくないな。まあしおらしいのも可愛いけど」
ドキン。胸が激しく鳴った。顔がさっきよりも赤くなってくるのが手に取るように分かり、彼に顔を向けることが出来ない。
(何でそんな言葉が簡単に出てくるの?)
昔からそうだった。彼の甘い言葉に、私は酔いしれていた。その甘い言葉を、もっと聞きたい。願わくば、私の耳元で囁いてほしい。
(でも彼は、きっと……)
「お、雪だ。なあ葉月」
「何? 卯月」
「いつか雪遊びしたいな。子どもと、三人で」
「ば……馬鹿ぁ」
力無く座り込んだ私は、未だ彼の顔を見れないまま、そう口にした。




