表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きた屍 拾う少女  作者: 潰れたアリ
2/2

2.虚構の絆 [後編]

 通常、葬儀を行う技法としてメジャーなのは『火葬』と『土葬』の2つだ。

 珍しいものでは、屍肉を好む鳥に遺体を食べさせる『鳥葬』や、遺体を雨風に晒して風化を待つ『風葬』などが挙げられる。他にも信仰する神や宗教によって、葬儀の仕方は幾通りも存在する。


 この通り、葬儀の仕方など何通りも存在するが、どれが正しい技法かなんてありはしない。

 正直に言ってしまえば、死体を処分出来てしまえばなんでもいいのだ。

 だが、そこに問題が無いわけではない。


『火葬』を始めとした遺体の残らないものならば問題は無い。残ってしまった骨や異物を処理する事後処理があるだけだ。

 しかし『土葬』などの遺体の残るものには深刻な問題がある。


  それは死体の屍食鬼(グール)化だ。


 屍食鬼(グール)とは、命ある生物を襲い、人肉を好んで食す魔物の一種である。

 屍食鬼(グール)は性行為を行えず、同種の増殖を自らの意思で行うことは出来ない。

 だが、屍食鬼(グール)という魔物は自然現象であり、死体が悪しき力に取り憑かれることで発生する。


 つまりは、遺体の残る葬儀を行えば、その遺体は屍食鬼(グール)になってしまう恐れがあるのだ。


 これを防ぐには、屍食鬼(グール)の根源となる悪しき力と対極に位置する聖なる力──聖職者の祈りを遺体に込める必要がある訳だが……






「終わりました」


 ユティー・ティアナックはその工程を自身の血を使うことで補っていた。


「吸血鬼の力、こういう場面では便利ですよね。

 屍食鬼(グール)に犯される前に、遺体を支配下に置くことで屍食鬼(グール)化を防ぐなんて」

「そのかわり、日中は外に出るのも一苦労です」


 ユティーは天を仰ぎ、夜の帳が下りたことを確認すると、頭を覆っていたベールを外す。


 太陽が地平に沈み、星の瞬きが煌々と空を照らす。

 雲の流れが早い。太陽の暖かさを失った風が吹き荒び、その身の体温を奪い去って行くのを定かに感じる。


「明日は朝から棺の準備です。今日は風も強いですから体が冷える前に休みましょう」

「はい、お嬢様」


 ユティーとリメルの2人は風から身を隠すように寄り添いながら、屋敷の中へと戻った。




 □□□




 翌日の夕暮れ。予定通りに葬儀は行われた。

 参列者には『金剛の楔』の者や、ノブルム氏の関係者が多く集った。


「──神の身元で安らかな眠りがあらんことを」


 定型文である祝詞をユティーが唱え終えると同時に、ノブルム氏の遺体の入った棺は墓石の下に埋められる。

 棺の中にはノブルムが愛用していた、高価な鎧や美しい装飾のされた武器が共に納められている。

 掘られた穴に棺が置かれ、縁のあった者たちが変わりがわりにスコップを持ち、上から土を被せてゆく。

 その光景に嗚咽を漏らす者もいれば、ただ静かに黙祷を捧げる者もいる。共通しているのは皆が悲しんでいる事実。






「神の存在など信じてないのによく言う」


 遠く離れた地にて葬儀の様子を眺めていたヴァーデは言葉をこぼす。


「ヴァーデ様は今回の葬儀は何かあったんですか?」


 葬儀の様子を眺めてながら醜態をつくヴァーデに、リメルが話しかける。


「何故だ?」

「いえ、普段よりも言葉がキツイ様に思えたので」

「鋭いな。あのノブルムと言う男、人による他殺だ」


 ヴァーデの発言にリメルは表情を険しくすると、声をすぼめてヴァーデの耳元で囁いた。


「……本当ですか?」

「ああ、ノブルムは優秀な冒険者だ。それは装備から見た稼ぎで分かる。そんな優秀な冒険者様が魔物の出るところで完全に背後を取られるわけが無い。

 それに死因の傷を見ただろう? あの大きさの傷は非力なゴブリンごときには無理だ。犯人はノブルムを油断に誘え、力のある身内の犯行だろうな」


 ヴァーデがエスラナを煽った時、実際はこう言おうとした。

『ふっ、向こうでゴブリンごときに不意を突かれたと言っていたが……

 ──ゴブリンがこれほど大きな傷をつけられるわけあるまい。これは不意をつける親しい人間による殺人だ』


 しかし、ヴァーデはそれを言えなかった。確信を突くような事を言って戦闘に持ち込みたくなかったのだ。


『金剛の楔』の関係者の犯行なのは、火を見るよりも明らかだが、何処までの人間が関わっているか判断出来なかった。

 リーガルドは間違いなく黒。そうでなくては『ゴブリンに背後からやられた』などと嘘はつかない。

 だが、エスラナはどうだ? もしエスラナも犯行に関与していたのなら、戦闘に発展した場合、別々の場所にいるユティーとリメルを同時に守り切ることが出来ない。

 実際、リーガルドもそれを見越してエスラナと2人で来たのだろう。監視の意味も込めて。


「カマをかけた結果、エスラナは白と判明したがな」


 ヴァーデは呆れたように溜息をつく。敵が1人ならば、何も問題が無かったため、無駄に警戒して損をした気分になったようだ。


「しかし『金剛石よりも硬い絆』だったか? 内輪揉めを黙認しなきゃ組合を維持出来ないとは、あまりにも酷い皮肉だな」


 今度こそヴァーデは本当に嘲笑う。侮蔑をたっぷりと込めたそれは、近くで見聞きしていたリメルを引き笑いにさせるほどだ。


「う〜ん、本当に偶然と言う可能性は無いのでしょうか?」

「可能性は0ではないが……まあ、あり得ないだろう。賄賂を受けっているからな」


 今回の葬儀の報酬は『ナーザル硬貨』で金貨6枚。

『ナーザル硬貨』とは、隣国であるリツシィ王国が発行している硬貨で、他の国の硬貨よりも貴金属の使用率が高い。これはつまり、同じ額の硬貨でも『ナーザル硬貨』の方が信用があり、価値が高いと言うこと。


 今回の規模の葬儀ならば、相場はナーザル金貨2枚で事足りる。しかし、リーガルドは価値の高いナーザル金貨を6枚も出した。正真正銘の賄賂だ。


「うへぇ〜気分悪いですね。またうちにこの手の依頼が来るのでしょうか……?」

「それはないだろうな。今回だけが特別だ」


 何度も言うように、ノブルムは腕の立つ冒険者だ。ならば知名度も十二分に高いはず。そうなると急に消えた理由を説明する嘘が必要になる。生半可なモノだといずれバレる。そのため、今回はこちらを利用して死因を変えた上で、あえて死んだ事実を公開したのだろう。

 異端者の処分は頻繁にやってるみたいだし、手際もいい。必要以上は外部に頼らんだろう。


  ──それよりも警戒すべきは、リーガルドという男だ。

 向こうも此方の力量を知っているため、流石に今すぐにと手を出してくるわけでは無いが、いつ口止めに走るか分からない。


  だが


  もし

  もしも


  ──強引にでも武器を取るようならば……



 影は歪む。

 口元が大きく釣り上がり、獰猛に、醜悪に、鮮烈に、その殺気を滲ませてゆくように振りまく。

 辺りの気温は下がり、背筋が凍りつくほどの悪寒は、この影に触れてはならないと知らしめる。




「あなたは盛りのついた猫ですか? 駄犬の分際でそんなに興奮しないでください」


 背後から凛としていて、何処か艶かしい声が届く。

 声の正体はユティーだ。どうやら葬儀が終わり、2人の元に来たらしい。


「帰って夕食にしましょう。リメル、今日のメニューは何ですか?」

「山菜と川魚が安かったので、煮付けにしました!

 少し辛めに仕立てたので、甘めのワインとよく合いますよ」


 2人は仲睦まじく帰路につく。

 気分が冷めたヴァーデは深い溜息をつくと、辺りの影に溶けるようにその場から消えた。

[キャラ紹介]

名前 : ユティー・ティアナック

一人称 : 私

年齢 : 秘密です

身長 : 166cm

体重 : 秘密です


好物 : 美少女の血液

苦手なもの : 日光、蛆虫



平和な街で葬儀屋を営んでいる吸血鬼。

従者として『リメル』と『ヴァーデ』を従えている。

常に敬語や丁寧語を使い、一見真面目な人に思えるが、発言内容自体は相手を罵倒していることが多い。特に従者の『ヴァーデ』に対しては酷い。

普段から修道服を着込んでいるが、これといって信仰を持っているわけではない。修道服を着ている理由としては

「依頼主が勝手に勘違いしてくれる上に、日光を防ぎながら最低限の愛らしさを兼ね備えている」

と言うのが本人談。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ