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宝石鳥の卵

「卵一つ一千万? ふざけているのか!?」


 とある国の、とある街の端っこにて。今日も一人の商人が罵声を浴びせられている。向かいの店からその光景を毎日見ている(というよりは見せられているというべきか)俺は、そろそろ商人が可哀想に見えてきた。


「おーい、向かいのあんた。何の卵か知らないが、一千万は流石に高すぎるだろ。客が誰一人来なくなったら商売が成り立たなくなるし、もっと安く……」

「心配ありがとう。だがこれ以上安くは出来ないんだ。何せこの卵は()()()卵じゃないからな」

「は? ただの卵じゃないって、じゃあ何の卵だよ?」


 俺の問いかけに対し、答える代わりに俺の目の前へ行き、あるものを見せた。虹色に輝く楕円形の球体。それの正体に気づいた俺は、商人がいかに愚かな男だと実感した。


「あんた、これ宝石鳥の卵じゃないか!! ある国では国宝にすらなっているこの卵を、一千万で売ってしまうのか!?」

「売りはしない。この卵の売り手はもう決まっているからな」

「売り手って、それは一体?」

「お前だよ」


 頭の思考が停止したのを実感した。それはそうだ、何せ国宝級の代物を売ると言われたのだから。


「はぁ!? そんなこと聞いてないぞ!? それに一千万なんて持ってないし、そもそも何で俺なんだよ?」

「この卵が、お前を選んだ。だから卵が孵化するまで待っていたのさ。一千万は、誰もこの店を利用しないようにする為のフェイクだ」

「俺を、選んだ……?」

「生まれたら、しっかり育てろよ。やがて宝石鳥に導かれ、この世界を旅する日の為に」


 商人から虹色の卵を受け取って、両手で優しく包み込む。卵の中で眠るヒナの小さな鼓動が、殻ごしに伝わってくる。

次話で十話の短編となります。いつもとは一味違ったものを用意する予定なので、お楽しみに!!

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